背中
決して後ろを振り返ってはいけない。振り向くとそこには………。
なんて、怪談ではよくある流れだ。
現実では別に後ろを振り返る事なんて沢山あるし、振り返ったところで何かがある訳でもない。
何も怖い事なんてないんだ。
恐れる気持ちが凶事をもたらすんだ。
だから、
だから私も後ろを振り向いても問題ないはずなんだ。
「じー。」
まぁ、後ろを振り向くような用事なんてないし、振り向く必要はないけど。
「じー。」
何やら視線を感じるが気のせいだろう。
「じー。」
視線を声に出して言っている奴がいるような気がするけど、私を見ているとは限らないし。
「じー。」
用事があるなら自分から声をかけてくるだろう。
「じー。」
「だぁ!一体なんだ!?本郷!私はまだ説教されるようなことはやっていないぞ!」
「やっと私に気付いたの。鈍いんじゃないの?そして『まだ』って言うことはこれからやるつもりだったの?」
「ソンナコトナイヨ。」
「なんで片言になるの。」
今のところ、やましい事はしていない。今のところ。
と言うか。
「さっきからこっちを見てきて、一体何の用だよ。」
「用っていうか、背中。気づいてないの?本当に鈍いの。」
「背中ぁ?」
本郷に背中の事を指摘され、背中に手を当ててみる。
「ん?なんだ?紙か何かが貼ってあるな。」
すると、なにやら紙らしきものが貼ってあることに気付き、それを剥がす。
道理で廊下を歩いていると後ろから視線を感じるはずだ。
どれどれ、内容は………
「『ded or arive』?なんて書いてあるんだ?」
「一目で誰が犯人か予想がつくスペルミスね。」
「なんだって!?これだけの情報で!?頼む、名探偵本郷、犯人を教えてくれ!」
私には背中に貼り付けられていた紙に書いてある内容も、貼り付けてきた犯人も分からない。
しかし本郷はこの僅かな時間で推理し、犯人を突き止めたんだ。名探偵と呼んでも差し支えないな。
「め、名探偵?ふふん、そこまで言われては教えて上げるしかないの。」
まんざらでもない様子の本郷が推理を披露し始める。
「恐らく、この紙には『dead or alive』って書こうとしてたと思うの。そして、そんな馬鹿なミスをする人間で、かつ安達の背中に貼り付ける事が可能な人物は二人。一人目の容疑者は安達。あなたなの。」
「な、なんだって!?私がこの紙を自分で!?一体いつの間に!?」
「人の話は最後まで聞くの。安達は自分で紙の存在に気が付いていなかった。それにわざわざ、そんな紙を貼り付けて歩き回る理由が無いの。まぁ安達の考えはさっぱり分からないから、いつものように奇行に走っている可能性もあるけれど。」
「いつものようにってなんだ、いつものようにって。失礼な、私はそこまで変な事はしていないぞ。」
いくらなんでも言い掛かりが過ぎるぞ、本郷。
私はただ思いつき、もとい天啓に従って行動しているだけだ。
抗議する私を軽く流して本郷は推理を続ける。
「それは自分で気が付いていないだけなの。とにかく、そうなるともう一人の容疑者が犯人となるの。」
「そ、それで、もう一人の容疑者って言うのは?」
「そう、犯人はあなたなの!丹野!」
「な、何故バレた!?」
「た、丹野!?どうしてここに!?」
本郷がロッカーの影を指差し、犯人の名前を言い当てると、そこから丹野が現れた。
まったく気付かなかったぞ。
「ふふん、犯人は現場に戻る(ってドラマで言ってた)の。この事件の現場とは安達の背中。つまり犯行を行った後、安達の様子を観察していたってことなの。」
「一瞬なんかドラマとか聞こえた気がするが、流石は名探偵か。まさかこうも言い当てられるとは思わなかったぜ。そう今朝安達の背中を叩いた時に貼り付けたのさ!」
~今朝~
「おはよー!」
後ろから来た丹野にバシンと勢いよく背中を叩かれる。
~現在~
「あの時か!よくもやってくれたな!」
「今朝って結構前なの。むしろなんで気付かなかったのか不思議なの。」
「おっと安達、勘違いしてもらっちゃ困るぜ。」
やれやれと言いたげなポーズで呆れたアピールをする丹野。
やれやれって言いたいのはこっちだよ。
まぁいい。弁明を聞こう。
「デッドオアアライブって響き、カッコ良くね?」
「確かに!」
「オレは安達の事を今日一日カッコよくしてやろうと思ってやったんだぜ。つまりは善意だよ。」
「そうだったのか。私としたことが勘違いしてしまって申し訳ない。」
丹野にしては珍しく善意からの行動だったのか。
てっきり嫌がらせかと思ったが、善意からだったとは。
「肝心のスペルミスのせいでかなりカッコ悪くなってるの。」
「丹野、この野郎!なんてことしてくれたんだ!」
前言撤回。こいつとんでもない事してくれたな!
「あなた達やっぱり馬鹿なの。あと、はい。」
「ん?どうした手なんか差し出して。お手か?」
「違うの。デッドオアアライブと言えば賞金ありきがお約束なの。丹野の前に安達を差し出したんだから賞金を寄越すの。」
なるほど。確かにデッドオアアライブと言えば賞金、賞金と言えばデッドオアアライブ。
私を対象にしているんだからきっと高額なんだろうな。
「んー。ちょっと待ってくれ。」
丹野は財布の中を確認し、
「じゃあ、はい。十円。」
「やっす!?私の価値十円!?てかお前の財布にはそれしか入ってないのかよ!」
「いや千円札とか五百円玉とかあったけど、安達の賞金としては高過ぎだと思って。」
「妥当な線なの。受け取るの。」
そっかぁ、妥当かぁ。私の価値は十円か。
「いやおかしいだろ!
そして二人にたっぷりと私の価値・魅力・存在意義をプレゼンするのであった。
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