ウミガメのスープ

「『ウミガメのスープ』って知ってますか?」

「ウミガメの」「スープ?」


雑談の最中、竹塚は聞き覚えの無い料理の名前を出す。


「いや、食べたことも見たことも聞いたことも無いぜ。」

「あんまり美味そうな雰囲気じゃないけど、珍味的な奴か?」

「いいえ、違います。」

「って事は美味しいの?」

「入屋!?いつの間に!?」

「珍しい食べ物の話が聞こえて来たから気になったのよ。」


食べ物の話らしき雰囲気を感じ取ると、どこからともなく現れる幼馴染。

その行動原理だと食い意地が張ってると弄られても仕方が無いと思うんだけど。


「いえ、そもそも食べ物じゃないです。」

「そう。」

「スープなのに食い物じゃないのか。」


沙耶は『ウミガメのスープ』とやらが食べ物ではないと聞き、悲し気な表情で去って行った。

どんだけ珍味『ウミガメのスープ』に興味があったんだよ。

しかし、


「確かに、その名前だけ聞いたら食べ物だと思うぞ。」

「これはざっくりと説明するとクイズみたいなものですね。」

「頭使う系か。安達には無理だろうけど、オレなら余裕だぜ。」

「は?丹野が頭を使う?頭突きの事を頭を使うって言い張るのは止めといた方が良いぞ。私の天才的な頭脳だったら余裕だろうけど。」

「じゃあ負けた方は罰としてそれ以外の人に奢りですね。」

「望むところだ!」

「上等だぜ!」


頭脳戦で丹野に負ける訳がない。

この勝負、丹野の奢りで決まりだな。

でも待てよ?冷静に考えるとそれ以外の人って、それ竹塚も含まれてないか?

いや、今は余計な事は考えず、勝負に集中するとしよう。


「やる気は十分ですね。それではルールを説明しましょう。僕がこれから問題を出すので、安達と丹野は『はい』か『いいえ』で答えられる質問をして正解を導き出してください。」

「『はい』か『いいえ』か………。」

「イマイチ分からないぜ。」

「そうですね。質問の例を挙げると、『それは赤いですか?』と言う質問で有れば『はい』または『いいえ』で答えられるので大丈夫です。しかし『それは何色ですか?』と言う質問は『はい』または『いいえ』で答えられないのでダメです。」


なるほど。そう言う事か。


「では問題です。ある人物はマンションの10階に住んでいます。家を出る時はエレベーターで1階まで降りますが、帰ってくるときはエレベーターで7階まで上がり、そこから上には階段で上がります。さて、それは何故でしょうか?」

「はい!」

「元気が良いですね。丹野、どうぞ。」

「早速答えが分かっちまったぜ!そいつは馬鹿だから自分の部屋が7階にあるって勘違いしてエレベーターから出ちまったんだ。でも7階には自分の部屋が無くてもう一度エレベーターに乗ろうと思ったら、エレベーターはどっかに行ってたから階段で上がったんだぜ!」

「丹野、君は凄いですね。」

「お?正解か?まぁオレにかかれば楽勝だったぜ。」

「丹野、君は凄い馬鹿ですね。不正解です。」

「マジかよ!?」

「おいおい丹野、何が楽勝だって?自分の住んでる部屋の階層を勘違いするとか、そんな馬鹿な事するのは馬鹿なお前くらいだろ。」


いきなり回答を始めた時は焦ったが、丹野以外にそんな馬鹿な奴がいる訳が無いだろう。


「素直に質問をして可能性を狭めていった方が良いですよ。」

「そうだな、エレベーターが壊れていたりする?」

「いいえ、エレベーターは正常に動いています。」


って事は人間サイドの問題か?


「その人はエレベーターが嫌い?」

「いいえ。」

「まぁ嫌いなら最初から階段使うはずだぜ。」


人間性の問題でも無かったか。


「そいつは金持ちか?」

「いいえ。そこも言及は無いですね。まぁマンションの10階に住んでいるので貧乏という訳ではないと思いますが、そこは問題に関係ありません。」

「その人は病気?」

「はい。特に病気を患っていると言った描写は無いですね。」

「そいつは健康のために運動をするようにしているか?」

「いいえ。特に健康を気にかけている描写も無いですね。」


うーん、健康体なのにわざわざ階段を使う………。


「身体が影響してたりするか?」

「お、丹野、良い線突きましたね。はい。」

「身体が原因で階段を利用している?」

「はい。」


身体が原因………。

視線を泳がせながら頭を捻っていると竹塚が視界に入る。

はっ、そうか!


「分かった!その人は竹塚みたいに背が低くて10階のボタンに手が届かなかったんだ!だから手が届く7階まではエレベーターで上がって、そこからは階段で上がっていったんだ!」

「安達、誰の背がエレベーターもまともに使えないくらい低いですって?丹野はどう思いますか?」

「いや、竹塚の背はそこまで低くないけど、そいつは竹塚と違って背が低くてボタンに手が届かなかったんだと思うぜ。」

「丹野、正解です。」


しまった!一言多かったか!?


「いや、でも、私も実質正解みたいなものだし………。」

「ゲームマスターの根も葉もない悪口を言ったので。」

「それは事実じゃ………いやなんでもないぜ。イケメン高身長ゲームマスターの竹塚。」

「丹野、嘘は良くないと思うぞ。」

「ここで悔い改めるのであれば、罰は無しにしてあげようと思いましたが、執行決定ですね。」


なんてこった。

でも真実を捻じ曲げるのは良くないと思うんだけど。

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