当選
「伊江、聞いてくれ。」
「ピタゴラスイッチをやりたいとかなら断るぞ。」
「いや違うから。なんでいきなりピタゴラスイッチなんて言葉が出てくるんだよ。」
確かに、稀に、ごく稀に、天才的な発想から予想できない事を言ったりすることはあるけど、それでも唐突にピタゴラスイッチがやりたいなんて言わないから。
「だってお前、さっき授業中に物理の教科書を開いてたからな。」
「おいおい伊江、授業中なんだから教科書くらい開くだろ。何言ってんだよ。」
「お前にそのセリフをやれやれって表情で言われると、こんなにもイラっとするんだな。まぁ、授業中に教科書を開いてるのは当たり前だな。
でも数学の時間に開く教科書じゃないよな。」
いや、ほら、それは……アレだよ。
「数学と物理って切っても切れない関係じゃん。世の中色々な事が複雑に関係しあってるって、誰かが言ってたし。」
「そうだな。その言い訳は数学で扱ってた内容が確率じゃなければ、もっと説得力があったんだけどな。」
「と言うか、なんで伊江が私の開いてた教科書なんて知ってるんだよ。授業は先生と黒板の方を見るべきだぞ。」
「違う教科の教科書を開いてた奴に何を言われても説得力皆無だからな。あと俺の席の方がお前の席より後ろにあるんだから、明らかに自分の開いてるページと違うページが視界に入ったら気になるだろ。」
「とにかく!私はピタゴラスイッチをやりたいんじゃない。」
「じゃあ何だよ。ペットボトルロケットでも飛ばしたいのか?」
「それはそれで楽しそうだけど、今回は違う。」
「じゃあ何だよ。」
「ちょっと大統領選挙に出馬しようと思って。」
「止めときな。政界の為にも。世界の為にも。」
なんで世界レベルの迷惑かける前提なんだよ。
政界は、まぁ多少は仕方が無いね。
「規模がデカ過ぎるだろ。」
「いきなり大統領選挙とか言い出す奴が何言ってんだよ。」
人間誰しも一度は大統領を目指すと思うんだ。
つまり私の大統領選挙発言は何一つとしておかしくはない。
「そもそも日本に大統領って役職は無いからな。」
「アメリカとか、どっかしらの外国で出馬しよう。」
「自分の英語の成績を見直してから、もう一度言ってみな。」
「これからの成長に期待出来る成績だぞ。」
「それよりも、私が大統領になったら秘書に任命してやるから伊江も手を貸してくれ。」
「なんで罰ゲームを受ける為に罰ゲームに参加しなくちゃいけないんだよ。」
「罰ゲーム?どこがだよ。」
「全部だな。」
「じゃあ私が大統領になったら伊江を部下にする法律を作ろう。」
「能力じゃなくて仲が良いからって理由で人選しようとする辺り、絶対に権力を持たせたらいけない奴の典型例だな。」
「大統領になっても、周りには優秀だけど知らない人しかいないとか、誰が私の通訳をするんだよ。」
「言っとくが、俺も英語の成績が優れてる訳でもなければ、リスニングが得意って訳でも無いからな。たぶん本場の英語なんて聞き取れないからな。」
「マジか。じゃあ英語を義務教育にする法律を作る。」
「とっくに義務教育だよ。」
そう言えばそうだった。
やっぱりこのグローバル化?した現代に英語を話せる知り合いは必須だからな。
自分で勉強するのは面倒くさいけど。
「それならどんな法律を作ろうか………。」
「大人しくしてろ。あとそもそも出馬や言語の問題以前に、外国籍が無いだろ。」
「席なら今座ってるぞ?この椅子じゃダメなのか?」
「むしろなんでそれで許されると思った。要するに出馬するにしても、その国の一員として認められてなきゃダメだろって話だからな?」
「マジか、自由の国は誰でも大歓迎だと思ってた。」
「自由と無秩序は違うからな。」
そんな……。
言葉の時点で壁が分厚いのに、国の一員として認めてもらわないといけないなんて。
まぁ確かに、『どこの誰かも分からないような奴に国のトップは任せられない。』と言われれば納得せざるを得ない。
でも多くの改革を実行する正体不明の大統領って、いるとしたら響き的にカッコいいとも思うが。
「そもそも、どうして大統領選挙に出馬したいなんて思ったんだよ。」
「選挙で当選したらダルマに目玉を書くだろ?アレやりたくて。」
「全人類の為に諦めるべきだな。そもそも、そんなにダルマに目玉を書きたいなら勝手に書けば良いと思うがな。」
伊江、相変わらずロマンを理解していないな。
「どうせなら、当選しておめでたい感じの雰囲気の中で書きたいじゃん。」
「そうか。もういっその事、生徒会選挙にでも出たらいいんじゃないか?」
確かに生徒会選挙の方が出馬する条件としては楽だろう。
しかし、
「生徒会の仕事は面倒臭そうだからヤダ。」
「大統領の仕事は生徒会の仕事とは比べ物にならないくらいハードだと思うけどな。それに暗殺者とかに狙われたりするらしいぞ。」
「マジか。大統領諦めるわ。」
「そうしてくれ。」
大変な仕事をしながら暗殺者に狙われるとか、それこそ罰ゲームだ。
てっきり、なんか法律作ったり、偉そう演説する仕事かと思っていたが、そんな事は無かったようだ。
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