秘密基地

ロマン、それは生きる上で、必須ではないだろう。

だが、あった方が人生を豊かにできる。

空虚に生きるよりは心に実りのある生き方の方が良いだろう?


だから




「秘密基地を作ろう!」

「頭でも打って脳みそだけ小学生になったのか?」

「安心しろ。私はいつだって正気だ。」

「秘密基地なんて言葉、久々に聞きましたよ。」

「竹塚、もっと言ってやんな。」

「どこで作りますか?」

「そうだそうだ。どこで……って違う!」


竹塚の疑問ももっともだ。

我々を満足させるような秘密基地を作るのであれば相応の場所が必要になる。


「校庭の隅に穴でも掘って地下に作るのはどうだろうか。地下基地って響きからしてロマンの塊だぞ。」

「確かに手狭になったら掘り進めることもできるでしょうから、拡張性も十分ですね。」

「作る前提で話が進むんだな。つーか校庭の地面なんて硬くて掘れやしないんだよな。仮に掘れたとしても地震や雨でダメに決まってるな。」


なんだかんだ会話に混ざってくる伊江。その心配は確かにあるな。

この難問をどう解決するか。


「お困りのようだね。」

「その声は!」


声の方へと視線を向けると、そこには科学部の青井が立っていた。


「ちょうど新しい薬品の実験場が欲しいと思っていたんだ。」

「んん?実験場?」

「いや、秘密基地、良い響きじゃないか。是非とも協力させてもらうよ。」


なんか今不穏な言葉が聞こえたけど気のせいだろう。

青井がロマンを理解できる奴で良かったよ。

それに比べて伊江はロマンをもう少し理解すべきだな。


「こっち向いて溜息吐くな。絶対失礼な事考えてるよな。あと青井を仲間に入れるのは止めとけ。あの青井だぞ?」

「おや?伊江君、私の事を仲間外れにするのかい?」

「自分の今までの行いを振り返ってからもう一度そのセリフを言ってみるんだな。」


おいおい伊江、何を言ってるんだ?


「青井は頼りになる奴だぞ?この前も頭の良くなる薬くれたし。」

「それ絶対騙されてるからな。あと更にその前はめちゃくちゃ苦いグミ渡されてたよな。」

「青井、これから面接を開始する。」


グミの件は、まぁ一旦置いておくとして、人格の面でも仲間として秘密基地に招き入れて大丈夫か確認するのも大事だし。


「私なら校庭の地面を軟化させて掘りやすくしたり、水の循環装置を作ったり、耐震性の素材は何を使えば良いか分かるよ。」

「これは認めてもいいのでは?」

「待て、能力面が優秀でも人格面に問題があるかも知れないな。大いに。」

「ここまで真面目に受け答えして、役に立とうと頑張っても、認めてくれないのかい?この前、私の事を友達って言ってくれたのはウソだったのかい?」


伊江の言葉を聞いた青井が涙目になりながら、こちらを捨てられた小動物のように見つめてくる。

そんな表情をされると悪者になった気分になってくる。言ったのは伊江だぞ。

それに、


「嘘じゃない!お前は私の友達だ!一緒に秘密基地を作ろうじゃないか!」

「やったー。」


友達を仲間外れにする訳ないだろう!

皆で作ろう秘密基地!


「いや、俺は作るとは一言も言ってないからな。」

「「「え?」」」

「え?じゃねぇよ。学校の地下とか問題大アリだし、秘密基地なんて作ってどうするんだよ。」


伊江は分かってないな。何故秘密基地を作るかだって?


「そこにロマンがあるからに決まってるだろ?放課後に秘密基地に集合して遊んだり。楽しそうじゃん。」

「秘密基地である必要ないよな。」

「おや?そんな初歩的な事も分からないのかい?人に見られたらマズい実験とかも出来るじゃないか。」

「そもそも人に見られたらマズいような事するなよ。」

「どうせなら巨大合体ロボットとかも作りたいですよね。」

「竹塚はいつの間にか妄想が飛躍してるし。」


なんだ、伊江は否定してばっかりで。

いつからお前はそんなに狭量な人間になってしまったんだ。


「絶対バレるし、怒られるぞ。それなのになんで『課題手伝ってくれ』感覚で協力してもらおうとしてるんだよ。普通そんなの拒否するんだよな。」


この小市民め、いやまぁ確かにロマンが理解できないのであれば協力するメリットないだろうけど。

けど………


「友達、だろ?」

「決め顔でいい感じの事言っても地獄への道連れを増やそうとしてるようにしか聞こえないんだよな。つーか友達が悪い事しようとしてたら止めるよな?仮に俺が銀行強盗するとか言い出したら止めるだろ?それと同じだ。」

「え!?伊江、銀行強盗なんて計画してるのか!?」

「流石にそれはマズいと思うよ。」

「自首しましょう。今からでも遅くはないです。」

「違ぇよ!『仮に』って言っただろ!『仮に』って!しかも竹塚に至ってはもう実行した後って認識で話してるし!」


なんだ、びっくりさせるんじゃない。危うく110番に電話しかけたぞ。

でもここまで盛り上がって『やっぱ止めた』なんて出来ない。


「よし!竹塚、青井、伊江!秘密基地建築用の道具や資材を買いに、ホームセンターに行くぞ!」

「「おー!」」

「………うん、行ってこい。」


伊江は付いて来てくれないみたいだが、私には頼もしい仲間が2人もいる!

そして伊江とは分かれて、私は竹塚と青井と一緒にホームセンターに向かった。

しかし、


「た、高い……。思ってた金額の数段高いぞ。竹塚。」

「無理です。そんなお金持ってないです。」

「青井、なんか建築とか掘削とかに使えそうな道具は。」

「流石にそれは無いね。」

「………帰るか。」

「そうですね。」

「新しい実験場はまた今度探すことにするよ。」




秘密基地建造の野望は、この物価という壁に阻まれて露と消えたのであった。

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