科学

人類は歴史を積み上げ、今日まで軌跡を描いてきた。

そこには科学という人々の生活を豊かにする技術が大きく関与している。

現在の文明は科学の力無くして成立し得ない。

それほどまでに我々の生活に密着し、切っても切れない関係にあるのだ。

今更この便利な技術を手放すなど不可能と言っても過言ではない。

それ即ち死を意味する事にもなるのだから。


しかし便利な科学技術は時として凶器ににも成り得る。

人を幸福にするはずの科学が、人を不幸にすることがあるのだ。

そんなことはあってはならない。

あるとするならば、それは人の意思の介在に他ならない。

故に、心を律し、正しく科学を用いなくてはならないのだ。


そう、決して自身の好奇心や興味本位、ましてや悪意を持って科学を用いるなど、あってはならない。


そうだろう?






「青井!」

「おや?どうしたのかい?安達君。」

「どうしたのかい?じゃない!この前貰ったグミ、何がゴーヤ味だよ!ゴーヤなんて比じゃないくらい苦かったよ!」

「え?君、ほんとに食べてたの?うわぁ………。」

「人にとんでもない物食べさせておいてドン引きしてんじゃない!」


先日、眼前にいる白衣の少女、青井あおいあおいからゴーヤ味のグミを受け取った事が事の始まりだった。

件のグミを罰ゲームの品としてババ抜きをやった結果、惜敗。

友人たちに食べさせようと思っていたグミを自分で食べる羽目になってしまったのだ。


「あれはもはや凶器だろう!ゴーヤとか食べたことないけど、絶対ゴーヤの味ではなかったぞ!」

「君の事だからてっきり他の人にでも食べさせるのかと思ってたよ。あと正確には安息香酸デナトニウム。でも君に言っても理解できないと思ったから、理解できるように知能レベルを落として伝えたまでだよ。」

「え、いや、まぁアレを人に食べさせるのは良くないと思ったので。うん。決して罰ゲームの品になんてしようとしていないぞ。それはともかく!確かにそれを言われても分からないけど!けど!あんなに苦いなら最初に教えてくれよ!」

「えー?言ったはずだけど?『苦いよ』って。それに希釈に希釈を重ねてフレーバーにしてるだけで苦いだけだし、健康に害は無いから大丈夫大丈夫。」


めっちゃ雑に伝えてるじゃん!分かる訳ないじゃん!

身体的に害が無いとしても精神的には害があったよ!地獄を見たよ!


「1年の頃からいっつもこうだよ!ヤバい物を作っては周りに渡したりして!」

「それが分かっているのに受け取る君も君だよね。感謝してるよ。ありがとう。これからもヨロシク。」

「感謝してるなら遠慮とか加減をしてくれ。」

「科学の発展に犠牲は付き物だから。仕方ないね。」


いや、その犠牲を他人に強いるのは違うだろ。自分を被験体にしろよ。


「稀に、ほんとにごく稀に役に立つ物を生み出すのが質が悪いんだよ。おかげでちょっと期待したりしちゃうじゃん。」

「流石に体調悪そうな時に変な物渡したりはしないよ。」

「1年の頃、風邪ひいた時にめちゃくちゃ効く風邪薬貰ったよな。結局あれは何だったんだ?」

「お手製風邪薬なんで企業秘密。てか説明しても理解できないと思うよ?」


まぁ絶対理解できないだろうな。

ん?お手製?


「なぁ、青井、私はあまり詳しくはないけど、製薬って普通免許とか必要だよな?」

「大丈夫。資格試験の問題は読んで解いたことあるし。知識の面で問題は一切ないから。」

「顔を背けて言うんじゃない。こっち見て話せ。知識の面ではって、それ資格保有の面では問題あるって言ってるようなもんだろ。」


全然大丈夫じゃないじゃないか。

色々と心配になってくる。


「程々にしとけよ。」

「分かってるって。そこまで危険な物を作るつもりは無いから。」

「そうじゃなくて、いやそれもあるけど。友達が捕まったり、居なくなったりするの、私は嫌だぞ。」

「え?」

「え?」


あれ?もしかして友達とは思われていなかったパターンか?

だとしたら相当悲しいし恥ずかしいぞ。


「私の事、友達だと思ってなかったとか?」

「ただの危険人物って思われてるって思ってた。普通に友達って思ってくれてるなら、嬉しいよ。」


そっちか。びっくりしたぞ。


「まぁ、少しは危ない奴と思ってないこともないけど、なんだかんだでお前の作った物には楽しませてもらってるし。それにさっき『これからもヨロシク』って言ってただろ。」

「ふふっ、ありがとう。そのセリフ、前言撤回はしないよ。そうだ、君に良い物をあげよう。」


照れたように微笑んで青井は謎の錠剤を差し出す。


「これは?」

「この間完成した頭の働きを良くする薬さ。最新の科学に基づくプラセボ効果を利用した錠剤だよ。」

「なんとか効果ってのは知らないけど、要するに頭が良くなるんだな!やったぞ!これでテストも怖くない!」


なんて素晴らしい物をくれたんだ!やっぱり持つべきものは友だな!

青井もニヤニヤしている。ん?ニヤニヤ?

いや、きっと見間違いだろう。ニコニコしているようにも見えるし。


「勉強もしっかりする事で効果を発揮するから、その薬だけ飲んでもダメだよ?」

「なるほど、分かった。ありがとう!」


この薬を飲んでしっかり勉強すればテストもばっちりだな!

今度、皆に自慢しよう!あとやっぱり青井はヤバい奴なんかじゃないって教えてやらなくては!




なにか騙されている気がしないでもないが、きっと気のせいだろう。

友達を疑うのは良くないからね!







※プラセボ効果=偽薬効果。簡単に言うと思い込み。

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