開かずの間

「開かずの間って聞いたことあるかい?」

「開かずの間?なんだそれ?学校の七不思議的なやつか?」

「そうだよ。これは私の先輩が、そのまた先輩から聞いたらしい話なんだけどね、この学校には開かずの間と呼ばれる部屋があるんだ。」


開かずの間、か。ロマンを感じる響きだ。

これがどっかの歴史ある神殿とか遺産とかだったら、その中には財宝がざっくざくあるのがお約束だろう。

しかし、ここは現代日本のどこにでもある普通の学校だ。

精々普段使われないような備品がしまってあるのがオチだろう。


「へぇ、しかし先輩の先輩からって、友達の友達から聞いたみたいで正直あんまり信用出来ないぞ。」

「なんてことを言うんだい。それを言うなら、大体の不思議な話なんて信用ならないじゃないか。」

「それに何よりもそれを言ってるのが長谷道だし。」

「酷いなぁ。それじゃまるで私が嘘ばかりついているみたいじゃないか。」

「表情を一切変えずに嘘を付ける程度に厚かましい奴だって事は知ってるぞ。」


鐘ヶ崎に怒られている時にも平然と自分の都合の良い方向に話を持って行く姿を何度となく見て来たからな。


「まぁまぁ、細かい事は気にしない気にしない。そんな事よりも、開かずの間自体は実際にあるんだよ。」

「実際にって、見た事があるみたいな言い方だな。」

「あるよ。」

「あるんだ。」


確かによくよく思い返してみれば先輩から聞いたとは言っていたが、『らしい』とかの曖昧な表現ではなく、『ある』って言ってたな。

既に現場を確認済みと言う事か。


「さて、安達くん。開かずの間の中がどうなっているのか、気にならないかい?」

「まぁ開かずの間って言われると気になるけど………。」

「そう言ってくれると思ったよ!」


中に何があるのか、メチャクチャ気になるって程ではないけれど、知ることが出来るなら知りたいと思う。

それを言った瞬間にグイっと距離を詰める長谷道。


「やはり安達くんに相談して正解だった。安達くんならば職員室にいてもなんら違和感が無いからね。」

「え?もしかして私に鍵を取って来させようとしてないか?」

「そうだよ?」

「『何を当たり前な事を』って言いたげな表情でこっちを見るな。」


無理に決まってるだろ。

そもそもどの鍵なのかすら分からないと言うのに。

しかも私の事を職員室の住人とでも思ってるような物言いだな。


「そもそも職員室によくいるのは何故かお説教されているからであって自分から入り浸ろうと思って入り浸ってる訳じゃないんだよ。」

「理由も無くお説教されるとは思ないんだけど、本当に思い当たる節は無いのかな?」

「…………。そんな事よりも、職員室にわざわざ自分から行きたいって思う訳がないだろ。」

「誤魔化したね。私はよく色々な友人たちの所に遊びに行ってるけど、安達くんも似たよな物なのかと思ってたよ。」

「それはお前が厚かまし過ぎるだけだろ。」


恐らく私は一生忘れないと思うぞ。

始めて会った時、長谷道が生徒会のメンバーでも、ましてや生徒会長でもないにも関わらず、生徒会長の席に堂々と座っていた事を。

保健室のベッドで堂々とくつろいでいた事を。


「それはともかく、一回現場を見てから作戦を考えるとしようか。」


長谷道に案内され、開かずの間と呼ばれた部屋の前に連れて行かれる。




「普通になんの変哲もない教室に見えるんだけど。」

「でもここが開いている所を見た生徒は一人もいないらしいんだ。まるで一般生徒にとっての校長室のように。」

「一般生徒にとってのって、まさかお前、校長室にまで入り浸ってるんじゃないだろうな?」

「権力者と仲良くしておいた方が人生お得だと思うんだけど。」

「マジで入り浸ってるのかよ!?お前の図太さはどっから来てるんだ!?」

「校長先生は結構面白い人だよ?安達くんも暇な時に校長室に遊びに行かないかい?」

「嫌だよ!」


長谷道、どこにでも出没する男だ。

その行動力と図太さはある意味凄いと思う。

見習いたくは無いけど。

と言うか、校長先生と仲が良いなら私に鍵を取りに行かせるんじゃなくて、校長先生に頼めばよかったんじゃないか?

そんな会話をしているとガラリと開かずの間が開く。

そこから出て来たのは、


「さっきから外でうるさいっすね。何事っすか、一体。」

「え?永篠?」

「どうして君がこの開かずの間から?」

「開かずの間?何言ってんすか?ここはウチのベストプレイスっすよ。」


サボり魔、もとい美化委員長の永篠だった。

え?なんでお前が開かずの間から出て来たの?


「でもここって鍵が掛かっていなかったかい?」

「兄貴に聞いたんすよね。この教室、普段は使われて無いから絶好のサボり場所だって。あと建付けが悪くて扉を開けるのにコツがいるって。」

「つまり開かずの間は単純に建付けの悪い部屋だったって事か?」

「そうなるっすね。」


永篠に兄弟がいた事に驚いたが、それ以上に永篠の兄貴もサボり魔だった事に血の繋がりを感じるよ。

七不思議のしょうもない真実がまた一つ明らかになってしまった。

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