立て籠もり

ある日の放課後。


「やぁ、安達くん。」

「ちわっす。」

「長谷道と永篠じゃん。珍しい組み合わせだな。」


廊下を歩いていたら正面から走ってきた長谷道たちに声を掛けられる。

普段は見ない組み合わせに物珍しさを感じていると、長谷道がとんでもない事をのたまう。


「早速だけど、君には人質になってもらうよ。」

「は?」


意味が分からない。

人質?

私が?

何の為に?


「早くこっちに来るっす!」

「は?」


困惑していると2人に手を引かれて連れて行かれる。

理解が追い付かず、なされるままに空き教室に入ってしまったが、一体何だと言うのだ。

私が問いただそうとする前に事態は動く。


「ここにいるのは分かっていますぞ!大人しく人質を解放して投降するのですぞ!」

「断固拒否するよ!」

「断るっす!」


教室の外には姉河がいるようで長谷道たちに対して投降を呼びかけている。

こいつらは一体何をやったんだ。

いや私を人質にして立て籠もってはいるけど。


「こちらの要求を飲まないと言うのであれば……………安達くんに何かしらの迷惑をかけるよ!」

「………それはいつもの事では?と言うか既に現在進行形で迷惑かけられてるんだけど。」

「ほら、安達っちも悲痛な叫びをあげてほしいっす。」

「そもそも現状に対して理解が追い付いてないんだけど。何やってんだよ、お前らは。」


要求ってなんだよ。

なんで悲痛な叫びなんてあげなくちゃいけないんだよ。

まず説明をしろ、説明を。


「あれはさっきの生徒会と各委員会の委員長が集う定例会議の事だったっす………。」


永篠は事の発端を説明し始める。






「やはり自分は思うのです。健全なる肉体には健全なる精神が宿るべきであると。しかし昨今は生徒たちの運動不足が顕著でして。なので運動推奨月間を設けるべきだと提案しますぞ。」

「なるほど。悪くないな。」

「いいや反対!反対だね!」

「長谷道、お前はただ単に運動したくないだけだろう。」

「うちも反対っすよ。」

「永篠美化委員長もか。では投票で決議するとしよう。」


姉河の提案に対し、賛否を決するために投票が行われ、その結果………


「ふむ。生徒会執行部、風紀委員会、保健委員会、学級委員会、体育委員会、広報委員会、選挙管理委員会が賛成で合計7票。図書委員会、美化委員会、文化委員会が反対で合計3票。よって姉河風紀委員長の提案は可決だ。」

「くっ、これが数の暴力か………。」

「もっと個人の自由を尊重するべきだと思うっす。」

「個人の自由は確かに大事だが、別に強制する訳では無いだろう。姉河風紀委員長が言うようにあくまでも推奨なのだから。」






「と言う訳っす。」


運動推奨月間とやらは確かに面倒くさそうだけど、なんにせよ自分の与り知らない事で巻き込まれたという事はよく分かった。

決定してしまったのなら、いかに楽をするかを考えて行動すれば良いだろう。

と言うか、そもそも永篠に関しては大体の面倒ごとはサボってるだろう。

それなのに何故、今回はこんな形で抗議してるんだよ。


「もしも出てこないと言うのであれば………。」

「出てこないと言うのであれば?」

「扉を破壊して中に侵入しますぞ!その後、皆で先生に怒られますぞ!」

「想像以上に諸刃の剣っすね。」

「いや、姉河くんの事だから先生からの説教もご褒美とか言い出すんじゃないかい?」


姉河が扉の破壊を考慮していると語るが、長谷道が言うように一見自分にも被害がありそうで実は無い。

自分の性癖をこんなところで有効活用するな。

と言うか………


「待って、さり気なく巻き込まれただけの私まで皆の中に括らないでほしいんだけど。」

「旅は道連れだね。」

「一蓮托生ってやつっすよ。」

「姉河ー!私は巻き込まれただけだから早く助けてくれー!」

「あ、やっと人質らしい悲痛な叫びをあげたっすね。」


2人はとても良い笑顔でサムズアップする。

こんな禄でもない連中に巻き込まれて私までお説教なんてされたくない。


「むむっ、人質の悲痛な叫びが!こうなっては致し方ありませんな。せいっ!」

「うわっ、本当に壊したっす。」

「扉って、そんなにあっさり壊れる物じゃないと思うんだけど。」


バキッと言う音とともに扉を破壊し、教室に入ってくる姉河。

流石のパワーに永篠も長谷道も顔が引きつっている。


「さ、皆で職員室に行きますぞ。」

「姉河、私は人質だから悪くないんだけど。このまま帰りたいんだけど。」

「被害者の証言も必要だと思うんだよね。」

「そうっすね。安達っちも一緒に行くっすよ。」

「やめろー!離せー!」


姉河に私が被害者だと伝え、帰ろうとするが、長谷道と永篠に腕を掴まれる。

やめろ、私は職員室に呼び出される常連だから、先入観で私がやらかしたみたいに見られるだろう。

恐らく長谷道はそれを理解して、永篠はそれに乗っかって、姉河はそれもそうかと考えた結果、私は本日2度目の連行を体験する事になったのだった。

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