写真

「はい、チーズ。」

「は?え?」

「ちゃんとポーズ取って下さいよ。もう一回です。」

「待て待て待ていきなりスマホを向けて何なんだぜ。」

「『はい、チーズ』って言ったら由緒正しき写真を撮る時の合図に決まってるじゃないですか。まさか安達も丹野も、そんな事も知らないんですか?」


違う、そうじゃない。私と丹野が疑問に思っているのは『はい、チーズ』の言葉が何を表しているかじゃないんだ。


「オレは安達と違ってそんくらい分かるわ!馬鹿にし過ぎだぜ!」

「ちょっと待て丹野、それだと私が『はい、チーズ』を知らないみたいじゃないか。丹野よりずっと賢い私が知らないわけがないだろう。」

「いいや、オレの方が安達より賢いぜ。」

「何を根拠にそんな妄言を………。」

「何故ならオレは安達より賢いからだ。」

「発言が馬鹿そのものですね。ここまでの馬鹿な発言は近年稀に見るレベルですよ。流石は丹野、僕の予想の遥か上を行きます。」

「だろ?オレくらいになれば竹塚の予想を超えるなんてヨユーって事だぜ。」


馬鹿にされているのに気づいていない時点で相当な馬鹿って事だが、丹野は満足げだし、スルーして良いや。

その点、私は丹野が馬鹿にされてるって気づいたから丹野より賢いって事だし。

いや、それよりも、


「どうしていきなり写真を撮ろうとしてきたのかが気になってるんだよ。」

「大丈夫ですよ。別に写真を撮られたからと言って魂が抜かれる訳ではないので。」

「それくらい知ってるわ!てかなんで写真撮られる程度で魂が抜かるなんて思うんだよ。」

「そうだぜ。カメラが悪魔だったなんて聞いたこともないぜ。」

「まぁ魂云々は昔の人の迷信なんですけどね。ほどんどは。」


ほとんどは?

なんで最後に一言加えたし。嫌な予感がするんだけど。


「それはさておき。」

「さておくな。余計な一言のせいでめちゃくちゃ怪しいんだけど。」

「まぁまぁ。」

「まぁまぁ、じゃなくて。」

「まぁまぁまぁ。」

「絶対なんかはぐらかそうとしてるだろ!説明を要求するぞ。」


この調子の竹塚は大体碌でもない事を企んでいる事が多い。

何としても問い詰めなくては。


「これは今回の話とは全く関係の無い、それはもう欠片も関係の無い話なのですが………。」

「その振り絶対関係あるやつじゃん。この話に関わる雰囲気しかないじゃん。」

「最近ネットで噂なのですが、悪魔のアプリと言う物がありまして。」

「悪魔の。」

「アプリ。」

「そのアプリは使用者の願い事を何でも叶えてくれるらしいのですが、願いの内容、規模に応じて魂を奉げないといけないのです。」


そんな話聞いたことない。

正直言って嘘臭いし、怪しい。

『そんな物存在しないだろう』と思うが、その一方で、『もしかしたら実在するのでは?』と言う考えも頭の中に混在する。


「まぁ実際にそんなアプリがあったら怖いですよね。それはさておき写真撮りましょうか。大丈夫です。魂とか抜かれたりしないので。………………たぶん。」

「『それはさておき』じゃねぇよ!絶対何かある会話の流れだぜ!」

「しかも最後にボソッと小声で『たぶん』って言ったの聞き逃してないからな!」

「やだなぁ。今回の話とは全く、一切、全然、欠片も関係ないって言ったじゃないですか。」

「そこまで念を押されるから怪しいんだよ!もし仮に本当に関係ないとしても、なんで写真を撮る前にそんな話をしたんだよ!」


なんでこの会話の流れでいけると思ったし。

怪しんでくれと言っているようなものじゃないか。

これだけ言われて怪しまない奴なんて、普通はいないだろ。


「仕方がありませんね。事実を教えてあげましょう。それは………。」

「ゴクリ………!」


私は固唾を飲んで竹塚の告げる事実を待つ。


「単純に怪しそうな雰囲気を出した方が面白いリアクションをしてくれるだろうなって思ったからです。なので悪魔のアプリは作り話。関係ないのです。」

「竹塚ぁ!」


散々人をビビらせて!なんて奴だ。

これはガツンと言ってやらなくては。


「でも流石は安達、貫禄の騙されっぷりですね。僕の予想通り、いえ予想を遥かに上回るリアクションを見せてくれました。僕は親友の凄さを見れて大満足ですよ。やっぱり安達は期待を裏切りませんね。」

「んん?お、おぉ!そうだろうそうだろう!私が竹塚の予想の範疇に収まるような器だと思うなよ!私は遥か高みにいるのだから!」

「…………。」


竹塚に認められ、褒められては嬉しくなってしまう。

まぁ、これくらいは当然とは言え、評価されて喜ばない奴はあまりいないからな。

そして丹野。なんだその目は。褒めてもらえなくて嫉妬しているのか?

まぁ私は寛大だし、その目つきも不問にしてやろう。


「で、結局どうして写真を撮りたかったんだよ?」

「この前新しく写真アプリを入れたんですよ。それで撮った写真を面白おかしく編集したいなと思ったので。」

「すげぇシンプルな理由だったぜ。」

「はい。それなのに安達も丹野も嫌がるんですから。」


素直にそう説明すればいいのに。

さっきみたいな話に持ってかれたら抵抗するに決まってるだろう。


「さぁ撮りますよ。はい、チーズ。そして簡単に編集して、と。」

「お、そんな簡単に出来るのか。」

「カッコよくして欲しいぜ。」


そして竹塚が私と丹野を撮影し、編集を加える。

どんなものかと見てみると………




「なんで私の顔が背景の黒板に移されてるんだよ!」

「オレなんて頭が花瓶になってるんだけど!」

「あはははははは!二人とも写真写りが良いですね!」

「次はオレに撮らせろ!」

「いや私だ私!」


何故か私の顔が背景にあった黒板に浮かび上がっていて、丹野の頭には代わりに花瓶が置かれていた。

意味が分からない。

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