建築

竹塚、伊江、長谷道と共にゲームをしている時の事だった。

まさか、あんな事が起きるだなんて、その時は思ってもいなかったんだ。


「見ろ、家が出来たぞ。」

「原始時代を参考にしたんですね。」

「家と言うより洞窟とか洞穴だよな。」

「自然に寄り添っていて良いんじゃないかい?私は絶対に住みたくないけど。」

「揃いも揃って否定的な意見しか無いとか、私に対して厳し過ぎないか?」


ブロックで構築された世界で、自由に建築や冒険を楽しめるゲームで、皆の拠点となる家を私が作ったのだが、どうにも不評だった。

おかしい。最低限の労力で最大限の成果を出したはずなのに。


「自信満々に『私に良いアイデアがある!』って言うから家の建築を任せてみたらコレだからな。」

「何が悪いって言うんだよ。地下施設はロマンだろ。拡張性だって十分だし、シンプルイズベストって言葉だってあるだろ。」

「地下室を作るのが悪いって言ってるんじゃねぇ。地下しか作らないのが悪いって言ってるんだよ。木材なり石材なりを使って地上に作れよ。」


確かに、そう言った材料を使って建築をする事も1つの選択肢だろう。

しかし、


「残念だったな、伊江。私は丸腰だ!」

「作れ、道具を。」

「仕方が無いね。ほら、安達くん。これを譲ってあげよう。」

「お、長谷道。何かくれるのか?」


道具が無いと言うと、長谷道が近づいて来る。

一体何をくれるのだろうか。


「これは、木のピッケルか。ありがとう。」

「『ありがとう。』って言いつつ攻撃するの止めてくれないかな?」

「ごめんごめん。わざとだ。」


長谷道は木のピッケルを投げてくれたのでありがたく受け取る。

けど、さっき私の作った家に対して『絶対に住みたくない』って評価をしたのを忘れてはいないぞ。

この一発はそのささやかな反撃だ。


「そっちがその気なら、こうだよ。」

「痛っ!?ちょっと待て、明らかに木製じゃない武器で殴るなよ!」

「少しだけ手に入った鉄で作った斧だよ。恩を仇で返すような君には報いをあげよう。」

「受け取り拒否する。待って近づいてこないでごめんなさい。」


一気に10個あったハートの体力ゲージの半分近く、正確にはハート4.5個分もダメージを受けたぞ。

あと2回攻撃されたら死ぬ。

そんな状況下で更に接近されるとか、恐怖でしかないぞ。

いや原因は私なんだろうけど。


「安達、ふざけてないで早く10LDKの豪邸を建てて下さいよ。」

「ごめんごめ……、いやちょっと待て10LDKの豪邸を要求して来る方がふざけてるだろ。」

「3ヘクタールの庭も欲しいですね。」

「ヘクタールってなんだよ。」

「1ヘクタールで10000平方メートルですね。つまり30000平方メートルです。」

「めちゃくちゃ広いんだけど。」


規模が完全に農地とか牧場とかのサイズ感じゃん。

どんだけ整地すればいいんだよ。

まぁでも、


「サイズは置いておくとして、実際に食料とかの為にも畑は必要になるだろうし、牧畜もしたいぞ。」

「それなら私は少し離れたところで羊を見つけたから連れて来ようか。」

「僕は安達だけに建築を任せるのは不安なので現場監督をしていますね。」

「俺は引き続き探索して来るかな。」


それぞれの役割を決め、行動に移る。

仕方が無いので地下ハウスは封印して、普通に資材を集めて家を建築するとしよう。

しかし今思うと、竹塚だけ働いていないのでは?


「安達、手が止まっていますよ。次はこの高さを基準に整地して下さい。」

「あぁ悪い、考え事してた。」

「そうですか。整地の際に手に入れた土は右のチェストに、石類は左のチェストに入れておいてください。念のため、中に土と石を入れておいたので間違えないようにしてくださいね。」

「分かった。」


たぶん私の見えないところで何かしらしているんだろう。きっと。恐らくは。

竹塚の事は置いておくとして、私も自分の仕事を進めよう。




「よし、豪邸とは言えないけど完成したぞ。」

「やりましたね。」

「さっきとは比べ物にならないな。」

「原始人からは卒業できそうだね。そうだ、羊を連れて来るついでに見つけたお土産をあげよう。」


完成した家を見た皆は喜んでいるようだ。

作った私も鼻が高い。

そんな事を考えていると長谷道がお土産と言って何かを投げる。


「芽が出たジャガイモだよ。」

「これ何に使えるんだよ?食べるのか?」

「いや、特に使い道は無いよ?」

「いらなっ!?ただのゴミじゃん!」


使い道のないゴミだった。

お前はお土産にゴミを渡すのか。

もう一回、木のピッケルで殴ってやろうか。

反撃された勝てないからやらないけど。




「そう言えばいらないアイテムはマグマに突っ込めば良いらしいな。」

「お、それなら丁度持ってるぞ。」


整地している時にマグマが湧き出ていたから、竹塚に言われて回収しておいたんだ。

流石は竹塚、こうなる事を読んでいて回収させたのか。


「待て、安達!」

「え?」


家の脇に穴を掘ってマグマを流す。

そこに芽が出たジャガイモを投げようとしたが、気が付くと家に延焼していた。


「木製の家なんだから火気があったら火事になるに決まってるからな。」

「人は皆、失敗を重ねて成長していくと思うんだ。」

「何か言い残すことは?」

「ごめんなさい。」


遺言を残して処刑される。

しかし悲しい事は続くものだ。


「ちょっと待って、ベッドも焼失したからリスポーン地点が初期地点なんだけど。」

「頑張って戻って来な。」


やっぱり焼失したりしない地下ハウスが正解なのでは?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る