雑炊

ある日の昼休み、学食にて。


「雑炊って美味いじゃん。」

「そうだな。」

「でもさ、謎があるんだよ。」

「謎?」


食事中にふとした疑問が沸き上がり、口にする。

それは雑炊。

別に今、雑炊を食べていた訳ではないけれど、カレーを食べながら思いついだことだけど、特に理由もなく思いついたのだ。

強いて言うならば、スープカレーっていうカレーがあるのを知って、ご飯と混ぜて食べてみたいなーと思った程度だろう。

しかし、今はそれは重要ではない。

スープカレーよりも雑炊の謎だ。


「なんで雑に炊いたら雑炊になるんだ?」

「そりゃあ………雑に色々入れて炊いたからだろうな。」

「でもさ、雑に作ったことを名前にすることってあるか?丁寧に作ってる雑炊だってあるかも知れないだろ。」

「知らねぇよ。丁寧に作ってても雑炊は雑炊だろ。元からそういう名前の料理なんだから仕方がないと思うんだよな。」


最初から雑と名前に付けるネーミングセンスってどうかと思う。

まぁ、確かに元からと言われれば、そのネーミングセンスが私とは合わなかっただけだと言える。


「でもさ、実は雑炊って水が増える方の増水の可能性もあるんじゃないか?」

「何言ってんだ、こいつ。」


だって響きが同じなんだ。

どっちもゾウスイなんだ。

だったら最初は増水だったという可能性もあるだろう。


「ほら、あれだ、台風が来た時に川を眺めながら作ってた可能性もあるだろ。」

「台風の日に川を見に行くとか死亡フラグだからな。そもそもそんな状況で雑炊、というか料理を作るとか何考えてんだよ。」

「じゃあ水分が少なそうだったから水を足したらなんか良い感じになって雑炊になったとか………」

「水を足して良い感じになったなら元々作ろうとしてた料理になっただけだよな。」


むむむ……。

伊江に正論を突き付けられ、これ以上のアイデアが出ない。

ロマンの分からない奴め、もう少し話を広げてもいいだろう。

悔し気な表情でカレーを口に運び、何か他のアイデアはないか考えていると、水を取りに行っていた竹塚が戻ってきたようだ。


「いえ、実は安達が言うように水が増える方の増水であっているんですよ。」

「竹塚!」


どうやら話を聞いていたようで、私の話に乗ってくる。

それでこそ竹塚だ。


「実は雑に炊くという今認識されている雑炊という料理が成り立つ前に、水を増やす雑炊が存在し、そこから現在の雑炊に転じた訳なんです。」


うんうん。私の言いたかったことを再度竹塚は説明する。


「昔は今ほど食料が供給されていませんでした。だから不作などで飢饉になった時、食べられる食料は少なくなってしまうのです。昔は税金の代わりに農作物を納めたりしていましたし、次に植えるための種もみも必要なので、収穫した作物を全て食料にする訳にはいかなかったからですね。」


なるほど、時代の違いか。

確かに私では考えつかなかった観点だ。

昔がどうだったかは分からないが、竹塚が言うのだから説得力がある。


「しかし食べなくては力が出ません。栄養がなくては病気にもかかりやすくなってしまうでしょう。」


うんうん。ご飯を食べられないと、いつかは動けなくなってしまう。最悪餓死だってあり得るだろう。


「そこで料理に入れる水を増やすことで量を誤魔化し、同時に栄養の問題を解決しようとしたんです。」

「水増しってことだよな。」

「でも量はともかく、栄養の問題は解決できないだろ。」

「いいえ、野菜を煮ることで栄養素が水中に溶け込むってよく言いますよね。つまりは水を増やすことで、溶け込んだ栄養素を多く摂取できるようにしたのです。」

「いや、水分増やしたところで希釈され「確かに!すごいぞ!」あぁ、うん………。そうだな。」

「これも先人の知恵ってやつですね。過酷な時代を生き抜いたからこそ、生き延びることのできる知恵があるのですよ。」


なるほど、さすがは竹塚だ。

まさか雑炊にそんな秘密があっただなんて。


「まぁ実際にはご飯に水を入れて量を増やしたから増水と呼ばれるようになり、そこに具材を増やしたことで『雑多』という意味合いも込められ、現在の雑炊って呼ばれるようになったんですけどね。」

「え、じゃあ栄養の部分は?」

「そこは作り話です。嘘の中に真実を混ぜるからこそ、より真実味は増すんですよ。安達ももっと精進して下さい。」

「くっ、私もまだまだだった訳か………。」

「いや、作り話の実力を鍛えるよりも、知識を伸ばす方を優先した方が絶対に良いよな。」


勉強は面倒くさいし、今ある知識を応用することも賢さの1つだと思うんだ。

だから作り話の実力を鍛える方で頑張ろうと思う。

勉強は面倒くさいし。

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