キャラクター紹介
「メタフィクションごっこをしましょう。」
「メタ………何?」
「そんな遊び、聞いたことないな。」
「ザックリ言えば、僕たちは何らかの作品の登場人物かのように振舞うんです。でも自分が作品の登場人物だと言う自覚を持っているので大体何言っても問題ありません。」
なるほど。分かったような、分からないような。
「とりあえず竹塚は平常運転だって事だけは理解出来るな。」
「物は試しです。第100話『キャラクター紹介』。」
「100話目でようやくキャラクター紹介が始まる作品なんて無いだろ。」
どんな作品だよ。キャラクター紹介って普通、最初の方にやるものじゃないのかよ。
0が2つ多いぞ。
「僕の名前は竹塚武司。東高校の2年B組に所属しています。作中では天才的な頭脳で皆をサポートし、運動神経も抜群、文武両道の頼られる身長170cmの男です。」
「サラッと嘘を混ぜるな。頼られてるのは安達とかの課題くらいで普段は振り回されてるからな。」
「頭が良いのは認めるけど、運動神経は壊滅的だし、身長はその高さから20cmくらい引かれるだろ。」
「なんで本当の事を言うんですか!言われなければ僕はこの作品を見ている人たちにカッコいいイケメンを想像してもらえたのに!」
本当の事だから言ってるんだよ。作品に出演してるって感じで振舞うから全力で盛っていったぞ、この男。
「とりあえず、何となくどんな感じかは分かったぞ。それなら私は安達敦。この作品の主人公でどんな時でも諦めない強い心、天才的な発想力と閃き、そして凄まじい行動力を誇るキャラクターだ。」
「自称主人公だな。諦めないってよりは往生際が悪いって言うべきだな。」
「馬鹿な事を考えたり、閃いたりして、何も考えずに行動に移すという面では天才的ですよね。」
「なんだと!?日頃から主人公感満載の言動をしているのに!」
「仮に主人公だとしても、ダメダメな感じの主人公がトラブルを起こすタイプの物語だろ。2-B三馬鹿の1人だし。」
「そうなると僕は頼れる相棒枠ですね。」
「竹塚も竹塚で変な事やらかすんだよな。三馬鹿その2。」
私への評価がおかしい。
物は言いようだと言うのに、何故良い感じに言っていることを悪く言い直すのか。
「私たちを酷評する男の名は伊江浩二。夢も希望もない冷めた男だ。そんな男に粘り強くロマンを教えようとする私と竹塚はとても良い奴。」
「俺の紹介で自分の株を上げようとすんな。俺は現実的に物事を考えられるだけだし、決してノリが悪いわけでもない。強いて言うなら目の前にいる奇人変人に振り回される苦労人ってとこだな。面倒見が良いと苦労するよ。」
「そう言う伊江もさり気なく自分の株を上げようとしてますよね。」
「俺はお前らと違って嘘はついてないからな。」
物は言いようを自分の都合の良いように使っておいて苦労人を自称するか。
それなら私だって主人公で良いだろ。
「お前ら何の話してんだ?」
「あ、丹野。」
「この男は丹野弾吾。2-Bの三馬鹿の1人でバスケ部に所属している。前向きと言えば聞こえはいいが、要するに馬鹿だ。」
「今、何らかの作品の登場人物だったら、って話をしてたんですよ。」
「忘れ物取りに来ただけなのにヒデェ言われようだぜ。馬鹿に馬鹿って言われたくはないっての。つーかそれならポジティブなオレこそ主人公に相応しいだろ!」
「それは無い。」
「何だと!」
丹野は自分の事を主人公に相応しいと言うが、馬鹿に主人公は務まらないだろう。
トラブルメーカーの方が似合っているぞ。
「伊江、そろそろ行くぞぉ。」
「この男は梅嶋牛雄、通称『親方』。身長は180cmを越え、体重も80㎏オーバーの巨漢でクラスの若衆を束ねる兄貴分として慕われている。また、日々『家業』に精を出し、次期組長の座へと邁進している。」
「いきなりなんだぁ?つーか若衆も何も高2なんだから皆若ぇに決まってんだろぉ。あと何度も言ってるが、俺は一般人だってぇの。」
「親方、実は竹塚が『もしも作品の登場人物だったら』って話を始めてな。」
「なるほどなぁ。」
伊江が教室に入って来た親方に経緯を説明する。
見た目的には主人公サイドよりも敵サイドの方が似合いそうだけど、案外裏社会の人間みたいなキャラクターが主人公に味方するっていう展開もあるし、きっとその枠だろう。
「そろそろバイトの時間だし、俺は親方と帰るな。また明日。」
「そうだ、オレも部活中だった。忘れ物は回収したし、部活に戻るぜ。」
そんな話をしていると伊江、親方、丹野は教室を離れていった。
「あれ?あんたたち、まだ教室にいたの?さっき教室から出て来た男子たちがいたから解散したのかと思ったわ。」
「この女子は入屋沙耶。主人公である私の幼馴染で、作中最強クラスの実力の持ち主だ。しかしそれ故にスレンダーな見た目に反して筋肉量が多いため、体重ががががが!」
「敦?出会い頭に随分な物言いね。」
入れ替わりで入って来た沙耶の紹介をしようとしたが、言葉選びに失敗した。
顔面をガッ!と掴まれ、力を籠められる。
竹塚、助けてくれ!そんな思いを込めて竹塚を見るが、
「実は作品の登場人物になった仮定でキャラクター紹介的な話をしていまして。」
「へぇ?つまり遊びって事ね?でも言っていい冗談と悪い冗談があると思わないかしら?」
沙耶は私の頭を掴みながらも話に耳を傾ける。
そうだ、そのまま良い感じに誤魔化して説得してくれ!
「あと嘘は言わないという制約付きでやってましたね。」
「敦?」
「ぎゃああぁぁぁぁ!」
竹塚ぁ!
止めを刺しに来るんじゃない!
私の頭を掴む力が増加する。割れそう。
「沙耶、落ち着け!落ち着いて話し合おう!」
「あら、あたしは落ち着いてるわよ?そうね、屋上に行って話し合いましょうか。」
「その話し合いに使う言語って絶対肉体言語だと思うだけど!竹塚!助けて!もしくは身代わりになって!」
「キャラクター紹介、第200話に続く!」
「続くの!?てか離れすぎ、あ、沙耶、首根っこを掴まないで首が絞まぐえぇぇぇぇ………。」
私が最後に見た光景は、引きずられていく私の事を養豚場の豚を見る目で見ている竹塚だった。
自称相棒枠、薄情過ぎでは?
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