肝試し

「皆、よく集まってくれた。」

「今回は一体何事ですか?」

「集まってくれって連絡されたが、内容は聞いてないな。」

「そうね。まぁ、いつもみたいにくだらない事でしょうけど。」

「むしろくだらない事じゃ無い場合の方が少ないぜ。」

「まぁ良いじゃねぇかぁ。」


ある日のファミレス。

竹塚、伊江、沙耶、親方、丹野が私に呼ばれて集められていた。


「今回は皆に相談があるんだ。」

「相談ですか?」

「遂に自首するんだな。」

「しないから!と言うか遂にってなんだよ、遂にって。」

「日頃の行いがアレだから、何か犯罪でも」

「何もやってないから。無罪だから。冤罪だから。」

「日頃の積み重ねが大事なんですね。罪だけに。」


余計なお世話だ。

竹塚は竹塚で上手い事を言ってるんじゃない。


「相談料にケーキを奢ってもらうわよ。」

「え、今もアイス食べてるのにまだ食べるのか?と言うかそのアイスも私の奢りだよな?」

「ここまで来てあげたんだから良いじゃない。」

「そんなに食べると太、いやなんでもないです恐ろしい目つきでこっちを見ないでください。」


余計な事を言えば、その瞬間に私の命が消えるだろう。

そう感じられるほどに、圧力を与える目をしているのだ。


「オレには分かっちまったぜ。安達が何を言いたいのか。」

「本当か、丹野?」

「恐らくは新しく遊びでも考えたんだろうぜ。」

「まぁ当たってはいないが、的外れって訳でも無い。」

「流石は丹野ですね。」

「それ程でもあるぜ。」

「やっぱり同じ馬鹿同士、通じ合う所があるんだな。」

「おいおい、オレの方が賢いに決まってるぜ。」


確かに楽しい事に変わりは無いが、遊びかと言われると悩ましい。


「丹野の寝言は置いておくとして、だ。実は親方の為に肝試しを開催したくてさ。」

「肝試しですか。」

「それで皆からアイデアを聞きたかったんだ。」

「いや待て、なんでその話を、本人である俺の前でしよぉとしてんだよぉ。」

「やっぱり最初は場所選びからだよな。」

「無視すんじゃねぇよぉ。」


夏と言えば肝試し。

肝試しと言えばビビってる奴を見るのが醍醐味。

見た目に反してビビりな親方を肝試しに参加させたいと感じるのは当然の事だろう。


「やっぱり肝試しと言えば墓地だぜ。」

「王道っちゃ王道だけど、親方が墓地に近づいたら意識を失う可能性があるな。」

「トンネルとかって幽霊とかいるイメージがあるぞ。」

「でもトンネルなんてこの辺りにありませんよね。」


無いなら作るか?

でもそうなるとすぐに肝試しは出来ないな。

かと言って墓場の周辺まで親方を連れてきて気絶されたら運ぶのも面倒だし、どうしたものか。


「ケーキバイキングとかどうかしら。」

「それは沙耶が行きたいだけだろ。」

「いいえ、待って下さい。ケーキバイキングと言えば、恐らく周りは女性ばかり。そんな中、大柄で厳めしい親方が肝試しをするなんてある意味ホラーじゃありませんか?」

「確かに、言われてみればその通りだぜ。」

「もうホラーってぇよりかはギャグになってんだろぉ。」


面白そうだな、それ。

流石は沙耶だ。

私では思いつきもしない発想をしてみせるとは。

まぁ間違いなくケーキを食べたいから思いついただけだろうけど。


「場所は決まったから、次は何を使って、どんな感じに驚かせるか、だ。」

「普通、肝試しって言ったらコンニャクだよな。」

「普通過ぎじゃない?ケーキバイキングだったらケーキで驚かせても良いんじゃないの?」

「ケーキで驚かせるってどうやるんですか?」

「………カロリーを表示するとか?」

「親方はそれじゃ驚かないと思うぜ。」


それで驚く、と言うか怖がるのは女子だろう。

だが親方は漢だ。

しかもこの体格だから体重なんて気にしていないだろう。


「親方はどう思う?どうすれば親方は驚くか考えて欲しい。」

「本人にそれを聞いてるって時点で十分驚いてるよぉ。」

「なるほど。じゃあ親方は『何をすれば驚くか』を聞けば驚くらしいから、それでいこう。」

「『それでいこう。』じゃねぇ。」


流石は親方。

親方の事をよく理解している。

やっぱり親方を呼んで正解だったな。


「でも親方の言う通りだぜ。」

「丹野。」

「それだけだと物足りないから、もっと増やそうぜ。1人1個、やることを考えようぜ。」

「沙耶はカロリー表示、親方は質問、じゃあ後は竹塚と伊江と丹野と私か。」


さて、どうやって親方を驚かせたものか………。

悩み、考えていると、伊江がアイデアを出す。


「そうだな………骨格標本みたいな骸骨を突然目の前に落下させる。」

「マジで気絶すっから止めろぉ。」

「僕だったら人体模型を突然目の前に落下させますね。」

「だから気絶すっから止めろっつってんだろぉ。」

「オレは……………何を落下させれば良いんだ?」

「落下させなくて良いんだよぉ。一回落下から離れろぉ。つーかそもそも驚かせようとすんのを止めろぉ。」

「そうだ、オレはオレ自身が親方は目の前に落下するぜ。でも突然だと危ねぇから事前に伝えておくぜ。」

「結局落下すんのかよぉ。」


こいつら落とし過ぎだろ。

しかし良い感じのアイデアである事に間違いはない。

これはハードルが上がってしまったかも知れない。


「それなら私は………落とし穴を掘って親方を落とす!」

「驚くだろぉけどよぉ、肝試しってそう言う驚きじゃぁねぇだろぉ。」

「しかも親方も驚くって言ってくれたぞ。完璧だ。」

「さっきも言ったけどよぉ、こういう企みって本人がいねぇ時にするもんじゃぇねのかぁ?」

「親方の意見も聞きたかったんだ。」

「そもそも肝試しなんて絶対ぇ参加しねぇぞぉ。」

「え?僕たちが意見を出し合い、」

「全力で準備した肝試しに、」

「参加しないって言うの?」

「親方、そりゃねぇぜ。」

「良心に訴えかけるんじゃあねぇよぉ。」


皆でここまで説得すれば親方も文句を言いながらも参加してくれるだろう。

早速、肝試し会場で使わせてくれそうな場所を探さないと。

少なくともトンネルよりは近場にあるだろうし、きっと大丈夫だろう。






後日。


「ケーキバイキングの店の人に話したら断られたぞ。親方には悪いが肝試しは延期だ。」

「そりゃそうなるだろぉよぉ。つーか中止にしてくれぇ。」


肝試しを主催するのって、難しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る