二つ名
「カッコいい二つ名とか異名的なのが欲しい。」
「分かります。」
「いやお前らには『三馬鹿』って二つ名があるよな。」
「カッコ良くないじゃん。馬鹿にされてるじゃん。」
「事実を言い表しているんだから妥当だろぉ。」
「親方の言う通りだな。」
伊江も親方も私たちの事を何だと思っているんだ。
確かに成績は良くないかも知れないが、それだけで馬鹿呼ばわりは酷いと思わないのか。
「不服そうな顔をしてるけど、そもそも日頃の行いが原因だからな。」
「日頃の行い?そこまで………そこまで……………。」
「自信無くなってんじゃねぇか。」
「僕は自覚はありますよ。改めるつもりはありませんが。」
日頃の行いと言われ、職員室に呼び出された回数を思い出そうとするが、呼び出され過ぎてて思い出せない。
あれ?私って実は日頃の行いそんなに良くない?いや、そんな事は無い、はず。
自分に対する疑問が頭に浮かぶが、そんな私を気にせず親方は話を続ける。
「しかし俺は親方呼びになる前は兄貴とか、叔父貴とか、親父とか、親分とか言われてたからなぁ。その度に否定してたけどよぉ。」
「だって似合うと言うか、イメージにピッタリだったから。」
「見た目はともかく、別に親方は極道じゃないからな。」
「むしろ親方呼びは妥協の結果だったんですよね。」
「親方ならまぁ、料理人のトップって感じがして受け入れられるからなぁ。」
なるほど。親方呼びを受け入れたのはそういう理由だったのか。
確かに放課後はよく家業の蕎麦屋の手伝いをしているし、本人的にも実は嬉しかったりするのかも知れない。
どうせだし、この場にいるメンバーの二つ名でも考えてみるか。
「伊江に二つ名を付けるとしたら………『一般人』?」
「二つ名でも何でもないよな。さっきの事実云々で考えるなら妥当っちゃ妥当だけど。」
「待って下さい安達。普通過ぎて影が薄い、存在感が無いって考えるのであれば、別の二つ名を考える事も出来ますよ。」
「影が薄いだの存在感が無いだの随分な言われ様だな。普通で良いだろ。少なくとも日頃の行いのせいで三馬鹿呼ばわりされるよりはな。」
「存在感が無い………はっ!そうか!」
「閃かなくて良いからな。」
「『暗殺者』の伊江!」
「カッコいい、のかぁ?」
暗殺者は強そうでカッコいいだろ。
ゲームとかでも主人公になったり強キャラ扱いされてたりするし。
問題があるとすれば本人に殺る気が無いことくらいだ。
「次は、竹塚だったら………『小人』とか?」
「安達は今後課題を1人で頑張るって宣誓でしょうか?それでしたら喜んで応援しますよ。」
「冗談ですごめんなさいこれからもよろしくお願いします。」
「一瞬で掌を返したな。」
「安達にとっちゃ竹塚は正しく生命線ってやつなんだろうなぁ。まぁこいつはいつも人に頼ってるし、偶には1人で努力するって経験も必要だとは思うけどよぉ。」
「私は手を取り合い、助け合い、協力し合い、支え合う大切さを理解して実践してるだけだから。ほら、『人』って漢字は人と人とが支え合っているって誰かが言ってたし。」
「おめぇは寄りかかってるだけにしか見えねぇけどなぁ。」
頼れる友達を馬鹿に訳が無いじゃないか。
「カッコいいって部分はどこに行ったんですか。『小人』は別にカッコいいとは感じませんよ。断固として抗議します。」
「うーん………。」
「安達にとっては『救世主』だろうな。」
「おぉ!良いですね『救世主』!いつも課題を手伝ったり勉強を教えている僕にピッタリですね。」
救世主か。確かに助けてもらってるし、救世主でも間違いではないな。
「それなら親方は………『世紀末』?」
「完全に見た目で思い付いただけだよな。」
「だって仕方がないじゃないか。」
「気持ちは分かります。一子相伝の暗殺拳とか使えそうですよね。」
「なんでそぉなるんだよぉ。」
救世主と聞いて親方が世紀末で激闘を繰り広げてそうなイメージが思い浮かぶ。
実際、世紀末な世界に居ても違和感無い見た目してるし。
「でもやっぱり親方は『親方』だな。」
「確かに。」
「面倒見が良いし、頼れるし、親方以上に『親方』って呼ばれ方が似合う奴はいないと思うぞ。」
「へへっ、そうかよぉ。」
伊江が言うように、親方は親方って呼ぶのが一番しっくりくる。
本人も私の意見を聞いて喜んでるし。
「さっきから悪意溢れる二つ名を考えやがった安達は………。まぁアレしかないよな。」
「アレですね。」
「アレだなぁ。」
「揃ってアレしかないって、私ってどう見られてるんだ?」
「「「馬鹿。」」」
「揃って馬鹿扱いは酷いだろ。」
「もしくは『愚者』ですね。」
一切躊躇いなく言い切ったぞ、こいつら。
しかも完全に同じタイミングで。
竹塚に至っては追撃までして来るし。
「カッコいいので頼む。カッコいいので。そう、カッコいいので。」
「念を押し過ぎだろぉ。」
「この上なくピッタリなんですけどね。」
「カッコ、いいので、頼む。」
「安達の印象から、カッコいい二つ名………?」
そこ!理解出来ないって表情をするんじゃない!
「『狂人』とか?」
「『放蕩』ですかね。」
「カッコいい、のか?でもなんか強そうだし、良いかも知れない!」
「安達の知らなそうな単語で煙に巻いてやがらぁ。」
『凶刃』ってこの前、漫画で見た気がするし、『宝刀』ってのも高級感があっていいな。
私にピッタリな二つ名を考えてくれるなんて、なんだかんだ言ってやっぱり私の事を認めてくれているんだな。
親方はなんか言ってるけど『煙』?たぶん掴みどころが無くて読めない奴って事かな?
「まぁ本人が満足そうなら、それで良いかぁ。」
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