貢物

「おかしいと思わないか?それが、さも当然と言った雰囲気でまかり通っているのが。」

「そうだぜ。おかしいぜ。」

「君たちがおかしいと思っていても、一応それが正解になるので。」


そんなの認められない。私は常々思っていたんだ。




「だって常識的に考えて『この文章を書いている時の作者の気持ち』なんて分かる訳ないだろう?」

「そーだそーだ!もしかしたら締切がヤバいとか、今日の晩飯は何にしようとか考えてたかも知れねぇぜ!」

「問題提起は置いておいて、少なくとも君たち人にものを教わる態度じゃないですよね。やっぱり課題は自分たちで頑張るのが常識的ですよね。」


瞬間、私と丹野は竹塚に向かって五体投地する。

竹塚様に常識を説こうだなんて無礼な真似をする訳ないじゃないか。


「困っている友達を助けるのも常識だよな。」

「期限ギリギリまで課題をやらないのは常識的ではないですけどね。」


だって忘れていたんだから仕方がないよね。

むしろ当日になる前に思い出したんだから上々だと思う。


「学食一食分奢るぞ。」

「安達は僕がいないとダメですねぇ。」

「あれ!?個人個人で貢物しなくちゃダメなのか!?」

「丹野、安らかに眠れ。」

「勝手に殺してんじゃねぇ!」


課題を提出できず、職員室に没す。享年17歳の短い生涯であった。って教室の黒板の片隅にちっちゃく書いておいてやるから安心しろ。


「竹塚、オレも昼飯奢るぜ!」

「食事枠は安達が使っているので別のものでお願いします。」

「安達、今すぐ取り消せ。」

「なんで私が手を引かなくちゃいけないんだよ。自分で良い貢物を考えるんだな。」


丹野が頭を抱えている。先んじて発言しておいて良かった。

さて丹野が何を言い出すか、高見の見物といこうか。


「そうだ!はい!」

「はい丹野。発言をどうぞ。」

「好きな時に安達が面白い一発芸を披露してくれる権利を進呈するぜ!」

「ちょっと待て!?」

「良いですね。それ。」


いや良くねぇよ!?なんで私の権利を勝手に進呈してるんだよ!?

しかも内容が悪辣過ぎるだろ。絶対滑るぞ。

そんな事言うんだったらこっちにも考えがあるぞ。


「だったら私は更に丹野がいつでもパシリとして使える権利をあげるぞ!」

「はぁ!?なんでオレの人権をお前が竹塚にあげてんだよ!?」

「最初にやって来たのはお前だろうが!」


自分の事を棚に上げて批判してきたぞ、この男。

それが嫌ならもっとマシな貢物を考えろ。


「それじゃあ安達はいつでも一発芸、丹野はいつでもパシリで良いですね。」

「「良いわけねぇだろ!」」


竹塚、サラッと一番美味しいところを持っていこうとするんじゃない。

そんなの認められるわけないだろ。


「まぁ安達は学食で手を打つとして、丹野はどうしますか?一発芸ですか?」

「やらねぇよ。今度コンビニで面白そうな新商品でも見つけたら買って来てやるよ。」

「そうですね。それで手を打ちましょう。」


丹野もどうにか許されたようだ。

しかし、


「自分で『面白そうな』とか言って大丈夫か?これでもし仮につまらなかったらどうする?」

「そうですね。罰ゲームでもしてもらいましょうか。」

「面白いって笑えるって意味で言った訳じゃないんだが。なんで罰ゲームなんてやんなきゃいけないんだよ。」


時すでに遅し。丹野の発言の一部を拾い上げ、罰ゲームの流れに誘導する。

ふっふっふ。さっきはよくも一発芸をさせようとしてくれたな。

今度はこちらの番だ。


「さて、どんな罰ゲームをやってもらおうか。」

「しかも面白くない前提かよ。」

「そんなに自身があるんですか?」

「それは………。」


丹野が口ごもる。

『面白そうな』、なんてつけなければこんな事にはならなかったものを。

自分から期待値を上げてしまっては救いようがないな。最初から救うつもりはないけど。


「おいおい丹野、男に二言があるってのか?」

「こいつ、ここぞとばかりに……!」

「そうですね。もし面白くなかったら安達と漫才でもしてもらいましょうか。」


おっと?雲行きが怪しくなってきたぞ?


「じゃあそれで!」

「『それで!』じゃないんだよ!竹塚、私はお前に有益な条件を提示して、お前はそれを受け入れただろう?何故丹野の罰ゲームで私まで巻き込もうとするんだ!?」

「その方が面白そうかなって思いまして。」

「流石竹塚、良い案だと思うぜ!」


竹塚の思い付きで結局私まで巻き込まれる流れになっているぞ。そして丹野は同調するな。


「どうせならこの場で漫才をしてもらいましょうか。面白かったら課題を手伝いましょう。」

「「は!?」」


更にマズい流れになって来た。

このままでは竹塚が満足するまで課題を手伝ってもらえないぞ。なんだこの暴君。


「丹野。」

「安達。」


私と丹野は互いに見やり、アイコンタクトを交わす。


「竹塚、漫才はまた今度で良いと思うんだ。」

「そうそう。今は課題の方が優先だぜ。」

「でも、その課題、僕はもう終わってるんですよね。」

「それにほら、ネタの打ち合わせとかもしないとだし。」

「即興はちょっと厳しいぜ。」


私と丹野は漫才をさせられる事は諦めて先延ばしの提案で連携を取ることを決めた。






その後はひたすら私達で遊んでくる竹塚を説得し、課題の取り掛かるのであった。

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