計測

目を瞑り、集中する。

身動き一つ取らず、ジッと機を待つ。


「今だ!」


そしてカッと目を見開き、一つの動作をする。


「三分ジャスト!どぉーよ!」

「凄いですね。無駄に。」

「ある意味才能あるわね。無駄に。」

「マジで勉強とか運動とか、成績に関わりそうなこと以外は色々出来るんだよな。無駄に。」

「無駄に無駄に言うんじゃない!褒めるなら褒めるだけにしろ!貶すんじゃない!」


せっかく人が凄い特技を披露しているのに何でこの幼馴染や友人たちは一言多いんだろうか。

素直に褒める時は褒めるべきだと思う。


「カップ麺作る時に便利そうね。今度カップ麺作る時に呼ぶわ。たぶん。」

「いつか時間が気になったら電話しますね。」

「ストップウォッチが壊れたら皆の役に立てそうだな。」


なんだろう、欠片も褒められてる気がしないぞ。

ここまで適当に褒められる事って逆に珍しいと思うぞ。

だがそんな珍しさは求めていない。


「お前ら、相手の優れているところは素直に認めるようにした方が良いぞ。その点では私を見習え。」

「「?」」


竹塚と伊江が顔を見合わせて首を傾げている。

何故理解できないし。私は人の優れたところを認める寛大な心を持った人間だぞ。


「あんたの場合は認めるというよりは当てにしたり頼ったりしてるだけでしょ。」

「何を言うか沙耶。認めたうえで協力してもらってるだけだぞ。」

「あぁ、そういう事ですか。」

「そういう意味だったら常時竹塚を認めてる事になるな。」


人は互いに支え、助け合うことで生きているんだ。

だから頼ることは悪い事じゃない。私が頼られる事はあんまりないけど。

それに一応たまに飯を奢ったりしてお礼はしてるから。


「とにかく!私は他人の優れているところを認めているって事が伝わったようだな!」

「勉強が出来る事と時間間隔が優れているのは同列に並べられる内容じゃないと思うけどな。」

「どっちが役に立つかって言ったら前者よね。」

「安達。」

「なんだ、竹塚。」


伊江と沙耶が呆れている。

竹塚は優しい目をして私を呼ぶ。

これは慈悲深く、優しい言葉を投げかけてくれるに違いない。

やっぱり竹塚は優しい男だ。


「頭が高い!跪くがいいのです!」

「なんだとこの野郎!メチャクチャ調子に乗りやがって!」


慈悲なんてなかった。

超高圧的な態度で見下しやがったよ。

でも普段から頼ってるから、こちらは立場が弱い。


「背は小さいくせに態度だけデカいとか、なんて野郎だ。」

「おっと?そんな事言っちゃって良いんですか?僕は今の発言でかなり、とても、非常に、気分を害しましたよ?これは今後、課題を手伝う気にはなれそうにないですね。」


なんてこった、器まで小さいぞ。この男。

でもな、こっちだって課題を盾にされたくらいで抗う事は………


「誠に申し訳ございませんでした。前言撤回します。だから、何卒、何卒今後も課題の協力を………。」


出来る訳がなかった。

悪い事言ったりしたら謝る事って大事だからね。仕方ないね。

私は自身の非を認める寛大な心を持ってるから。


「んー、誠意が足りませんね。」

「それなら竹塚がカップ麵を作る時に時間を計ってやるよ。」

「タイマー使うんで大丈夫です。そう言えばこの前一発芸を見せてくれるとか言ってませんでしたっけ?」

「いや言ってねぇよ!?」


この矮小な器の持ち主はもっと寛容になるべきじゃないだろうか。

ここぞとばかりに追い込んでくるぞ。


「まぁ半分冗談はさておき。」

「半分?一発芸の部分か?」

「僕は優しいので許してあげましょう。」

「ありがとう。ところで半分ってのは一発芸の部分だよな?」

「これからも感謝して課題の協力を要請するように。」


何故一発芸の部分を冗談って言ってくれないんだ?

まさか忘れた頃にまた蒸し返すつもりじゃないだろうか。


「でも散々雑に扱いましたが、正確に計測出来るという観点では凄い能力だと思いますよ。」

「マジで?」


伊江、何故そこで疑問視するんだ。

あの竹塚が言っているのだぞ。つまり私は凄いんだ。敬え。


「かの伊能忠敬は一説によれば歩幅によって計測を行い、日本地図を作製したらしいですから。」

「そう言えばそんな話を聞いたことがあるわね。」

「ほら、もっと私を敬い、崇め、奉るんだ。」


歴史上の偉人と似たような能力を持っているとは。流石私、優れた才能を持っていることが証明されてしまったようだ。

そのエピソードは今初めて知ったけど。


「でも今って昔と違って正確に時間を図れる道具なんて沢山あるから、こいつに伊能忠敬みたいな偉業を成し遂げられるとは思えんな。」

「おいおい伊江、嫉妬か?」

「その『やれやれ』って言いたげなムカつく表情は止めろ。」


やはりいつの世も才能ある人間は凡人に妬まれるものだ。

その嫉妬を軽く受け流すのも、才能ある人間の宿命ってやつか。


「まぁ、実際その才能が何の役に立つかって言われたら、正直そんな偉業とかを成し遂げられるとは思えませんよね。」

「あれ?竹塚?」


なんでそんな少しだけ上げてから急激に落とすような事言うんだよ。

ジェットコースターだってもう少し高いところまで連れて行ってくれるぞ。

それにほら、何かの偉業を成し遂げる事が出来るかも知れないじゃないか。

例えば、

例えば………


「カップ麺作る時とか?」

「ダメそうね。」

「やっぱり安達は安達だな。」




生暖かい目でこっちを見るんじゃない!

そのうち凄い事をやってやる!


たぶん。

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