出会い:沙耶編

「前々から思ってたけど、入屋はよく安達の面倒を見てられるよな。」

「中学で出会った時からこれでしたが、成長していない点を考えると更に昔からこうだったんですよね。」

「そうね。あたしはかなり面倒見が良い方だもの。」

「え、なんで私がいきなりディスられてるんだ?と言うか沙耶、それは自分で言う事じゃ無いだろ。いくらなんでも自意識過剰が過ぎゃあぁぁぁぁぁごめんなさいぃぃぃぃ!」

「誰が自意識過剰ですって?あんたは常日頃からどれほど他人に迷惑を掛けているか理解してないんじゃないの?」

「そう言う所だな。口を滑らせて今日も今日とて入屋に制裁を加えられてるからな。」

「懲りないと言うか、成長しないと言うか、ここまで変わらないと言うのも逆に凄いですよ。三つ子の魂百までとはこの事ですね。」


悪いのは、悪いのはこの口だから!

だから頭を握り潰す勢いで掴むのは止めてくれ。

即座に謝る事で解放され、苦痛の時間を短縮する。

思ったことを包み隠さず素直に言えるって美徳でもあると思うんだよ。


「痛たたた…………まぁ、うん。良く分からないけど、それほどの事でもある。」

「誉められてないからな。」

「こういう所を見ると見捨てたくなったりしそうですよね。」

「ポジティブシンキングって良いじゃん。」


なんとなく誉められたと思うだろ。

誉められたと思った方がお得じゃん。


「敦は昔っから馬鹿過ぎて放っておけないのよ。何しでかすか分かったもんじゃないもの。」

「それは非常に理解出来ますね。」

「まぁそれに、こんなのでもやる時はやるって分かってるからね。」

「こんなのって………。」


私の扱い酷くないか?

どうしてここまで低く評価されなくてはいけないのか。


「確かに高校受験は頑張ってましたね。受験の時だけは。」

「なんでそこを強調するんだよ。」

「事実ですので。」


いや、まぁ、いつも全力を出す事なんて出来ないんだし、今はアレだ、力を貯めている状態だから。


「それに敦は子供の頃に借りがあるのよね。」


借り………借り?

え、なんかあったっけ?

全く思い出せないが、沙耶は気にせず昔語りを始める。






12年前。

安達家の隣に引っ越してきた一家がいた。

その一家こそが入屋家であった。

引っ越しの挨拶で2人は出会う。


「ぼくは『あだちあつし』っていいます!よろしくおねがいします!」

「元気に挨拶出来て偉いね。ほら、沙耶も挨拶は?」

「………いりや、さや。」

「さやちゃんっていうんだ!よろしくね!」

「うん。」


安達敦は元気良く、入屋沙耶は父親の脚の陰に隠れて控え目に自己紹介をする。

2人の子供は家が隣同士と言う事もあり、よく一緒に遊ぶようになる。

少しずつ、ゆっくりと仲を深めていったが、それでも沙耶は人見知りであり、未だにどことなく壁があった。

そんなある日、


「あれ?どうしたの?」

「なんでもない。」

「でも………」

「なんでもない!」


沙耶の元に遊びに来た敦は玄関の前で泣きはらした表情の彼女と出会う。

敦は理由を問うも、沙耶は頑なに答えない。

しかし注意深く沙耶の姿を見ると敦はある事に気が付く。


「あ、わかった!ぼくにまかせて!」


敦はそう言うと入屋家の前から走って行った。

そしてしばらくすると………


「さやちゃん!」

「………え?」

「はい、これ!」

「これ………どうして………?それに怪我してる………。」

「だってさやちゃん、そのこのこと、いつもいっしょにいるくらいとってもたいせつにしてたでしょ?でもきょうはいっしょじゃなかったから。」


敦は少し汚れたウサギのぬいぐるみを沙耶に差し出す。

彼は沙耶の様子を見て普段持っていたぬいぐるみを持っていなかった事に気が付いて探しに行っていたようだ。


「このへんになんでももってっちゃうワンちゃんがいてね、そのこがもってっちゃったんだっておもったの!だからそのこのおうちにいってみたらあったから、かえしてもらったんだ!ちょっとだけかまれちゃったけどね。」


そこで近所に収集癖のある犬の情報を思い出し、そこに行って回収してきたと言う。

その過程で僅かに犬に嚙まれ、怪我を負ってしまったとも語った。


「あっくん………。」

「なに?」

「ありがとう………!」

「えへへ、どういたしまして!」


敦の行いに、屈託のない心からの笑みを以て感謝の気持ちを伝える沙耶。

今まであった心の壁は、完全に取り払われたのである。






「って事があってね………。」

「そうなんですね。良い話じゃないですか。」

「………そんな事あったっけ?」

「肝心の本人は忘れてますけどね。」

「安達のらしいっちゃらしいけどな。」

「こいつからすれば、当然の事をしたって事なのかしらね。でもあたしは覚えているわよ。受けた恩も仇も忘れない主義だもの。」


いやマジで記憶にない。

昨日の授業の内容さえハッキリとは覚えていないのに、そんな昔の事を言われても覚えてる訳が無いだろう。


「普段はだらしが無くて、情けなくて、どうしようもない、無い無い尽くしの安達ですが、なんだかんだで困ってる人の事は見捨てられませんからね。」

「そこは素直に後半だけ言って褒めてくれよ。なんで前半でボコボコに言われてるの、私。」

「普通に褒めたら絶対に調子に乗るだろうな。」


褒めて調子に乗らない奴なんていないだろう。

素直に喜ばせてくれよ。


「その時、人見知りでか弱い女の子だったあたしは思ったのよ。」

「か弱い………?いえ何でもないです。」

「それは俺も思ったが………いや、やっぱり思ってなかったな。」

「少なくとも一睨みで竹塚と伊江を黙らせる奴がか弱いは無理が何でもないですごめんなさい。」


沙耶に睨まれた。怖い。

か弱いとか絶対嘘だ。

あの眼光は強者のそれだぞ。


「あたしがか弱いままだと、この男の子はまた無理をして怪我をするんじゃないかってね。だからボクシングジムに通って鍛えたのよ。」

「確かに安達は頭のネジがどっか行ってるし、その可能性は高いな。」

「え、私の頭のネジどっか行ってるの?竹塚、探すの協力してくれ。フランケンシュタインごっこが出来なくなってしまう。」

「大丈夫です。安達の心の中にあるので。あと正確にはフランケンシュタインの怪物ですね。」


あれ?ボクシングジムに通い始めたのって護身の為とか言ってなかったっけ?

まぁ何でもいいか。得られた力の矛先がこっちに向かなければ。

しかし、やっぱり自分の身に着けてるものって無くなっても気付きにくいんだな。

探さなくては。


「それに、その時のぬいぐるみ、まだ部屋に飾ってあるわよ。」

「ん?なんだ?私の頭のネジが見つかったのか?」

「安心しなさい。一生見つからないから。」


沙耶が何か小さく呟いたから見つかったのかと思ったぞ。

と言うか一生見つからないなら安心できないじゃん。

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