夏休みの課題

「夏休みも、もう終わりだな。」

「今年もグダグダしてましたね。」

「伊江は海に行ったらしいぞ。」

「サメに襲われませんでしたか?」

「竹塚もサメ映画見たのかよ。」

「はい、安達を連れて。」

「アレはヤバかった。やっぱり海は危険だぞ。」

「お前が元凶か。」


サメはヤバい。

この夏に得られた1番の教訓だ。

また一歩成長できた。

今度は伊江も連れて行ってやろう。

そうすればお前も海の、サメの恐ろしさが分かるはずだ。


「ところでお前らは夏休みの課題は終わったか?俺は終わった。」

「余裕ですね。初日に半分終わらせて、もう半分をゆっくりと終わらせましたよ。」

「まぁ竹塚はそうだよな。でもてっきり初日に全部終わらせてるものかと思ってたけどな。」

「夏休みの課題は夏休みの期間中に遊び惚けて脳が衰えない為にありますからね。程々に残しながら進めたんですよ。」

「なるほどな。」


伊江は夏休みの課題の話を切り出す。

竹塚は順調なようだが、それを聞いた伊江は暗に『安達はダメそうだけど』と言いたげな返答をする。


「伊江、『竹塚は』ってなんだよ。馬鹿な事を聞かないでくれ。」

「え、安達………まさかとは思うが、お前も課題終わってるのか?」

「今年は手伝いをあまり要求されませんでしたが、去年と違って1人で頑張ってたんですね。成長していて偉いですよ。」

「全く、私に現実を見せつけるなんて馬鹿な事を言わないでくれよ。」

「え?」

「え?」


夏休みが終わるなんて現実なんて見たくないじゃん?

まったく、伊江はなんてことをしてくれたんだ。


「安達、課題は終わってるのか?」

「伊江、私に現実を突きつけないでくれ。」

「これは暗に終わってないって言ってるようなものですよね。」


竹塚、それは私を侮り過ぎだろう。

私がいつ、全ての課題に手を付けていないと言った?


「いや、一部は終わってるぞ?一部は終わってないけど。」

「ちなみに終わってる科目は?」

「現文と選択芸術の美術には手を付けたぞ。」

「つまり数学と世界史と英語と生物とは終わってない訳ですね。」

「大半が終わってないじゃねぇか。」


馬鹿な事を言うんじゃない。

2科目も手を付けたんだ。

だから残りの科目を大半と言うんじゃない。


「いえ、待って下さい。今、『終わっている』じゃなくて『手を付けている』って言ってましたよね。」

「流石は竹塚。お前の様に賢くて優しくて友達想いな良い男を友達に持てて私も鼻が高いぞ。ちなみに美術はキチンと終わってる。」

「つまり現文は途中って事ですね。じゃあ友達想いの僕は応援だけしてあげますよ。」

「竹塚様、何卒、何卒お手伝いをお願いします。」

「流れるように土下座したな。」


当たり前だろう。

竹塚に見放されたら私の夏休みは終わる。

いや、地獄が始まると言っても良いだろう。

だから私が頭を下げる事に躊躇いなんてあるはずがない。


「大体メンデルの法則ってなんだよ!グレーテルに任せておけば良いだろ!」

「童話とごっちゃになってるな。」

「優性遺伝子と劣性遺伝子についてですね。」


生物って神秘的だよな。

…………生物、閃いた!


「良い事を考えた。道端で偶然出会ったヤギさんにプリントを食べられちゃった事にしよう。」

「知ってますか、安達。ヤギが食べても大丈夫なのは昔あった自然由来の素材のみで作られた紙ですよ。現在の化学薬品とかを使って作られた紙はヤギの健康にとても悪いので、それを言い訳として先生に説明したら間違いなく怒られるでしょうね。」

「マジか、初めて知った。」


仕方がない、ヤギさんのせいにするのは止めておこう。


「英語なんて問題文の長文を読む時点で挫折するんだよ。『なんか会話してるなー』くらいしか伝わってこないんだよ。」

「挿絵を見ただけって事ですよね。」

「何も分かってないって事だよな。」

「そもそも無理に全文を読むんじゃなくて問題として出題されている箇所を重点的に読めば良いんじゃないですか?問題文自体は日本語なんですから。」


その手があったか!

よし、ここは立案者である竹塚に問題になってる部分の翻訳を頼もう。


「宗教って訳分からないと思わないか?ガーリックとかプロテインってなんだよ。」

「まずもってお前が何を言いたいのかが分からないな。」

「恐らくカトリックとプロテスタントって言いたかったんでしょうね。」

「歴史なんて教科書見て解けば良いじゃねぇか。」

「教室に置きっぱなしだぞ。」

「課題する気0だな。」


待ってくれ、違うんだ。

補講で使ってそのまま置き忘れたんだよ。

だから私は課題をする気が0って訳じゃないんだ。

つまり無罪だ。


「確率の問題って根本的に意味不明だろ。5分の1で当たりを引けるんだったら、5回連続でくじを引いた時に1回も当たりを引けない確率なんて0%だろ。」

「そもそも問題文をよく読んでないな。」

「安達、そのくじは引くたびに戻しているんですよ。そして再びくじを引いているんですよ。」

「くじの結果が気に入らないからって何回も引くのは良くないと思うぞ。」

「そうだけど、そう言う問題じゃないんだよな。」


現実は素直に受け入れるべきだろう。

私だって伊江に現実を見せつけられたんだから。

くじを引いた人も私を見習うべきだ。


「なんだかどうにかなりそうな気がしてきたぞ。やっぱり持つべきものは友達だな。」

「なんかナチュラルに俺達が手伝う前提みたいな空気にしようとしてるけど、竹塚、どう思う?」

「安達、頑張って下さい。僕達も頑張って応援しているので。」

「竹塚、今度ソシャゲで3周年記念のガチャが楽しみだって言ってたよな?是非とも私に任せてくれないか?信頼と実績と豪運の私に!」

「何をボーっとしているんですか、伊江。早く課題に取り掛かりますよ。」

「安達、学食奢り1週間分な。」

「3日分で………」

「急用を思い出したから帰るかな。」

「1週間分だな?もちろんOKだぞ!」


買収完了。

やっぱり持つべきものは友達だ!

出来ればもう少し欲を抑えてくれると、よりありがたいが。

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