修理

「どうして、どうしてだよ!?どうしてそんな事言うんだよ!」

「いや、どうしてもなにも……。」

「私たちは友達じゃなかったのかよ!」


何故、こんなにも酷い事を平気で出来るのかと、眼前の友人に訴えかける。

私は彼の事を友人だと思っていた。

なんだかんだで私の事を助けてくれる、そんな存在だと。


「だって、そもそもお前が………






自信満々に『任せとけって!こんなのすぐに直してやるから!』って言って、映りづらくなったモニターを叩くからなんだよな。おかげで完全に映らなくなったから弁護のしようがないし、素直に自首する事を進めてるだけだぞ。」


だって機械は壊れたら叩けば直るってどっかで聞いたんだもの!

私は諦めない、きっと叩く時の角度が悪かったんだ。

それに学校の機材が不調だなんて整備不良じゃないのだろうか。つまり私が叩いても叩かなくても問題は起こっていたから私は悪くない、と思う。


「なぁ伊江、角度は何度くらいで叩くのが良いと思う?」

「そもそも叩くな。」


でも機械の類は叩けば直るって話は結構色々なところで聞くぞ。


「なんでそんな田舎の爺ちゃんや婆ちゃんがやってそうな方法で直ると思うんだよ。むしろ余計に壊れるって思うんだが。」

「伊江、お爺ちゃんやお婆ちゃんは電気屋さんを呼んだりすると思うぞ。それは偏見だろ。」

「うん、確かに偏見だったな。撤回しよう。だけど電気屋さんを呼ぶっていう発想がありながら何故叩いたし。」

「~~♪」

「そっぽ向いて口笛吹くな。」


だって試してみたくなるじゃないか!それで本当に直るのかって!


「私は思うんだ。科学とは、人類とは、未知に挑み、様々な試みによって進歩してきたって先生が言ってた。つまり、この叩く、と言う行為も人類の進歩の一環だったんだ。だから何も後悔する事はない。だって叩いても直らなかった、という結果が得られたんだから。それに青木も言ってたぞ。実験において出来なかった、変化は無かった、は失敗ではなく、その結果が得られたという成果だって。だから伊江、私は一つの成果を残すことが出来たんだ。」


この完璧な論理によって伊江は説得される事間違いなし。これなら職員室にも呼び出されずに済むぞ。


「安達。」

「なんだ?」

「お前がどんな屁理屈をこねようとも、モニターを完全に壊した事実は変わらないからな。」

「違うから!元々壊れてたのが偶然にも叩いた瞬間に完全に壊れたわけであって、叩いたら壊れた訳じゃないから!そう、叩いたから壊れたのではなく、壊れる瞬間に叩いただけだから。因果関係が逆なんだよ。」

「現実を見ろ。お前の目の前にあるのはなんだ?」


止めろ、現実を突きつけてくるな。

流石に学校の機材を壊したとあってはお説教だけでは済まないだろう。

私はどうにかしてこの状況から逃れなくてはならないのだ。


「どうにかしてモニターを持ち出して電気屋さんに持ってくとか………。」

「モニターのサイズ結構デカいからバレるだろ。余計に自体が悪化するだろうな。」

「この場で分解して直す。」

「碌に機械知識もないのに、そんな事出来る訳ないんだよな。直せなくなるのが関の山だ。」

「サイコロを転がして判定に成功すればワンチャン………。」

「生憎だが、ここはTRPGの世界ではないからな。ファンブルしか出ないぞ。」


なんてこった、そもそもサイコロを持っていなかった。

一体どうすれば………。


「あんたたち、こんなとこで何やってんの?」

「さ、沙耶!?いや、何でもないぞ!何でもない!」

「安達が学校の備品を壊した。」

「伊江ぉ!余計な事を言うんじゃない!」


マズい!沙耶に見つかった!怒られるから隠しておきたかったのに、伊江め、裏切りやがったな!


「敦?」

「ヒエッ!?違うんだ!元から壊れているのを直そうとしたら、余計に調子が悪くなったわけで、私が壊そうとした訳でもなければ壊した訳でもないんだ!」

「直そうとして叩いてな。」

「伊江ぉ!」


沙耶に鋭い眼光で睨まれる。怖い。私はいつでも五体投地できるように準備する。


「あんたの頭も叩いたら治るかしらね?」

「待ってくれ沙耶、狂った金剛石の幽波紋じゃなきゃ無理だ。だから拳を構えるのを止めてくれ。」


そんな事されたら頭がパァンってなるぞ。パァンって。


「で、これをどうしようって話をしてたんだよな。」

「そもそも壊れたって、どういう症状なのよ。」

「画面が映らない。」

「配線の接触でも悪いんじゃないの?一回指し直してみたら?」

「えぇ、そんなんで直るか?」


伊江が話を進めようとしてくれたお陰で私の頭は危機を脱した。

沙耶は話を聞いて配線の抜き差しを提案してきたが、果たして直るのだろうか。


「あ、いけたわ。」

「マジか。」

「ほら、言ったでしょう?」


こんな簡単に直るだなんて。私のさっきの絶望感はなんだったんだ。


「流石だな。俺達だけじゃ直せなかったな。」

「いよっ!天才!一流技術者!女神!今度また何かあったら真っ先に頼るくらいの安心感と信頼性!」


ここぞとばかりに沙耶を褒めて、私が叩いて直そうとしたことを有耶無耶にしようとする。

ついでに次も頼る事をこっそりと混ぜ込んでおく。


「ま、ざっとこんなもんよ。」


沙耶は胸を張って鼻高々だ。

よし、誤魔化せた。


「でもね、敦。」

「ん?」

「次も叩いて直そうとしたら、分かってるわよね?」

「はいっ!承知しております!」




沙耶は拳を握って胸の前に掲げる。

誤魔化せていなかった。

でも『次も』って言われたから、とりあえず今回は許された。

それだけでも良かったと思っておこう。

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