ここは任せて先に行け

人生、一度でいいから行ってみたいセリフという物がある。

しかし、そういったセリフという物は中々言う機会が巡ってこない。

もちろん、セリフに限らずではあるが、人生ではタイミングが重要だ。

何事もタイミングを見極め、選択や決断をするからこそ道は開けるのだ。

だから、私は今こそ、あのセリフを言うタイミングだと感じ、道を切り開こう。






「ここは私に任せて先に行け!」

「分かりました。」

「安らかに眠ることを祈ってるな。」

「あぁ、何と言う事だ。悲しくも尊い犠牲が出てしまった。しかし、だからこそ私たちは彼の分まで生き延びねばならないのだよ。」

「いや誰か1人くらい止めるなりしろよ!え?ちょっと待って、本当に見捨てる流れじゃん!?」


それはゾンビを相手に生き延びるオンラインゲームを竹塚、伊江、そして何故か長谷道と一緒にプレイしていた時だった。

今こそ、人生で一度は言ってみたいセリフ『ここは俺に任せて先に行け!』を言うタイミングだと思ったのに、まさか全ての仲間から見捨てられるとは誰が予想できようか。

普通、躊躇うだろ。惜しむだろ。止めるだろ。

なんで一切考える間すら置かずにノータイムで見捨てる方向に一致団結出来るんだよ。


「だって一番遅れてるの安達ですし。」

「体力も一番低いからな。」

「ここは任せろって言ってたから信頼したまでさ。」

「こいつら………!と言うか長谷道に関しては信頼されるほど絡み無かったじゃん!」

「何を言っているんだい?一緒に後輩に勉強を教えてもらった仲じゃないか!」


そう言えばそんな事もあったな。でもそれを竹塚と伊江の前で言わないでもいいだろ!

通話越しだから表情は見えないけど、絶対呆れてるぞ。

いや後輩に勉強を教えてもらう程に成績がアレなのは呆れられても仕方が無いけど。


「安達、お前………。」

「え?後輩に勉強を教えてもらうような先輩がいるんですか?」

「ここにいるさ!なぁ、安達くん!」

「自信満々に言うんじゃない。と言うか、元はと言えば竹塚が課題の協力者として長谷道を紹介したのが原因じゃん!こいつ、勉強できるのは文系限定で化学の課題じゃ欠片も役に立たなかったぞ。」

「協力してもらってるのに酷い言い様だな。」

「協力する気無くなりますよね。あ、3人集まったのでセーフハウスのドアを閉めますね。」

「今のは言い過ぎた申し訳ないいつもお世話になってます皆のお陰で助かってますだから閉めな『ガシャン!』開けろぉ!いや開けて下さい!」


滅茶苦茶呆れられた。なんで長谷道は自信満々でいられるのか不思議で仕方ない。

しかし言い方が悪かったのは事実。息継ぎ無しで謝罪の言葉を発したが、閉め出された。

慈悲は無いのか、慈悲は。


「ぎゃああぁぁぁぁ!ゾンビ共が群がってくる!」

「頑張れー。」

「南無阿弥陀仏。」

「応援する気無いだろ!畜生!これでも喰らえ!あ、弾が尽きた………。それなら手榴弾!………あっ。」

「足元に手榴弾転がしましたね。」

「なるほど、自らがゾンビとなって立ち塞がらぬように自決するとは。これが覚悟、か。君の事は忘れないよ。30分くらい。」


必至に応戦するも既に満身創痍。弾薬は尽き、最後の足掻きで手榴弾を投げた。

が、ミスって足元に落っこちた。

そして爆発と共に浮かび上がる『You Dead』の文字。

あと長谷道、好意的に解釈するのは良いけど、それならもっと覚えていてくれ。


「…………ここは任せて先に行け!」

「もう任せるステージ超えたんだよな。」

「それじゃ次に進みましょうか。」


結局、私の操作していたキャラクターは死亡したまま次のステージへと進んで行った。

恰好付けてみたけど、見てるだけって結構暇だぞ?


「さっきから疑問だったんだけど、長谷道って私達とあんまり関わりないけど、今回はどうして参加したんだ?」

「おやおや?私たちの絆の前に、関わった時間なんて些細な要素だと思うんだが。」

「いや俺もそこまでの絆とやらを結ぶ程話した覚えないからな。」

「少なくとも私は絆を結んだとか言ってる長谷道に何の躊躇いもなく見捨てられたぞ。」

「くっ、助けられなかった………!」


助ける気皆無の奴がなんか言ってるんだけど。

いや本当についこの間出会ったばっかりで、しかも変人って印象しかないんだけど。


「僕がゲーム仲間だったので誘いました。」

「なるほどな。」


竹塚が真実を告げる。

そんな事だろうと思ったよ。


「つまり私たちの絆が故という訳だね。持つべきものは友。つまりはそう言う事だ。」

「こいつ何でも自分の都合の良いように言い換えてないか?」

「奇遇だな、伊江。私もそう感じる。」

「良くも悪くも我が道を往く性格ですからね。でも見てて面白いので。」


竹塚の評価が動物の奇行を眺めるそれなんだけど。

………まぁ、あながち間違ってはいないだろうけど。


「………あ、しまった。」

「長谷道がゾンビに捕まったな。」

「大丈夫!私は君たちが友情に篤く、決して仲間を見捨てないって信じているから!」


安心しろ長谷道。




こいつらさっき私の事を即座に見捨てた連中だぞ?


「よしもう少しでゴールですね。」

「それじゃさっさとクリアするか。」

「仲間を見捨てるのかい!?」


本当に困ってたら助けてくれるけど、こういう遊びの時とかだと容赦がないから。

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