花火

「この間、花火を見に行ったんだ。」

「あぁ、あっちの河川敷で花火大会がありましたからね。僕は家から見えるので、そこから見てましたけど。」


アレは派手で綺麗だった。

やっぱり花火は良いな。

しかし私がしたい話はそこではなく、もう少し進んだところにある。


「でさ、ふと疑問に思ったんだよ。」

「何をですか?人は何のために生きているのか、とかですか?」

「違うよ!なんで花火大会に行って人生の意味に対して疑問を抱くんだよ!」


そんな事に疑問を抱くとか、私は花火を見て何を思ったんだよ。

普通、花火からそんな方向に疑問は向かわないだろう。


「一瞬で散り往く花火を自分に重ねたのかと。あ、安達は花火と違って輝いてはいませんでしたね。失礼しました。」

「私は一瞬で散らないし、花火にだって負けないくらい輝いているだろう。本当に失礼だな。」

「安達が花火並みに輝いているとしたら有名人は太陽レベルですね。」


失礼に失礼を重ねていくんじゃない。

いつも私の近くにいるから私の輝き的な物が理解出来ないだけだろう。

まぁどう輝いているかって言われたら返答に困るけど。


「そうじゃなくて、どうして花火を見ている時に玉屋とか鍵屋とか言ったりするんだ?スポーツでもするのか?家の鍵でも無くしたのか?って疑問を抱いたんだよ。」

「なるほど。良い疑問ですね。」


よく花火大会の時にそう言っている人がいるが、その意味は全く分からない。

一体どういう意味があるのだろうか?


「さて、それでは安達はどうして花火を眺める際に『玉屋』、『鍵屋』と言うと思いますか?」

「えー、玉屋は打ち上げ花火の形が玉だからとか?で、鍵屋は………何だろう。普通に鍵を扱ってる鍵屋さんとか?」

「なるほど。そう言った認識でしたか。それでは僕が君に真実を教えて差し上げましょう。心して聞いて下さい。」


まず竹塚は私の認識を確認した後、神妙な表情になる。。

私も思わずゴクリ、と固唾を飲んで竹塚の口から語られる真実を待つ。


「実は花火と言うのはターマッヤ=カーギヤーと言うポルトガル人によってもたらされたんですよ。」

「ポルトガル人!?」


いきなり外国人が出て来たぞ。

花火ってポルトガルにあったっけ?

まぁ良いや。話の続きを聞こう。


「1583年、日本に訪れた南蛮商人のターマッヤは火縄銃と火薬を売っていたのですが、その火薬は通常の物とは配合が違い、点火時にカラフルな火花が飛ぶのです。当時はその事に着目されませんでしたが、1620年代に注目を浴びるようになります。」

「50年くらい過ぎてるんだけど、肝心のターマッヤ?って人、生きてるのか?」

「まぁまぁ、話はまだ続くので聞いて下さい。」


普通に考えて、結構なお爺ちゃんになってると思うんだけど、遅咲きってやつなのか?

でも外国の商人とは言え、戦国時代を生きている訳だし、確かにしぶとく生き延びている可能性も十分にあるか。


「戦乱の世が終わり、平和な世の中になったので火縄銃などの武器は使われなくなり、非常時に備えて備蓄する程度に規模を縮小していました。なのでそれらを生産する職人も昔と比べて収入が減り、困っていました。」


確かに平和な世の中だったら戦乱の時の程、武器はいらないだろう。

職人さんの仕事が減るのも理解出来る。


「そこで職人が目を付けたのがターマッヤの売ってくれた火薬。ターマッヤは既に亡く、通常の火薬とは違った配合と言う事しか分かりませんでしたが、試行錯誤の末に色鮮やかに燃える火薬の配合に成功したのです。」

「ここでターマッヤが登場するのか。」

「これが花火の原型となり、民衆に受け入れられ、職人は食いつないでいくことが出来ました。その際に職人はターマッヤに感謝の気持ちを込めて火薬の名前をタマヤカギヤと付けたのです。そこから民衆もタマヤカギヤと言うようになったんですね。」


まさか花火の掛け声のタマヤカギヤにそんな真実が隠されていただなんて。

つまりこうして私達が花火を楽しめるのはターマッヤ=カーギヤーと言う人のお陰だったのか。

感謝の気持ちを示すことは大切だし、それならば納得だ。


「私もこれからは花火を見る時に感謝の気持ちを込めてタマヤカギヤって言う事にするぞ。」

「いや玉屋鍵屋にポルトガル人なんて関係ないからな。」

「伊江!?」


途中から話を聞いていたようで伊江が会話に混ざってくる。

ポルトガル人じゃないとは一体どういう事だ!?

アメリカ人とかなのか!?


「確かアレって花火職人の名前とかそんな感じの奴だったよな。」

「正確には屋号ですね。」

「ヤゴー?新しいポルトガル人か?」

「いやポルトガル人はもういいから。」

「要するに株式会社ナントカ的な、事業名みたいなものですね。親方の家でやっている店の『うめや』がそれにあたりますね。」


なるほど。


「竹塚。」

「はい。」

「この話でよくポルトガル人登場させたな。」

「それ程でもありません。」

「いや褒めてないだろ。」


まぁある意味関心はしているけど。

普通、花火の作り話をするにしたって外国人なんて登場させないだろう。

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