かき氷

サクサクとかき氷を口に運んでいると、竹塚が話を振ってくる。


「安達、知ってますか?」

「何をだ?」

「かき氷のシロップって、色と匂いが違うだけで味は全部一緒なんですよ。」

「マジで!?」


そんな馬鹿な!?

かき氷のシロップの味が全部一緒なら、どうして私は味の違いを感じていると言うんだ?

私の味覚がおかしくなったのか?

それとも竹塚がまた私の事をからかっているのか?


「で、でもさ、私が今食べてるかき氷はちゃんとイチゴの味がするぞ?」

「それは香料の匂いですね。」

「見た目も赤くて、まさにイチゴ!って感じがするぞ?」

「それは着色料を利用した結果ですね。」

「スーパーでもイチゴ味って表記で販売してたぞ?食品表示なんとかの罪に問われないのか?」

「あくまでも嗅覚に影響を及ぼし、それが味覚上でもイチゴ味の様に感じる商品として作られているので。それに成分や原材料、栄養価の数値を偽っている訳でも無いので食品表示法を犯したりはしていないですね。」


そんな………。

それなら今までかき氷を買う時に何味にしようか悩んできた時間と葛藤は一体何だったんだ………。

なんだか騙された気分になって来たぞ。

匂いと見た目が全てで、味は関係なかったなんて………。

いや、待てよ?


「と言う事はカレーの匂いを嗅ぎながらかき氷を食べたらカレー味のかき氷になるって事か?」

「恐らくはそうなるかも知れませんが、カレー味のかき氷なんて食べたいですか?」

「………いや、カレーはカレーとして食べたいぞ。少なくともかき氷を食べるんだったら甘い物の方が良いぞ。」

「でしょうね。カレー味のかき氷なんて想像も出来ませんよ。」


カレーはライスか、パンか、うどんで食べたい。もしくはナン。

少なくとも氷と一緒に食べたいと思える食べ物では無いぞ。


「でも改めて考えてみると、かき氷って甘い系、スイーツ系の味しかないよな。」

「そうですね。」

「クレープだったらおかず系のやつもあるのに。」

「まぁ氷とクレープ生地じゃ味わいも食感も違いますからね。片や元々は水、片や小麦粉

、正確には薄力粉と卵や砂糖、牛乳なんかも使ってるみたいですからね。素材の時点で大分条件が違ってますよ。」


なるほど。水と小麦粉だったら小麦粉の方が他の食べ物と合わせて食べるイメージがある。

パンとかも小麦粉から作られている訳だし。

一方で水と合わせて食べるイメージがある食べ物はあまりない。

強いて言うなら辛い食べ物とか、水餃子くらいだ。

しかし、合わせて食べるのではなく、食事中に水を飲む事は普通にあるだろう。

それなら、


「実質水なら普通に食事の一部でもいけると思うんだけど。焼肉とか、ラーメンとか。」

「仮に焼肉味のかき氷やラーメン味のかき氷があったと仮定して、食べてみたいですか?」

「何かしらの罰ゲームで誰かに食べさせてみたい。」

「つまり自分では食べたくないって事ですよね。」


うん。

焼肉やラーメンを食べつつ水を飲むならともかく、焼肉やラーメンの味がする水を飲みたいとは思う訳が無いだろう。


「そもそも涼みたい時に食べる冷たい食べ物と熱い食べ物じゃ、食べたいと思うタイミングもそれぞれの相性も違うでしょう。」

「確かに冷たいかき氷を食べながら熱々のラーメンを食べようとはしないな。」


暑い夏なら冷たい物を食べたくなるが、熱い食べ物はあまり食べる気にならない。

寒い冬なら温かい食べ物を食べたくなるが、冷たい食べ物は食べる気にならない。

まぁかき氷は普通に食べるのが一番と言う事か。


「話は戻るが、かき氷のシロップが全部同じ味なら、私は一体何を信じれば良いんだ?」

「何でも良いんじゃないですか?」

「返しが雑。」

「何も信じなくて良いんじゃないですか?」

「人間不信になる事を推奨するな。」


さてはこの話題に飽きてきているな?

若干呆れつつあると、竹塚は柔らかい笑みになって口を開く。


「でも安達、安達はさっき食べたかき氷がイチゴ味に感じたんですよね?」

「そうだけど、それがどうかしたのか?」

「それならそれで良いじゃないですか。実際にシロップの味が全部一緒だったとしても、安達は自分の味覚を信じたらいいと思いますよ。たとえ世の中の様々な事を信じられなくなっても、自分の事くらいは信じてあげて下さい。」

「竹塚…………。」


そうだよ、たとえ色々な事を信じられなくなって、疑いの気持ちを抱いたとしても、自分だけは信じないとな。

また竹塚に1つ学ばされたぞ。




「でも最初にこの話を振ったのは竹塚だよな?」


まぁ根本的にはこの不信感は竹塚が原因なんだけどさ。


「やっぱり夏はかき氷やアイスのように冷たい食べ物が美味しいですね。はっはっは!」

「めっちゃ雑に誤魔化すんじゃない。」

「教えたら安達のリアクションが面白そうだなって思いまして。反省も後悔もしていません。」

「開き直るな。せめて反省はしろ。」


よりにもよってかき氷を食べている時にそんな話を振りやがって。

まぁ私がかき氷を食べているのを見て思い出したから話題に挙げたんだろうけど。

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