横文字

「安達、オレ、気が付いたぜ。」

「何にだ?丹野が私よりも馬鹿であるって事についてか?」

「んな訳ねぇだろ。どう考えてもオレも方が賢いぜ。そんな事じゃねえんだよ。」

「じゃあ何だって言うんだよ。」


休み時間に丹野が話しかけて来たかと思えば、何やら気付いたとか言っている。

自分の知能レベルにようやく気が付いたのではないと言うのであれば、一体何だと言うのだ。


「大人たちが会議とかで使ってそうな横文字を使いこなせれば、賢さをアピール出来るはずだぜ。コンスタントとか、イノベーションとか、アセスメントとか。」

「丹野、お前…………。」


いきなり何を言い出すのかと思えば………


「天才か!?」

「だろ?」


常人には到底思いつかないであろう発想をするとは………。

やはり私に並び立つ頭脳の持ち主なだけはある。


「ちなみにコン………コンセント?とか、イノなんとか?とか、セメント?ってなんだ?」

「それは……………分からねぇ。」

「ダメじゃん。賢さアピール出来てないじゃん。」


目を逸らすな。

自信満々にアイデアを言い放っておいて分からないのかよ。

せめて例に挙げた単語くらいは調べておけよ。


「馬鹿野郎!だからこれから学んで賢さアピール出来るようになるんだよ!」

「はっ!確かにその通りだ!勉強してる姿も賢さアピールに繋がるし、これで私たちが馬鹿扱いされる日々ともおさらばだ!」


なんか開き直ってるような気がしないでもないが、丹野の言う事も最もだ。

勉強はとても面倒だけど、別にテストとかがある訳じゃないし、気楽にやろう。

適当にやってもそこそこ覚えられるだろうし。


「まず、私達が知ってる言葉って何だろう。正直私はあんまり知らないぞ?精々モチベーションとかコンディションとか、そんな感じの大人たちが会議で使うと言うよりは誰でも日常的に使ってそうなやつばっかりだ。」

「実はオレに良い考えがあるぜ。」

「良い考え?」


丹野の言う良い考えは良い考えでは無い事が多々あるから不安だが、まぁ聞くだけ聞いてみるか。


「このアイデア、実は他の生徒が話しているのを聞いて思い付いたんだよ。」

「へぇ、どんな会話だったんだ?」


他人を参考にしているなら、まともな考えに期待出来そうだ。

続きを聞いてみよう。






「長谷道!貴様は毎回毎回、何故そうも自分勝手な振る舞いを」

「まぁまぁ落ち着きなって、鐘ヶ崎さん。これには理由があるんだ。まずはそれを聞いてからでも遅くは無いんじゃないかな?」

「ほう、私を納得させられるだけの理由があるとでも?」

「もちろん。これは今後もコンスタントかつアグレッシブなスタンスでイノベーションにアセスメントしていくためさ。」

「は?」

「会長、私には長谷道先輩が何を言っているか、さっぱり分からないです。」

「それは私も、」

「おや、もう少し事細かに説明が必要かな?まぁ鐘ヶ崎さんなら今の説明で全てを理解しただろうし、わざわざ私から説明するまでも無いと思うけどね。」

「え、そうなんですか?今の説明で全て理解したなんて、流石は会長です!」

「え!?あ、当たり前だろう!まぁ、ともあれ長谷道、あまり他人の迷惑になる行動はするなよ。」

「もちろんさ。それじゃあ、また。」

「あ、あぁ。」






「って会話をしててさ。」

「…………そうか。」


長谷道かよ!

完全に適当な事を言って会長を言いくるめているだけだろう。

それにたぶん言ってる事も誤魔化すためだけに言ってるだろうから、内容なんて存在しないと思うぞ。


「それでオレは思ったんだよ。何を言ってるのか、さっぱり分からないけど、とりあえず頭が良さそうに見える!って。」


私が残念そうな表情をしているのに、気付かず丹野は話を続ける。


「だから頭が良さそうに見えたあの生徒を頼ろうと思うぜ。」

「止めておいた方が良いと思うぞ。」

「どうした安達!?急に冷めた顔して!?」


だって長谷道だぞ?

確かに頭は良いだろうけど、性格は竹塚の『自分的に面白いかどうかで判断する』と言う欠点を倍くらい濃くしたような奴だ。

しかも竹塚と違って常識とか他人の目よりも自分のやりたい事を優先する。


「私はその生徒、長谷道の事を知ってるけど、変人だぞ?」

「大丈夫だぜ。大体の変人を見たって驚かないくらいの変人を見たことがあるからな。」

「マジか。そんな奴どこにいたんだ?」

「目の前。」

「鏡の前の間違いじゃないか?」

「「はははは!………何だとこの野郎!」」


誰が変人だ、誰が。

少なくとも丹野よりは圧倒的に常識的だっての。


「仕方がない。生徒会室にでも行くか。もしかしたら生徒会長の椅子に座ってるかも知れないし。」

「あの長谷道?って生徒、生徒会長なのか?道理で頭が良いはずだぜ。」

「いや違う。」

「は?」


あと生徒会長だからと言って、別に頭が良いとは限らない。

が、それは会長が可哀想だから言わないでおこう。


「それか保健室を見に行くか。」

「病弱な奴なのか?でも確かにそう言う奴って頭が良さそうなイメージがあるぜ。」

「いや違う。」

「じゃあ保健委員とか?」

「それも違う。勝手にベットで休んでるだけだ。」

「は?」


まぁ保健委員長も許可を出してるから勝手にと言うのは表現が違うだろうけど、仮に許可を貰ってなくても勝手に使っている事だろう。

体調が悪いとかじゃなくてゆっくりしたいからとか言う理由でベットを使ってるくらいだし。


「それとも校長室かな。」

「は?」

「とりあえず探しに行くか?」

「………いや、やっぱり止めておくぜ。」


それが良いだろう。

世の中には竹塚の様に頼るべき頭脳の持ち主と、長谷道の様に頼るべきではない頭脳の持ち主がいるのだ。

でも根本的な発想は良かったと思うから竹塚を頼ろう。

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