二択
「良いんですか?」
「あぁ。」
「本当に良いんですか?」
「あぁ。」
「本当の本当に良いんですか?」
「あぁ。」
勝者の栄光か、敗者の屈辱か。
可能性は二つに一つ。
竹塚は何度となく、私に考え直す選択肢がある事を提示する。
しかし、私は自らが選んだ可能性を信じたい。
例え何度聞かれたとしても、私の答えは変わらない。
他でもない私が私を信じているのだから!
「意志は固いようですね。それでは、引いて下さい。」
「うおぉぉぉぉ!
ああぁぁぁぁ!ちくしょおぉぉぉぉ!」
竹塚も持つ二枚のカード、私が引いたのはジョーカー!
ババ抜きと言う激闘における勝利を目前にしながらも、それは遠退いた。
「だから何回も聞いたじゃないですか。『本当にそれで良いんですか?」って。」
「揺さぶりだと思ったんだよ!ブラフだと思ったんだよ!私を騙そうとしていると思ったんだよ。」
「安達もまだまだですね。それじゃ、僕がカードを引く番ですね。」
「待て!シャッフルするぞ!」
「良いですよ。」
確かに私はジョーカーを引いた。
しかしそれは決して私の敗北を意味する訳ではない。
ここで竹塚がジョーカーを引けば、勝負は振出しに戻り、私が勝つ可能性が再び現れる。
逆に言えば竹塚がジョーカー引かなければ、私の敗北が確定するという訳だ。
それならば可能な限り足掻くべきだろう。
手元の二枚のカードを身体の後ろに隠してシャッフルする。
「どっちが勝つと思う?」
「オレは竹塚が勝つと思うぜ。」
「いや、安達も結構悪運がつえぇからなぁ。」
先に上がった伊江、丹野、親方は勝負の行く末を予想する。
丹野は竹塚を、親方は私を推すようだ。
親方、安心してくれ。
親方の言う通り、私は運が良いんだ。
今日だって星座占いで最下位を回避して10位だったし、昼食の時も割り箸がきれいに割れた。
これは私が勝つ事の前兆だったのだろう。
「さぁ、来い!」
「じゃあこっちを引きますね。」
「………!」
シャッフルが終わり、竹塚に二択を突きつける。
竹塚は迷いなくカードを選ぶ。
しかし竹塚が選んだカードはダイヤの8!
ジョーカーではない!
このままではマズいな………。
「竹塚、そっちで良いのか?」
「はい。」
「本当に良いのか?」
「はい。」
「本当の本当に良いのか?」
「はい。」
竹塚を揺さぶろうと確認を繰り返す。
しかし竹塚は揺るがない。
「後悔しないな?」
「はい。」
「私としてはもう片方のカードがオススメだぞ?」
「そうですか。」
「それでも考え直さないんだな?」
「はい。」
ダメだ、意志が固すぎる。
一切選び直そうと言う雰囲気を感じられない。
「往生して下さい、安達。」
「いいさ、引くなら引けばいい!」
「そう言うならカードを握る手の力を緩めて下さいよ。物理的に引かせないつもりじゃないですか。」
だってそっちのカードを引かれたら私の負けが確定してしまうから。
「往生際がわりぃぞぉ。」
「さっさと諦めな。」
「ダサいぜ。」
くっ、外野がヤジを飛ばして来る。
もはや打つ手は無いのか………。
「仕方がありませんね。」
「た、竹塚………!」
呆れた表情で竹塚は隣のカードに手を伸ばす。
やった!勝った!
「と見せかけて!」
「なにぃ!?」
ジョーカーを引かせられるように手の力を緩めた瞬間、竹塚はもう片方カードを抜き取る。
「はい。僕も上がりですね。」
「くっそぉ、やられたぁ…………。」
「あそこまで抵抗されたらジョーカーじゃないって言ってるようなもんだな。」
「勝負はついた事だし、お楽しみの時間と行こうぜ。」
くっ、この戦い、敗者には罰ゲームが用意されている。
そう、敗者はドリンクバーで勝者が作ったスペシャルブレンドドリンクを飲まされるのだ。
「今回の1抜けは俺だな。安心しな、安達が苦手なコーヒーは入れないでおいてやるよ。」
「不安しかない。」
最初に上がった伊江は席を立ち、ドリンクバーへ向かう。
コーヒーが無くても変な物は十分作れるだろう。
そして私に安心しろと言った時の伊江の表情、あれは悪ノリしてる時のニヤついた笑顔だった。
「待たせたな。」
「ずっと戻ってこなくて良かったぞ。」
「安達の為に最高のドリンクを作って来たからな。味わって飲んでくれ。」
うっわぁ………。なんだこれ………。
見た目ドロっとしてて、黄色っぽさがありながらも所々黒ずんでいる。
それでいて若干の刺激臭もする。
「ちなみに伊江、今回は何のドリンクを配合したんですか。」
「ベースはコーンポタージュだ。安達もコーンポタージュは好きだと思うしな。」
「ベースが重いぜ。」
ドリンク………。
ドリンク…………?
「あと炭酸も欲しかっただろうからコーラも混ぜておいたな。」
「別々で欲しいんだけど。」
そんな気遣い、いらないんだよ。
「それから風味付けにタバスコも。」
「ドリンクバーにあるやつだけを使うんじゃないのかよ!調味料も使うのかよ!」
地獄に地獄を掛け合わせるな。
なんでタバスコを使って良いと思ったんだ。
「いや、これは無理だろ…………。もったいないけど飲めたもんじゃないぞ………。」
「安達、俺ぁ言ったよなぁ?『食い物を粗末にするような遊びはダメだ。やるならキチンと全部食いきれ』ってよぉ。おめぇも、伊江も丹野も竹塚も、全員それに同意したからこの遊びをやってるんだぜぇ?
「そ、それは…………。」
親方の言わんとすることはよく分かる。
しかし、
「でも、そんな事言いつつ親方だって参加してるじゃん!」
「おめぇらだけだと飲めねぇからって捨てかねねぇからなぁ。だから俺がしっかり監督出来るように参加してんだぜぇ。分かったらとっとと飲め。」
「う、うおぉぉぉぉぉ!」
最早飲まないと言う選択肢は用意されていなかった。
こうなりゃ自棄だ!
カップを掴み、口に運ぶ。
ドロリとした、しかしシュワシュワしている液体を流し込む。
「ぐはぁっ!」
そして見えた景色は、川と、川を隔てた向こう側にあるお花畑だった。
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