人質

「漫画とかドラマでやってるような感じで人質を取ってみたい。」

「通報しとくぜ。」

「安達、時々面会には行くので安心して下さい。」

「ちょっと待て!実際に人質を取って何か要求したいとかじゃなくて、そういう遊びをしてみたいってだけだよ!」

「もしもし!目の前に犯罪者が!」

「聞けよ!あと犯罪者じゃない!」

「発言は犯罪者予備軍ですけどね。」


誰が犯罪者だ。誰が犯罪者予備軍だ。

遊びって言ってるだろ。

あと丹野は電話するのを止めろ。何で私のスマホに電話してるんだよ。

話してる最中に着信があったから誰かと思ったら、お前の名前が画面に表示されてるんだよ。


「やってみたいと思うこと自体は自由だろ。」

「やってみたいと思ってしまう事が犯罪者への第一だと思うんですけど。」

「もし何かやらかしても安心して良いぜ。オレがキチンとインタビューで『いつかやるんじゃないかと思ってた』って言っとくからよ。」

「何をどう安心すれば良いんだよ。不安しかないわ。そもそもやらかさないし。」


この友人たちは人の事を何だと思っているんだ。

そこは友人として罪を犯さない事を信じるべきだろう。


「そんなにやりたいなら入屋を人質にしたらいいんじゃないですか?」

「馬鹿野郎、今日を私の命日にするつもりか。」

「葬式には参加してやるよ。」

「勝手に人を死んだ扱いするんじゃない。沙耶を人質とか出来る訳がないだろ。」


沙耶を人質にしようだなんて命知らずにも程があるだろう。

もしくは沙耶の恐ろしい程の強さを知らないと言う可能性もあるが。


「じゃあ委員長とか人質役が似合うんじゃないか?」

「馬鹿野郎、最恐のボディーガードが、沙耶が飛んでくるわ。」

「30分くらいは喪に服してあげますね。」

「勝手に人を死んだ扱いにするんじゃない。委員長を人質にするとか沙耶以外の奴らも敵に回すことになるじゃないか。」


ある意味沙耶を人質にする以上に恐ろしい事になるぞ。

なんならクラスメイト全員からボコボコにされるまであり得る。


「それなら親方とかどうですか?」

「馬鹿野郎、それだと私が人質に取られているみたいじゃないか。」

「安達が人質だったら見捨てても大丈夫だな。でも親方が犯人じゃ人質がいてもいなくても逮捕出来ないぜ。」

「なんで私が人質だったら見捨てるんだよ。友達を見捨てるんじゃない。」


親方を逮捕出来ないと言う点では大いに同意するが、私を見捨てようとした丹野は絶対に許さない。


「じゃあ竹塚はどうだ?」

「馬鹿野郎、竹塚を人質にしたが最後、私が課題を手伝ってもらえなくなるじゃないか。」

「人質兼交渉役ですね。人質にされながら『安達は既に包囲されています!大人しく投降して下さい!』って言うのも面白そうですね。」

「ただの命乞いに聞こえるぜ。」


そもそも人質にされてるのに包囲されてるとか分かるのか。エスパーじゃん。

そんな能力持ってるなら最初から人質にされないだろう。


「それなら丹野はどうですか?」

「馬鹿野郎、丹野が人質じゃ誰も助けようとしないだろ。私でも一切躊躇いなく見捨てる。」

「馬鹿野郎はお前だ。躊躇えよ。オレの事を何だと思ってんだ。ついさっき友達を見捨てるなとか言ってた奴の言うセリフじゃねぇぞ。」

「だって丹野だし。私の事を見捨てる発言をしなければ躊躇ってやったのに。」

「躊躇うだけかよ。助けろよ。」


でも丹野だし。良いかなって。

人を見捨てるって事は人に見捨てられる覚悟があると言う事だろう。

私は無いけど。


「いっそ安良川先生でも良いんじゃね?」

「馬鹿野郎、普通に怒られるし、怒られるだけじゃ済まないだろ。ただでさえ私たちを見る目が厳しいのに、これ以上悪化したら最悪だぞ。」

「安達や丹野の扱いは日頃の行いのせいですね。」

「毎日を楽しく過ごしてるだけなのに目を付けられるのは納得がいかないぜ。」

「しかも自覚が無いとか質が悪いですね。」


日頃の行いは置いておくとして、教師を人質ごっこに巻き込むのは色々マズい。

お説教や奉仕活動では済まない。今後の学校生活が危うい。


「犯罪者予備軍のくせに選り好みしますね。」

「ごっこ遊びだって言ってるだろ。」

「いっその事、安達が人質になれば良いんじゃないか?」

「なんでだよ。ついさっき私が人質になっても見捨てる発言した連中が何言ってんだよ。」


ごっこ遊びとは言え、見捨てられると分かっていて人質になる奴はいないだろ。

そもそも助かると分かっていても人質になんてなりたくは無いけど。

そんなやり取りをしていると教室の扉が開く。

そこにいた人物は………




「安達くん。職員室に来てください。」

「え?先生」


我らが担任の保木先生だった。


「何があったか知りませんが、自棄にならないで下さい。今ならまだ間に合います。」

「待って、待って下さい。何か勘違いしてます。竹塚!丹野!何か弁護してくれ!ただのごっこ遊びの話だって!」


何か勘違いしている。いや話の流れ的に勘違いされても仕方が無いけど。

流石にこの勘違いはシャレにならない。誤解を解かなくては。


「オレたちは止めたんすけど………。」

「安達を説得できませんでした。」

「おい!?」


何言ってんだこいつら!?人質になってすらいないのに見捨てられたぞ!?

弁護するどころか敵に回るだと!?


「安達、今こそこのセリフを君に送りましょう。」

「なんだよ?」


この状況を打破する魔法の言葉でも教えてくれるのか?


「安達は既に包囲されています。大人しく投降して下さい。」

「余計なお世話だ!」




結局この後の弁明に多くの時間を要するのであった。

最終的には竹塚と丹野が説明してくれたが、それなら勘違いされた時点で説明してほしかった。

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