血痕

「丹野。」

「なんだ?」

「マンガとかで怪我をしたキャラクターが、床に血の跡を残しながら逃げてるシーンってあるじゃん。」

「あるある。」

「アレやってみたくないか?」

「え、お前怪我したいのか?」

「違うよ!なんでわざわざ自分から痛い思いをしようなんて思うんだよ!」

「でも安達だし………。」

「お前は私を何だと思っているんだ。」


どうして自分の事を傷つけようなんて思ってると思われてるんだよ。

自分の事を痛めつけようなんて奴、普通いないだろう。


「む、何やら楽しそうな話が聞こえてきましたぞ。自分も混ぜて欲しいですな。」


普通じゃない奴が現れた。

ビックリするから急に現れないで欲しいんだけど。


「姉河、一体どっから湧いて出た。」

「怪我をして痛みを楽しもう、と言う話が聞こえてきたものでして。」

「そんな話してないから。自分の事を痛めつけようなんて話じゃないから。」

「それは残念………。それでは失礼しますぞ。」

「何だったんだ、あいつは………。」

「オレはあの人の事を知ってるぜ。」

「いや私も一応は知ってるけど。」

「日々筋トレを頑張ってるらしいし、きっと痛みに強くなるトレーニングの気配を嗅ぎ付けて来たんだろう。流石だぜ。」

「絶対違うだろ。」


自分に興味のある話ではないと分かると去っていく姉河。

呆れてその後姿を見送ると、丹野が姉河の事を知っていると語る。

その内容は好意的解釈が多分に含まれたものであった。

うん、その認識のまま、あいつと仲良く出来るなら、もう勘違いを訂正する必要はないんじゃないかと思ったが、その前に反射的にツッコミを入れてしまった。

いや、今はあいつの事よりも私がやりたかった事を教えてやる事の方が重要だろう。


「で、地面に血、ではなく、何かしらの跡を残して何かから逃げてる感を出す遊びがしたい。」

「特に目的がある訳でも無いけど、なんか楽しそうだな!………でもよ安達。1つだけ問題があると思わねぇか?」

「問題?なんだよ、一体何が問題だって言うんだよ。」

「後片付けが面倒くさくないか?」

「………確かに。」


後片付け、か。

地面に赤い飲み物を垂らすのは良いが、確かに最後にはそれを拭き取るなりしないと、間違いなく怒られるだろう。

となれば、解決策は1つ。


「そうだ、校舎内じゃなくて校庭とかでやれば良いんじゃないか?校庭なら赤っぽい飲み物を垂らしても、そのうち地面に吸収されるか、乾燥するだろうし。掃除する必要も無いだろ。」

「安達、お前………」


何か良い手段は無いかと思案していた丹野は、私の話を聞くとゆっくりとこちらに向き直る。


「天才か!?」

「だろ?」


そうだろうそうだろう。

この天才的なアイデアは賞賛されるに値するものだ。

もっと褒めても良いんだぞ?


「そうと決まればトマトジュース沢山買ってこようぜ!」

「ちょーっと待つっす!」

「ん?誰だ?」

「美化委員長の永篠じゃん。」


計画は万全。

そしていざ準備、と言ったところで美化委員長の永篠に声を掛けられる。


「偶然聞こえて来たけど、何校庭を汚す計画を立ててるんすか!」

「ヤバいぜ。面倒な事になっちまった。」


確かに、丹野の言う通り、普通の美化委員にこの計画がバレたのならば止められ、怒られるのが関の山だろう。

しかし、


「待て待て。永篠、お前そんなに職務に熱心な奴だったか?いつもみたいにサボり場所に行ってグダグダしないのか?」

「そうしたいのは山々なんすけどね。」

「山々なのか。」


相手はあのサボり魔の永篠。

真面目に職務を遂行するなんて、まずあり得ないだろう。

本人もやる気なさげだし。


「ここで見逃したらウチに報告が上がって来てゆっくりゴロゴロ出来ないじゃないっすか!」


あぁ、そう言う………。

後々働くことになるであろう可能性を潰しておこうと言うスタンスか。

ある意味、永篠らしい姿勢だ。


「校内でそんな事されたら困るんすよ。別に校外なら何かしてもウチに報告は上がってこないんで、そっちでやってくんないっすかね。」

「美化委員とは思えないセリフが飛び出して来たぜ。」

「永篠らしいっちゃらしいけど、美化委員のトップがこれで大丈夫なのか心配になるぞ。」

「ふざけた計画立てる人には言われたくないっす。」

「オレ達は大真面目だぜ。」

「ウチも自分の事を真面目とは思ってないっすけど、それでもあんたら計画がふざけてる事くらいは分かるっすよ。」


校外でならやっても良いのか………。

いやそれはそれで校内でやるよりもキツくお説教されそうな気がするぞ。


「でもさ、永篠。よく考えてみてくれ。」

「なんすか。」

「校庭なら飲み物を零しても目立たないし、浸透するし、乾燥するじゃん。永篠が考えているような面倒くさい事態にはならないと考える事も出来るんじゃないか?」

「確かに、その可能性もあるっす。」

「だろ?だから………。」

「でも面倒ごとになる可能性もあるっす。だからもし、やるって言うなら『ウチは止めたけど話を聞いてもらえなかった』って先生に報告するっす。」


報告されたら実行する前に捕まってしまう。

仕方がない、ここはいったん引き下がろう。


「くっ、覚えてろ!」

「そのセリフ、悪役っぽいぜ。」

「分かったっす。覚えてるんで何かあったら安達っちのせいにするっす。」

「やっぱ覚えてなくて良いわ。」


捨て台詞を吐いて去って行こうとしたが、何かある度に私のせいにされたらたまらないから前言撤回。

忘れた頃にリベンジしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る