アイス

「今日も暑いですね。」

「そうだな。」

「地球温暖化なんてよく言うけど、逆だったらなぁ。」

「それはそれでヤバいからな。」

「と言うか安達、地球温暖化なんて言葉知ってたんですね。」

「当たり前だ。それくらい知ってるぞ。」


あまり私の事を侮ってもらっては困る。

確かに常人からは理解されがたい天才性の持ち主だけど、せめて友達くらいには理解してもらいたいものだ。


「アレだろ?温室効果ガスだか何だかがアレして地球が暑くなっちゃうアレだ。」

「アバウトだな。」

「でも言わんとすることは伝わりますね。」

「私だって日々成長しているんだぞ。」


なんかそんな感じの事がテレビでやっていた気がする。

日々色々な所から情報を集める私。

うん、成長しているな。


「それはともかく、アイス食べたくないか?」

「良いですね。」

「帰りにコンビニでも寄ってくか。」


暑い日はアイスに限る。

夏はアイスの為にあると言っても過言ではない。

しかしただ単にアイスを食べるだけでは面白みに欠ける。

ここはいつものように遊びを交えるとしよう。


「アイスを賭けた勝負でもしないか?」

「勝負って………負けた奴が他の2人に奢るとかか?」

「そうそう。」


まぁ具体的に何をするかは一切考えていなかったけど。

それはこれから考えるとしよう。

と思っていたら、竹塚が閃いたかのような表情をして口を開く。


「そうだ、良い事を考えました。賭けよりもずっと建設的なアイデアですよ。」

「なんだか嫌な予感がするな。」

「クラウドファインディングしましょう。」


伊江の一言をスルーして竹塚は言葉を続ける。

しかし、


「クラウド………なんて?」

「クラウドファインディングです。」


うん。分からん。

日々色々な所から情報を集めている私でも知らないとなると、きっとマイナーな何かだろう。


「確か見返りを提示して資金を集めるやつだよな。それで、何のために金を集めるつもりなんだ?」

「そうです、それですよ。安達は稀にとても凄い運の強さを見せますよね。」

「まぁ、そうだな。」

「それほどの事でもある。」

「そこで安達に当たりのあるアイスを買ってもらって、当たりが出たらそれを見返りとして貰うんです。」

「アイスの当たりを引き当てるなんて、結構難易度が高いと思うんだけどな。」

「ふっ、任せろ。毎日1本買ってれば1回くらいは当てる自信がある。」

「ダメそうだな。」


伊江、もっと私の事を信じてくれても良いんじゃないか?

竹塚は私を信頼して無言で財布を準備したぞ。


「とりあえずこれで今すぐアイスをたくさん買って食べて下さい。」

「待て待て待て。」


千円札を数枚渡された。

どんだけアイスを食べさせるつもりだ、この男は。


「そんなにアイス食べたら頭かお腹、もしくはその両方が痛くなるから。」

「そうなる前に当たりを引けば良いだけの事ですね。」


流石に1個、2個で当たりが引けるとは思っていないぞ。


「てか、それなら安達が選んだアイスを俺達が買って食べれば良いと思うんだけどな。それなら仮に当たりを引けてもラッキー程度で終わるし。」

「それだ!」


ナイスアイデア、伊江!

それなら外れても全員アイスは食べられる訳だし、私の頭とお腹は無事で済むだろう。

この理屈なら竹塚も納得せざるを得まい。

しかし、


「いいえ、待って下さい。」

「なんだよ竹塚。私は良いアイデアだと思うけど。」

「僕は思うんです。安達が選んだとしても、その段階で安達の強運が発動するとは限りません。安達の幸運は安達自身に影響を及ぼす何かを実行する時に発動するのであれば、選ぶだけでは不十分でしょう。」


竹塚は反論を述べる。

なんでそんなに私にアイスをたくさん食べさせたがるんだよ。


「安達、僕は別に安達が苦しむ姿を見たい訳じゃないんです。確かに安達がアイスクリーム頭痛によって蹲る姿に興味が無いと言えば噓になりますが、それ以上に安達が奇跡を起こすところを見てみたいだけなんですよ。」

「苦しむ姿見たい気持ちあるんじゃん。」

「てか奇跡って言ってるよな。難しいって理解して言ってるよな。」

「細かい事は良いんですよ。早くコンビニに行きましょう。」

「細かい事では無いだろ………。」


結局、竹塚は聞く耳を持たず、コンビニに行くことになった。

そしてアイスを買い、食べる。


「うん。美味い。」

「で、当たりか?」

「外れだ。」

「と言うか、そのアイスって当たり付いてましたっけ?」


あっ。


「………袋には特に何も書いてないな。まぁ恐らく当たり付きではないって事だろうな。」

「安達………。」

「私は思うんだ。当たりがあるかどうかよりも、食べたいものであるかどうかの方が重要なんじゃないかって。」


食べると言う事は栄養を補給するだけではなく、心のエネルギーを補給するものでもあるから。

自分が食べたい物を選んでしまうのは当然の摂理と言うやつだ。


「安達。」

「はい。」

「それを買った分のお金は返して下さいね。」

「はい。」


クラウドなんとかって難しいんだな。

これが需要と供給ってやつか。

また1つ賢くなったぞ。

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