知恵の輪

「これで私の賢さが証明されただろ?」

「安達。」

「竹塚でさえも苦戦する難問を、いとも簡単の解いて見せたんだからな。」

「安達。」

「『脳みそ鷹は爪先立ち』って言うし、いざって言う時に頭を動かせるように普段は休ませてるんだ。」

「安達………。






別に知恵の輪を解ける事が知性の象徴という訳ではありませんよ。それからそれを言うなら『能ある鷹は爪を隠す』ですよね。」


竹塚、今はそんな些細な事はどうでも良いんだ。

私が竹塚に勝利した、その事実だけが大切なんだ。


「実際、私は竹塚よりも早く知恵の輪を解くことが出来たぞ?負け惜しみか?」

「え?今年の夏休みの課題は自分1人の力でやり遂げる、ですか?」

「竹塚もとても頑張っていたと思う。どちらが勝ってもおかしくは無い程のギリギリの接戦だった。それに勝負に負けてもリベンジを意識する向上心はとても素晴らしいと思うぞ。それに友達と互いに競い合い、成長し、時に力を合わせて難問に挑むのも大事だと思うんだ。」


竹塚、今は知恵の輪なんて些細な事はどうでも良いんだ。

私と竹塚は協力し合える、素晴らしい友情の持ち主であると言う事実だけが大切なんだ。


「あ、別に僕にとっては夏休みの課題は難問では無いので。」

「竹塚、何も全部手伝ってもらおうと言う訳じゃないんだ。ただちょっと、苦戦するような奴とかを手伝ってもらえれば、それで良いんだ。」

「安達は苦戦しない物を数えた方が早いと思うんですけど。」


確かに竹塚と比べれば苦戦する問題は多いだろうけど、それを言ったら竹塚は全く苦戦しないだけだから。

比較対象が悪過ぎるんだ。

竹塚と比べられたら、誰だって苦戦する問題が多い事になるぞ。


「話は戻りますが、安達は知恵の輪を解いたと認識しているようですが………。」

「認識も何も、実際に解いたじゃん。」

「僕には適当にガチャガチャやっていたら何故か解けた、と言う風に見えたんですけど。」

「いや、アレは、ほら、脳内で凄まじい速度で計算しながら、凄まじい速度で手を動かして、凄まじい速度で解いた結果そう見えただけだから。」

「じゃあもう一度解いてもらっても良いですか?まだ解いていない知恵の輪はあるので。」

「え?」


竹塚がまだ解かれていない知恵の輪を差し出して来る。

もう一度?


「はい、どうぞ。」

「いや、竹塚。その、アレだ。えーと……………そう!今日はちょっと、頭を使い過ぎて………。」

「じゃあ明日解いてもらいましょうか。」


マズい、このままでは適当にやったら解けたことがバレてしまう。

どうにかして言い訳をしなくては………。


「あー、解きたいけど、脳の考えるエネルギーを使いきっちゃって、すぐには貯まらないかなー。」

「知恵の輪に使うエネルギーを夏休みの課題に使えば良かったのでは?」


夏休みの課題………。エネルギー………。

そうだ!


「竹塚がわざわざ持って来てくれた知恵の輪を解いた事で、夏休みの課題に使用する分のエネルギーも使ってしまった!これは手伝ってもらわなくては!」

「…………。」

「私が悪かった。だからそんな目で見ないでくれ。」


選択肢を誤ったらしい。

仕方が無いので適当と言う言葉を別の言葉に置き換えて納得させよう。


「今回は本能で手を動かした結果、解けた訳だから、もう一度同じことをするのは厳しいぞ。」

「それって使っているのは知恵じゃないですよね。僕に勝る賢さ、証明されてないですよね。」


くっ、やはり竹塚は賢い。

何を言っても納得しない。


「とりあえず家に帰ってからでも普通に解いてみて下さい。」

「本能に従って解いても………?」

「ダメです。」


ダメかー。そっかー。

無理では?

とりあえず今日はもう帰るとしよう。

そして教室を出て、知恵の輪を解きながら廊下を歩いていると………


「おや、知恵の輪ですか。ですが、前を向いて歩かないと危ないですぞ。」

「あ、姉河。」

「確かに知恵の輪は良いトレーニングになりますからな。歩いている時でないのであれば、とやかくは言いませんぞ。」


ちょうど廊下を歩いていた姉河と出会い、注意されてしまった。

それにしてもトレーニング?

あぁ、脳トレって事か。

いくら姉河が筋トレ好きの筋肉モリモリマッチョマンでも知恵の輪を筋トレに使ったりはしないだろう。

そうだ。参考程度に、姉河が知恵の輪を解く姿を見せてもらおう。


「姉河、ちょっとこれを解いてみてくれないか?」

「良いですぞ。ふんっ!」

「力が知恵を超越しましたね。」


メキィ!と言う豪快な音を響かせて、知恵の輪はひん曲がった。

いやマジで筋トレに使ってたのかよ。


「筋肉は全てを、とは言いませんが、ある程度の問題は解決しますぞ!」

「これが脳筋ってやつか…………。」

「全てと言わない辺りに理性と知性は感じられますけどね。」


ついさっき筋力で知恵の輪をひん曲げた辺り、変に説得力がある。

筋肉って、実は万能なのか?

私も筋肉を鍛えて知恵の輪を解けば………。

いや、それで証明されるのは知恵じゃなくて筋力だな。

普通に解けるように頑張ってみよう。

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