豚小屋
ある日の校舎裏。
私は独白をする。
「世の中ってさ、結構身近に不思議な事があったりするよな。」
「ブゥ?」
「お前に言っても分かるとは思わないけどさ。お前に関わる事柄だからお前に言わずにはいられないんだよ。」
「ブブー。」
「あぁ、別にお前がここにいる事については気にしてないから。もう疑問に思うのを止めたよ。皆、自然に受け入れてるんだもの。」
「ブーブー。」
「でもさ、お前の小屋を、家を作ったのは私なんだよ。だからどんな形をしていたか、大体は覚えているんだ。断じて、
こんな豚の顔をモチーフにした形ではなかったんだよ。だって最初は犬小屋のつもりで作ったんだから。」
だいぶ前に校庭に犬が入り込んだ時の為に犬小屋を作ったら何故か豚がいた。
その豚は青井のペットだと、後に明らかになったが、決して豚の顔をモチーフにして作ってはいなかった。
しかも結構大きい。教室の4分の1くらいのサイズはありそうだ。
「ブー。」
「まぁお前に言ったところで真実は分からないだろうけど、それでも疑問に感じざるを得ないんだよ。」
「アルキメデス、そろそろ帰るよ。あれ?安達君も一緒だったのかい?」
「青井か。一体いつの間に豚小屋の改築なんてしたんだよ。」
「いや、それは私がやった訳じゃないからね。」
「え?それなら一体誰が………。」
確かに科学方面はともかく、ここまでの建造物を作り出せるほどの技術力は青井には無い。
仮に出来るとしても設計図を書くくらいだろう。
「実はこの小屋の中に作った人が住んでいたりしてね。」
「なんだそれ。でも内装は少し気になるし、見て行こうかな。」
ホームレスのおっさんとかが住んでたら通報せざるを得ないけど、流石にそれは無いだろう。
そんな事を考えながら扉を開けると、
「ようこそ、歓げ……」
「よし、帰るか。」
「待つんだ安達くん!友人を無視するのは良くないと思うよ!」
何故かそこには図書委員長の長谷道がいた気がする。
たぶん見間違いだから声を掛けられる前にバタンと扉を閉める。
中から何か聞こえてきたが気のせいだろう。
さぁ、帰るとするか。
「安達君?知り合いっぽいけど、彼は誰なんだい?」
「ははは、青井、気のせいだ。誰もいなかった。誰もいなかった。」
「え?いや、でも君の名前を呼んでいるけど………。」
「きっと幻聴だろ。疲れてるんだよ。」
「おいおい、いくら私と君が無二の親友だからって、おふざけが過ぎるんじゃないか?」
「私の親友は豚小屋に住んでないから。あと勝手に親友を自称するな。」
こんな変な親友なんて…………いない。
一瞬、脳裏に竹塚の姿が浮かんだが、それを振り払う。
流石に竹塚もここに住もうとは思わないだろう。
「いやいや、私だって別にここに住んでる訳じゃないからね。」
「じゃあなんで豚小屋の中にいたんだよ。」
「これには山よりも高く、谷よりも深い事情があってね。」
「そっか、それじゃ、さよなら。」
「待ってくれ!かつては小さくてショボかった豚小屋がここまで見事な形になった経緯を知りたくはないのかい!?」
悪かったな、小さくてショボい豚小屋を作って。
と言うか、そもそも元々は犬小屋のつもりで作ったんだけど。
「私は気になるね。アルキメデスにおあつらえ向きな小屋にしてもらったんだから。」
「アルキメデス?まぁいいや、正面から見ればデフォルメされた豚の顔。そんな改築を主導したのは他でもない、この私なのさ!」
「だと思ったよ。」
おおむね予想通りだ。
しかしある疑問を抱かずにはいられない。
「でも長谷道、お前こんな立派な物作れる程に建築技術と言うか、工作能力なんてあったのか?しかも結構資材も必要だと思うんだけど。」
「建築に関しては技術部の友人に手伝ってもらってね。…………9割くらい。」
「ほぼ全部じゃん。何もしてないじゃん。」
「何もしてないわけではないよ!」
「じゃあ何をしたんだ?」
「やっぱり孤独に黙々と作業に取り組むのは肉体的にはもちろん、精神的にも凄く疲弊すると思うんだ。だからこそ隣に精神的支柱が必要になると思うんだよね。」
「結局何をしたんだ?」
「応援を頑張っていたとも!」
結局何もしてないじゃん。
絶対横で騒いでただけだろ。
それを1割に当てはめるな。
「それに資材の調達は一応私がやったからね!」
言われてみれば、この前生徒会の鳥場と伏実が余るほど大量の資材を買って来た時に長谷道が資材の一部を貰っていた気がする。
「いや調達って言ってるけど、生徒会から余りそうな分を貰って来ただけじゃん!」
「それでも調達に変わりは無いのさ!おかげでこうして完成させられた訳だよ。持つべきものは頼れる友だね。」
自信満々に言っているけど、結局技術部の友人とやらに頼り切りって事だろ。
少しは手伝ってやれ。
「何はともあれ、アルキメデスの小屋を改築してくれたことに変わりはないさ。しかし、何と言うか、長谷道君と安達君は似ているね。」
「は?私とこの変人が?」
「やはり類は友を呼ぶと言う事だね。親友。」
「本人の能力は大したことが無いかも知れないけど、頼れる友人がいる所が。」
「あれ?さらっと馬鹿にされたぞ?」
私は長谷道みたいに友達を頼ってばかりでは…………、たぶんない。
だいぶ脳裏に竹塚の姿が思い浮かんだが、それを振り払う。
まぁ、アレだよね。時として自分1人えは解決できない問題にぶつかった時に、素直に友達を頼るのは大事だよね。
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