クイズ対決

「「………。」」


ヒリついた空気。

緊張感と闘志が周囲に溶け込む。


「それでは始めましょうか。」


なんでこんな事になったのか、私には分からない。


「オレは負けねぇ………!」


しかし、ただ1つ、分かる事がある。


「それはこっちのセリフだ!丹野!」


私は欠片も負けるつもりはないと言う事だ。






時は放課後。

それは竹塚の見せた1枚のプリントから始まった。


「これを見て下さい。」

「ん?どうした?」

「『クイズ研主催!クイズ大会!』って書いてあるな。」

「今度校内でクイズ大会が開催されるそうなんです。」


伊江が読み上げたように、クイズ大会の開催を告知するプリントだった。

クイズ大会、か。

竹塚ならもしかしたら優勝できるかも知れないな。

応援くらいはしてやるか。


「へぇ。頑張れ。竹塚なら優勝だって夢じゃないと思うぞ。」

「はい。頑張りましょうね。安達。」

「え?」


おかしい。

私は竹塚に激励の言葉を送ったはず。

それなのに何故か私も参加するっぽい雰囲気で返されたぞ。


「いや、私は参加するなんて一言も言ってないんだけど。」

「参加者が多い方が楽しいですから。それとも安達は自信が無いんですか?それなら無理に誘ったりはしませんが。」

「は?自信?おいおい竹塚、誰にそんな事を言ってるんだ?自信ならたっぷりだ。自信があり過ぎて寄付出来るくらいだぞ。」

「そんな物どこに寄付するんだよ。受け取り拒否されるからな。あと竹塚、安達を参加させたところでコイツの頭じゃ予選落ちするのが関の山だからな。」


竹塚、その挑発乗ってやるぞ。

予選落ちどころか世界大会にだって進出してやる。

世界大会があるかどうかは知らないけど。


「話は聞かせてもらったぜ!」

「丹野!」

「クイズ大会の優勝はオレが貰った!」

「なんだと!?」

「馬鹿ってなんで自分が馬鹿であることを認識できてないんだろうな。」

「馬鹿だからじゃないですか?」


ここで新たなチャレンジャーのエントリーだ。

しかし丹野、優勝は私のものだ。

何故なら私の方がお前よりも賢いから。

伊江と竹塚が何やらコソコソと話しているが、そんな事はどうでも良い。

丹野の宣戦布告、確かに受け取ったぞ。


「私を差し置いて優勝宣言をするなんて、良い度胸だ。後で後悔するぞ。」

「それはこっちのセリフだぜ。だってオレの方が安達より賢いからな!」

「はぁ?私の方が賢いに決まってるだろ!」

「じゃあクイズ大会前の練習をしましょうか。」

「「練習?」」

「なんかまた碌でもない事になりそうな予感がするな。」






そして現在に至る。


「それでは早押しクイズ対決と行きましょうか。」

「そのボタンどっから出したんだよ。」

「予行演習をしておこうと思ってクイズ研究会の友達から借りてきました。」


竹塚はカバンから早押しボタンを取り出し、私と丹野の座っている机の上に置く。

相変わらずの準備の良さだ。


「この勝負、オレの勝ちだぜ。」

「随分自身があるな。」

「なんたってオレは運動部だからな。帰宅部の安達と違って反射神経を鍛えられてるんだぜ。」

「これはダメそうだな。」

「それだったら私だって日々竹塚に課題を手伝ってもらって知恵を磨いているんだ。この勝負は私の勝ちに決まってるだろ。」

「こっちもダメそうだな。」


そして私と丹野の死闘が幕を開けた。


「第1も『ピンポーン!』ん、早いですね。」

「これがオレの早押し力だ!」


なんて速さだ!

流石に自信があると言いうだけの事はある。


「確かに中々の早押しですね。丹野に1ポイントあげましょう。」

「やったぜ!」

「で、回答は?」

「分かんねぇ!」

「ダメダメじゃん。」

「こうなるとは読めてたけどな。」

「丹野はお手付きでマイナス2ポイントですね。」

「マジかよ!?」


まぁいくら速くても正解が分からないんじゃ意味が無い。

丹野よ、お前の早押し力はこの戦いでは活かされないだろう。


「では気を取り直して、第1問。芥川龍之介の作品で、とある門の下で雨宿りする下人と老婆を描いた作品の名前は?」

「???」

「目に見えて『分からない』って表情してるな。」

「下忍って事は忍者のお話か?」

「そっちのゲニンじゃねぇよ。」

「分かったぜ!『ピンポーン!』」

「はい、丹野。」

「『ナルト』!」

「違います。」

「マンガのタイトルじゃねぇか。と言うか忍者じゃねぇって言ったからな。」


芥川龍之介って昔の作家だったような気がする。

少なくとも現代でマンガは描いていなかったはず。

微妙に記憶にあるような無いような………。


「確か『なんとか門』って名前だったような気がするんだよ。」

「お、良い線言ってるな。」

「そうだ!『ピンポーン!』」

「はい、安達。」

「半蔵門!」

「違います。」

「路線の名前じゃねぇか。一応ヒントを出すと京都が舞台だからな。」


京都………。門………。

うん。


「さっぱり分からない!」

「オレも!」

「この前授業でやってたからな。」

「まぁ安達も丹野もこうなる事は予想が付いていましたけどね。」


だったらなんでこんな問題出したんだよ。


「これは本番が楽しみな仕上がりですね。」

「お前はこの惨状を作って尚、こいつらをクイズ大会に参加させようとするのな。」

「だって面白そうじゃないですか。」


竹塚の事だから、そう言う理由だろうとは思ってたよ。

私は絶対に参加しないからな。


「さて、安達と丹野のどちらが賢いか、本番で明らかになりそうですね。」

「私に決まってるだろ。」

「オレに決まってるぜ。」


これで参加を拒否したら不戦敗扱いにされそうだ。

絶対に勝たなくては。

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