呼び出し2

「安達くん、今日はどうして呼び出されたか分かりますか?」

「分からないです。遅刻もしてなければ、夏休みの課題だってめっちゃ頑張って終わらせましたよ。」

「そうですね。普通の事ですが、普通の事を普通に出来るのは大切な事です。よく出来ましたね。でもそうじゃないんですよ。」

「あ、分かりました!頑張ったから全校集会で表彰とか、そんな感じですか!」

「違います。」


おかしい、今回は夏休みが終わったばかりで特に問題は起こしていないはず。

怒られるどころか、その逆。褒められる関係かと思ったが違ったようだ。

てっきり夏休み明けなのに遅刻しなかった事と課題をキチンと提出したことを表彰されるかと思ったのに。


「じゃあ夏休み中の事ですか?」

「度々、噂話で安達くんの奇行は耳にしていましたが違います。」

「え、大人しく普通の夏休みを過ごしていましたよ。」

「安達くんで大人しいレベルと言えるなら世の中の問題児は半分はいなくなりそうですね。」


分からない。

特に夏休み中にも怒られるようなことをしていない、誰が見ても普通の生活を送っていたはずなのに。

何故だ。


「本来であれば補講中に安良川先生に失礼な事を言った点もお話をしようかと思いましたが、それはその場でお説教されたらしいので私からのお説教はしないであげましょう。」

「先生、違うんです。誤解だったんですよ。不幸なすれ違いってやつです。」

「失礼な事を言ったのは事実でしょう。」


お互いの認識の相違。

恐ろしい物だ。

こういう事が多々あるから、人々の間から争いが無くならないんだなって。


「夏休み明け、校長室から出てきた安達くんを目撃したと言う話を聞きました。校長先生は滅多な事では起こりませんが、何か失礼な事をしたりはしていないですよね?」

「先生、待って下さい。私は無罪です!長谷道に連れて行かれただけなんです!それにその時は竹塚と伊江も一緒でした!なのに私だけ呼び出されるのは不公平じゃないですか?」

「そうだったんですね。その部分は初めて聞きました。ですが安達くんだけでないのであれば大丈夫そうですね。」

「先生、私だけだったら何かやらかすと言いたげですね。」

「竹塚くんと伊江くんは基本的にいつも安達くんのストッパーになってくれますからね。」


それは暗に私1人だったら何かやらかしていたって事じゃん。

何故ここまで信頼が無いのか。

さっき挙げたメンバーの中には、私以外にも、いや私以上に何かやらかしそうな奴だっていたと言うのに。


「それに長谷道だって何かやらかす心配はしないんですか?」

「長谷道くんはたまに職員室で先生とお喋りしに来たりしていますし、教頭先生なんて長谷道くんとお喋りしていると、とても楽しそうにしていますから。少なくとも校長先生にだけ失礼な事をする生徒じゃないと言う事は把握していますよ。」


くっ、外面だけは良い奴め。

日頃の行いが悪いからと目を付けられている私よりも、長谷道の日頃の行いをもっと目を凝らして見た方が良いと思うぞ。


「でもあいつ、校長室の棚を勝手に開けてお茶を出したりしてますよ。」

「え、それは本当ですか?彼がそのような事をする子には見えませんでしたが………。」

「まぁ校長先生も校長先生で気にせず要望を伝えてましたけど。」

「うーん………。実際にその状況に居合わせた訳では無いので推測になりますが、それは勝手にやったと言うよりも、そう言う取り決めや暗黙の了解などだったのでは?」


校長先生が大らかと言うのもありそうだが、確かにその可能性も高そうだ。

でも私の目の前では勝手に開けていたのでやっぱりもう少し警戒をした方が良いと思う。


「でも先生は安心しました。安達くんは職員室に呼び出される常連ですからね。てっきり校長先生と親しくなって庇ってもらおうと考えているものだと思っていましたよ。」

「え、いや、あははははは、そ、そんな訳ないじゃ、無いですか。私は純粋に、そう、純粋にこの学校にいる間に校長先生がどんな人か知りたかっただけですよ。好奇心ってやつですよ。」

「安達くん、なんだかとても目が泳いでいるように見えるんですけど。」

「やっぱり夏と言えば水泳じゃないですか。目もバタフライくらいしますよ。」

「まるで図星を突かれたみたいに冷や汗をかいていませんか?」

「やっぱり夏は暑いですよね。これだけ暑いといっぱい汗をかいちゃいますよ。」

「とても焦っているかのように言葉に詰まっているように聞こえましたが。」

「私の言葉ってシャイなんですよね。だから中々出て来ようとしなくって、いつも困ってるんですよ。」

「今はスラスラ喋れてますけど。」

「一度外に出たら慣れたんですよ。よく『アンジーよりは有無が嵐』って言うじゃないですか。」

「謎のことわざを作らないで下さい。恐らく『案ずるより産むが易し』って言いたかったんですよね。」


マズい。

何故か追い詰められている。

でも断られたし、成果は無かったし、それなら0って事だから、つまりはやらかしていない事にはならないだろうか。


「安達くん。」

「はい。」

「以後そう言ったことはしないようにして下さいね。先生は安達くんが権力者に媚びを売るだけの大人にはなって欲しくないんです。」

「はい………。」


ならなかったよ………。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る