スポットライト

「スポットライトを浴びたい。」

「浴びれば良いんじゃないですか?」

「どっかで良い感じにスポットライトを浴びれる場所は無いだろうか。」

「街灯が点くくらいの時間に街灯の下に立てば浴びられますよ。」


竹塚、もう少しまともに考えて返事をしてほしい。

私の話を聞いた瞬間に返事をしているが、内容がだいぶ適当だぞ。

なんだよ、街灯をスポットライトにするって。

そうじゃないんだよ。


「せめてもう少し真面目に話を聞いてくれないか?」

「聞いてます聞いてます。それはもう真面目に聞いてますよ。」

「ほんとか?今何の話をしてたか理解してるのか?」

「あれですよね。あれ。」

「どれだよ。」

「スモールライトってロマンがあるって話ですよね。」

「最初の『ス』と『ライト』しかあってないぞ。」


その返事をする時点で聞いてないって事だろ。

スモールライトにロマンがある点は認めるし、話題にあげても良いけれど、今回は違うから。


「あれ、おかしいですね?聞き間違えましたか?」

「スマホでソシャゲやりながら言うセリフじゃないだろ。なんで自信ありげなんだよ。」

「操作をミスしてないし、話もばっちり聞き流せてたと思って。」

「聞き流してるじゃん。聞き逃してるじゃん。」


スマホを弄りながら返事をしている時点で聞いてないとは思っていたが、本人の口から当然のように聞き流していた発言が出てきて驚きだよ。

最初こそ取り繕いはしたけど途中から取り繕う事すら諦めてるじゃん。


「スポットライトですか。それなら体育館にでも言ったらどうですか?」

「でも操作とか分からないし、勝手に弄ったら怒られそうじゃん。ここは共犯、じゃなくて協力者が必要だと思うんだ。」

「そうですか。僕はソシャゲのイベントで忙しいのでパスで。」

「そんな!?竹塚はスポットライトを浴びたいとは思わないのか?」

「スポットライトはいつでも大丈夫なので期間限定のイベントをやってるソシャゲの方が優先順位高いですね。」


期間限定。誰もがその言葉に込められた魔力に惑わされる。竹塚も例外ではなかったか。

仕方がない。とりあえず体育館に行って現場視察をするとしよう。

もしかしたら誰かいて巻き込めるかも知れないし。




そして体育館に訪れるとそこには……


「鳥場と伏実じゃん。こんなところで何してるんだ?」

「やぁ安達さん。生徒会の業務でね。」

「設備、備品、点検。」


なるほど。これは良い口実に出来るかも知れないぞ。


「スポットライトの点検は済ませたのか?」

「いや、それは今回は点検対象じゃないね。確か再来週くらいだったかな?」

「普段、使わない。」

「もしかしたら、いきなりスポットライトを使う機会があるかも知れないし、今実際に使って動作確認をするのも良いんじゃないのか?」

「スポットライトか、会長の演説で浴びせたら映えそうだね。」

「確かに。それは良い。」

「え?」

「真っ暗な体育館、ざわざわとした生徒たち。そんな中、突如『カッ!』とスポットライトが会長を照らす。皆から注目されながら名演説をする会長。見てみたいね。」

「確かに。見てみたい。」

「え?」




『日常は平凡か?世界は退屈か?未来は適当か?しかし、生きる事は劇的だ!』




鳥場が閃いたといった表情で話を進める。

鐘ヶ崎の生徒会長としての姿勢だけを見れば確かに似合う。カッコいい。

でも一個人としては結構メンタル弱めだし、絶対に言わなさそう。

たぶん、いきなりスポットライトを当てられるような状況になったらテンパってしばらくフリーズすると思うぞ。

だから止めてやれ。


「よし。安達さんのアドバイス、活かさせてもらうね。伏見さん、それじゃ早速スポットライトが使えるか試してみようか。」

「了解。」

「いやアドバイスなんてしてな………もう行っちゃったよ………。」


何故か私が元凶みたいな流れにしているが、否定する前に即座に行動する鳥場と伏実。

判断が早いのは良いんだけど、鐘ヶ崎を追い詰める準備が着々と進んでいると考えると止めるべきだろうか。少なくとも私の名前は出さないでほしい。

何故か鐘ヶ崎の日頃の愚痴を聞く担当みたいになってるし。

いや、他に素を出して愚痴を言える奴がいないだけだろうけど。


「準備完了。」

「早速試してみよう。」

「速っ!?」


この短時間で準備が終わったのか。

もしかして普段から演劇部とかが使ってて、そこまで準備に時間が必要じゃなかったのかも知れないな。

そう考えると演劇部組に話を通してスポットライトを浴びさせてもらった方が良かったのでは?

いや、演劇に出演させられる可能性があるからやっぱり無しだ。


「さぁ、安達さん、ここに立ってね。」

「照明を消す。」


鳥場に誘導され、スポットライトが当たる地点に立たされる。

そして配置に着くと伏見が明かりを消し、カーテンを閉め切られた体育館は真っ暗になる。


「おぉ、これは………。」


一瞬の静寂の後、『カッ!』と言う照明の起動音と共に照らされる私。

なんだか世界の中心になったような、物語の主人公になったような気分だ。


「いいね。これならいつでも会長を照らせそうだね。」

「問題無し。設備良好。」

「………。」


そうだ。スポットライトに照らされて浸っていたが、この2人は鐘ヶ崎を照らすために行動しているんだった。

………まぁいいか。鐘ヶ崎、頑張れ。こんなにキラキラした表情で語る2人を止める言葉を私は持っていない。




「へくちっ!んん、風邪でもひいたか?体調管理には気を配っているのだが………。今日は早めに休むとするか。」


鐘ヶ崎は自身に迫り来る脅威に気付いていなかった。

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