ハッカー

「竹塚、まさかお前が天才ハッカーだったとは、私も予想外だったよ。」

「ふっふっふ、そうでしょう。能ある鷹は爪を隠す。今まで皆の前では披露してきませんでしたからね。」

「それじゃあまさか、今まで起こった世の中のテクノロジー的な問題の黒幕が竹塚だって言うのかよ。」

「ふっふっふ。」


こんなところにとんでもない奴がいて、そいつが友達だっただなんて。

真実を知ってしまった事で、物語的な何かが動き出すのか。


「いや、タイピングが早いだけで天才ハッカーとか有り得ないんだよな。」

「でもめっちゃ早くカタカタとキーボードを入力してたし、これは天才ハッカーの証だと思うぞ。カッコいいし。」

「そうだぜ。本人も不敵な笑みで否定してこないって事は事実って事だぜ。カッコいいし。」

「それなら適当にタイピングしても早ければ天才ハッカーとやらになれるよな。」


情報の授業でパソコンを操作していたが、竹塚が私達とは比べ物にならないくらい素早く入力していたのだ。

これを天才ハッカーと思わずにはいられない。

圧倒的タイピング速度に天才ハッカーと言う称号。カッコ良さの塊じゃないか。

だから事実かどうかはとりあえず気にしないで天才ハッカーと呼んでおく。


「伊江、世の中には真実より大切なことだってあるんだぜ。」

「少なくとも竹塚を天才ハッカー扱いするのは真実より大切だとは思わないけどな。」

「でも竹塚は喜んでいるぞ。」

「ふっふっふ。」


本人も喜びのあまりメガネをクイクイしている。

真実も大事かも知れないけど、本人が喜んでいるんだからそれでいいだろう。


「あれは3年前の事でした。」

「なんか語り始めたぜ。」

「今日の作り話だな。」

「いや、天才ハッカーの隠された戦いの記録が明かされるかも知れないぞ。」


竹塚の語りが始まり、とりあえず丹野、伊江、そして私は話を止めて口を閉じる。


「僕がまだ中学生だった時、パソコンに初めて触った時は今のように淀みなくタイピングをすることは出来ませんでした。


しかし、偶然にも道端で拾ったUSBが僕の運命を変えたのです。

そのUSBの中に入っていたデータは、とある企業の機密情報でした。それも日本を、いえ世界をも揺るがしかねない、とんでもない計画の情報が入っていたのです。


その情報を知った時、僕は恐怖しつつも、その計画を止めなくてはならないと決意しました。

それからは日々ハッキング技術を学び、能力を高めていったのです。

以外にも情報が漏洩していることに企業は気付きませんでした。

単純に気づいていなかったのか、落とした本人が罰を恐れて隠ぺいしたのか。はたまたUSBを落とした本人が計画には反対で一縷の望みをかけていたのか。

ともあれ、僕が技術を高め、計画を止めるための作戦を練る時間を稼ぐことが出来たのです。


そして遂には企業のファイアウォールを突破し詳細の情報を入手。警察や公安、特殊部隊、果ては忍者や怪盗にまで情報を流す事で企業の計画を食い止めようとしたのです。

それぞれに随時必要な情報を知らせ、行動を操る事で相互の組織にとって無意識的な形で連携を取らせることで結果的に作戦は成功しました。

しかし全ては薄氷の上の勝利であり、一歩間違えれば失敗し、僕はこの場にいなかった事でしょう。


その作戦が終わった後、正体を明かさずに暗闘してきた僕は舞台から降り、平穏な日常を過ごすために自分の能力を隠して生活していた、と言う訳ですよ。」

「「おぉ~!」」


まさかそんな事があっただなんて。

しかも自身の姿を明かさずに事件を解決する、なんかカッコいいぞ。


「その感嘆は信じてるんじゃなくて即興で作り話を作る竹塚に対してだよな?」

「でも正体を明かさずに活動していたって言ってるし、実は本当かも知れないだろ?」

「そうだぜ。それにその方がロマンがあるし。」


伊江、さっきも言ったが、世の中には真実よりも大切な事があるんだぞ。


「ふっふっふ、安達、2年と11ヶ月くらい前に僕と入屋と一緒に本屋に行ったでしょう。」

「あぁ、行ったような気がする。」

「実はあれも作戦の内だったのですよ。」

「マジで!?」

「何故そこまで信じられるのか不思議で仕方ないな。」


友達と一緒に本屋に行くことで作戦にどんな影響を与えたんだろうか。

竹塚の頭脳は計り知れないし、きっと深い考えがあったんだろう。


「そして丹野。2年と9ヶ月くらい前に、給食でカレーが出たでしょう。」

「な、なんでそれを知っているんだ!?オレと竹塚は違う中学校出身のはずだぜ!」

「あれも僕の作戦による影響なんですよ。」

「マジか!?」

「カレーなんて給食の定番なんだから適当に何年、何ヶ月前って言っても当たるだろうな。」


まさか自分の作戦が世の中にどんな影響を与えているかまで正確に把握しているだなんて。

竹塚、底知れない恐ろしい男だ。


「そして僕たちの中学校に藤沢と言う男子生徒がいたことを覚えていますか?」

「確か、『真理』とか『アポカリプス』とか、そんな感じの事を言ってる奴がいたけど、進学した高校は違うから、あんまり覚えてないぞ。」

「実は彼も、僕の作戦のメンバーだったんですよ。あの言動も周囲を欺くためだったのです。」

「マジで!?今度会う事があったら話を聞いてみよう!」

「たぶん無関係だろうな。可哀想だから止めてやれ。」


私の周りには意外な真実を抱えている奴が多すぎる。

これは竹塚に更に詳しく話を聞かなくては。


「竹塚、他も話も聞かせてくれ。」

「良いでしょう。あれは2年前の事でした。」

「こいつら風呂敷広げすぎだろ。そろそろバイトの時間だから俺はもう帰るからな。」


可哀想とか言ってるが、竹塚のエピソードを聞けないお前こそ可哀想だと思うぞ、伊江。

私と丹野は竹塚の背負っていた重荷を分かち合うために、引き続き話を聞くとしよう。




たとえ最後に『そんなお話のドラマがあったら面白そうですよね。』と言われることになったとしても!

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