電球
ある日の放課後、教室にて。
「安達。」
「なんだ、竹塚?」
「ちょっとお願いがあるのですが…………。」
「お願い?竹塚が私にお願いって、珍しいな。で、一体何だ?」
「閃いて下さい。」
「…………は?」
「閃いて下さい。」
「いや聞こえなかった訳じゃないから。」
むしろ聞こえなかった方が良かったとさえ思っているよ。
珍しく竹塚が私に頼み事をしてきたから、『真面目に聞くか』と思ったら予想だにしなかった事を言われた。
「え?なんで私、いきなり閃けなんて言われてるんだ?」
「まぁまぁ、閃いてくれるなら何でも良いので。」
「いきなりそんなこと言われても、閃ける訳ないだろ。」
閃きとは唐突に発生する者であって、発生させようと思って発生させられるものではない。
コントロールできるような代物では無いのだ。
まぁ考えに考えて閃く事だってあるだろうけど、少なくとも今は考え事はしていなかった。
「安達の事、信じてますよ…………。」
「そんな信頼いらない。」
どんな信頼だ、それは。
信頼するなら、もっと別のベクトルで信頼してほしいんだけど。
「あれ?安達、出来ないんですか?」
「何だと!?…………とでも言うと思ったか?」
煽り方が雑。
流石にそんな事を言われても無理な物は無理だ。
「最近、安達が閃く姿を見ていないですね。偶には見せてくれませんか?」
「見せようと思って見せられるものじゃないだろ。」
本人の望む望まない関係なく発動するんだよ。
つまりはどれだけ望んでも自分の意思では閃けない。
「もうこの際、セリフだけで良いですよ。」
「適当だな…………。閃いた。」
それなら最初からそう言って欲しいんだけど。
何だったんだ、さっきの無茶振り。
そんな事を考えていると、竹塚は私の後ろに回り込む。
そっちには壁しかないぞ?
「ん?何してるんだ?」
「お構いなく。」
「いや『お構いなく』じゃなくて………。」
振り向こうとすると、制止される。
気になるんだけど。
そして1分ほど経過し、
『パシャ!』
「え?なんで写真撮ってんの?」
ようやく竹塚が私の前に戻ってきて、スマホで写真を撮る。
さっきから何をやっているんだ、こいつは?
私が訝しんでいると、竹塚は撮影した写真を確認して満足気に頷く。
「もう振り向いても良いですよ。」
『一体何なんだ』と思いながら振り向いた先にあった物は…………
「……………電球?」
「はい。」
「なんで電球?」
「よくマンガとかで閃いた時に頭上に電球が浮かぶじゃないですか。」
「それは分かるけど…………。」
実際、マンガでそう言う表現をしているシーンを見た事は何度かある。
閃きと言えば電球と言う関連付けがされているイメージもある。
あるのだが………
「なんで私の後ろの壁に電球をくっつけたんだよ。」
「さっきの掃除の時間に電球を交換したんですよね。それで、閃き電球の表現を思い出しまして。」
「なるほどな。捨てろ。」
理由は分かったけど、掃除の時に捨てずに持ってたのかよ。
「リサイクルですよ、リサイクル。」
「確かにそう言われると、そう、なのか…………?」
捨てられるだけだった電球を、閃き表現に再利用出来たと考えると、確かにリサイクルなのかも知れない。
でも………
「リサイクルって言うなら、また光るように出来ないのか?そもそも、閃き表現の電球だって光ってるじゃん。」
そう、この電球は、もう光らないのだ。
リサイクルと言うのであれば、再び光るようにしてこそリサイクルを名乗れるのではないだろうか。
そして光る事によって、閃き表現を完成させる事になるのではないだろうか。
「無理ですね。」
「無理なのか?」
「はい。無理です。」
「閃かないのか?」
「閃かないですね。」
竹塚は無理だと言い切る。
そこは諦めずに閃けよ。
さっき私に閃くことを強要しただろ。
自分でも閃けよ。
仕方がない。ここは私が励ましてやろう。
「馬鹿野郎!諦めんなよ!なんでそこで無理って言い切るんだよ!」
「安達に馬鹿扱いはされたくないですね。そもそも電球とは真空管によってフィラメントを保護して燃焼を防ぎながら電気を通すことで発行させているのですが、フィラメントの寿命が完全に尽きているので電球のガラスの中を真空状態に維持したまま交換できるかと言われると無理ですとしか言えないんですよ。」
「?????なるほど?」
竹塚が謎の呪文を詠唱する。
頭に疑問符がいくつも浮かぶが、分からなかったと言ったら馬鹿にされそうだし、とりあえず理解した事にしておこう。
「分かっていただけましたか?」
「なんだか良く分からないけど分かった!」
「つまり安達は馬鹿と言う事です。」
「やっぱり分からなかった!」
なんで分かったって言ったのに馬鹿扱いされるのか。
もしかして理解していない事がバレたのか?
話を聞いている時に首を傾げていたのがバレたのか?
「そうですね、閃きました。」
「マジで!?どんな閃きだ?」
「まずフィラメントを交換する為に金属部を外します。」
「うんうん。」
「次にフィラメントを交換した金属部を安達の口の中に仕込みます。」
「ん?」
「そして安達が頑張って口で息を吸い続けてガラスを真空状態にしつつ…………」
「んんん?」
「先程仕込んだ金属部を接合します。」
なるほど。
「竹塚。」
「はい。」
「無理。」
「つまりはそう言う事です。」
そんな事出来る人間はいない。
口の中に物を入れたまま空気だけ吸い出しつつ、その上で舌を使って接合するとか、意味が分からないぞ。
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