校長

「次は校長先生のお話です。」

「諸君!おはよう!」

『おはようございます!』

「うむ!良い返事だ!元気で何より!」


夏休みは終わりを迎え、朝の全校集会が開かれる。

恒例の校長先生の話が始まったのだ。


「夏休みが終わり、怪我や病気、熱中症などには掛かっていないな?であれば良し!今期も学業に!運動に!存分に!励むように!以上!」


そしてそれは約20秒と言う圧倒的な速さで終わりを迎えた。

恐らく、どこを探してもこれほど話が短い校長はそういないだろう。






そして放課後、雑談の最中にその校長の話題が上がる。


「相変わらずウチの校長の話は短くて助かるよな。」

「それは分かります。」

「声が馬鹿デカくてマイクも使わずに最後尾まで聞こえるのはヤバいとも思うぞ。」

「それも分かります。」


話は速く終わり、声量が凄まじい、中々に個性的な校長だ。

まぁ実際の所、接点はほとんどないので、どのような人物かは全くと言っていい程に知らないが。


「個人的には校長先生は結構な人格者だと思うよ。私としては教師の鑑だと思っているね。」

「あ、長谷道。」

「夏休み前以来か、久しぶりだな。」

「人格者とは正反対みたいな奴からしたら誰だって人格者になると思うぞ。」

「やぁ、竹塚くん、伊江くん。安達くんは酷い物言いだね。私はこんなにも思いやりに溢れた人間だと言うのに。」

「でも長谷道が思いやるのって自分だけだよな。」

「妥当な評価だと思いますよ。」

「君たちもか………。」


唐突に現れた長谷道は軽く校長の人物評をする。

その評価が正しいかは分からないが、長谷道の評価は妥当な所だろう。


「と言うか、なんで長谷道が校長をそんなに評価してるのか不思議だけどな。」

「あぁ私の人物を見る目ならばそのくらい造作も無い事さ。」

「じゃあ安達の人物評を聞かせて下さい。」

「馬鹿だけど見てて面白い子だね。」

「伊江、長谷道の眼力は本物のようですよ。」

「そうみたいだな。」

「お前らが私の事をどう思っているのか、よーく分かったぞ。」


それって結局、ただの馬鹿って事じゃん。ピエロって事じゃん。

なんでお前らは長谷道に対して感心しているんだよ。

いつも隣で私の事を見て来たんだから、もっと別の評価があるだろう。

だと言うのに、『何を今更』って言いたげな表情をするんじゃない。


「そもそも長谷道は校長室に遊びに行ってるから他の生徒よりも好調と話してるってだけだろ。」

「え、お前何やってんだよ。」

「でも長谷道だし、納得は出来ますよね。」

「そうだろうね。なんたって私は誰とでも友好関係を築ける人格者なのだから。」

「友好関係を築いたつもりになってるだけだろうな。」

「厚かましさだけは一級品ですよね。」

「そうだ、この後も校長室に遊びに行く予定なんだけど、一緒に来るかい?」

「嫌に決まってるだろ、馬鹿野郎。」


伊江は呆れ、竹塚は納得する。

自称、友好的な人格者はとんでもない提案をするが、誰がそんな誘いに乗る物か。

別にそんなに校長室に遊びに行きたいとか言う欲求なんて無いから。


「本当に良いのかい、安達くん。」

「なんだよ、しつこいな。」

「校長とは即ち、この学校の最高権力者と言っても過言では無いんだよ。君は日頃から職員室に呼び出されているようだけど、最高権力者と懇意にしておいて損は無いんじゃないかな?」

「竹塚、伊江!ぼさっとしてないで早く行くぞ!」

「なんで逆に問題児として目を付けられている可能性を考慮しないんだろうな。」

「安達ですからね。」

「それもそうだな。」


こうしてはいられない。

早く校長室に行って校長先生に保護してもらえるくらいに親密にならなくては。






そして校長室に到着し、長谷道を先頭にドアをノックして入室する。


「失礼します。」

「おお!長谷道少年!よく来てくれた!」

「失礼します。2年B組の」

「安達少年、伊江少年、竹塚少年だろう!よく来てくれたな!歓迎するぞ!」

「え、私達の事を知ってるんですか?」

「当たり前だろう!我が校の教え子たちは皆、知っているとも!」

「おぉ………!凄い!」


流石は校長。

この学校の最高権力者なだけはある。


「皆も紅茶で良いかい?」

「いや長谷道はなんでナチュラルに棚を開けてカップとか茶葉とか出してるんだよ。」

「校長先生、良いんですか?変人が好き勝手してますよ?」

「構わん構わん!儂の分も頼むぞ!」

「砂糖は1杯でしたね。」

「うむ!」


私達は校長に対して敬意を抱いていると、長谷道は何食わぬ顔で棚を漁る。

飲み物の準備をしてるようだが、自分の家みたいに振舞うなよ。

しかも校長は気にするどころは自分の分の飲み物を要求しているし。


「凄い馴染んでますね。」

「元々は儂が茶を用意していたんだが、いつの間にやら彼が用意するようになっていたのだ!」

「かなり入り浸ってる証拠だな。」


ここまでくると長谷道の図太さには呆れを通り越して感心すらしてしまいそうだ。


「あれ、そう言えば全生徒の事を把握しているって事は安達の悪行も………。」

「悪行って言うな!青春と言え、青春と!」

「はっはっはっは!もちろん知っておるぞ!」

「いや、あの、えっとですね、これはアレなんですよ。青春の一環として日々を全力で楽しんでいると言うか、その………」

「良い良い!他の生徒に害を成していないと言うのであれば、儂からとやかく言ったりせんわ!」

「こ、校長先生!」


器がデカいよ!流石校長!

他校の生徒に自慢できるくらいだ!


「じゃ、じゃあ職員室にやたらと呼び出されるのも止めてもらえたりは…………!」

「それは自業自得と言うやつよ!大いに遊び、そして省みる!これもまた学びと言う物よ!成功からしか学べぬ道理はない!今のうちに思う存分失敗し、学ぶのだぞ!」

「はい…………。」

「これはまごう事なき人格者の言動ですね。」

「つまりは安達はこれからもしっかり叱られて来いって事だな。」


器がデカいよ………。流石校長………。

でも言ってる事は分かるけど、私が期待していた答えじゃないんだ………。

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