神経衰弱
それは伊江、竹塚、親方、丹野と放課後に集まってババ抜きをしている時の事だった。
「おかしい、こんなのは有り得ない。」
「おかしくはないし、有り得てるんだよな。」
「私の勝利は決定付けられていたはずのなのに。」
「その確信は一体どっから来てんだぁ?」
「根拠は無いけど自信だけはあるのが安達なので平常運転ですね。」
「確かに。」
私は確かに勝利できるはずだったのに。
竹塚は根拠の無い自信なんて言っているが、そんな事は無い。
とても納得できる理由に基づいての自信だった。
それなのに、敗北してしまった。
「今日の星座占いは1位だったのに、何をどこで間違ったんだ………?」
「星座占いを信じたあたりですかね。」
「そんな理由で自信満々だったのかよ。」
「始まる前から勝ち誇ってたからなぁ。」
だって星座占いだぞ。
なんか1位になってたら嬉しいし自信持てるじゃん。
勝てると思うじゃん。
「仮に運勢が1位でもゲームの駆け引きでは最下位なんだよな。」
「バッチリ顔に出てて楽勝だったぜ。」
伊江はともかく丹野にまで楽勝扱いされるのには納得いかない。
お前だって顔に出る方だろうが。
「そもそもよぉ、トランプってのは基本駆け引きが大事なんだからよぉ、運が良くても勝てねぇんじゃねぇか?」
「駆け引きすらも超越する圧倒的幸運、見てみたいだろ?」
「カッコつけてますけど、圧倒的幸運とやらは駆け引きに惨敗してますよ。」
「まさかとは思うけど、そのために普段持ってこないトランプなんて持ってきたのか?」
「…………ソンナコトナイヨ。」
「片言じゃねぇか。」
だって今日の星座占いで1位だったんだぞ。自慢したいじゃん。幸運の程を見てみたいじゃん。
普段は星座占いとか見てないけど。
「それなら私は何で1位の運を発揮すればいいんだよ。」
「発揮するのを諦めれば?」
「私は絶対に諦めないぞ。」
「やっぱり運ゲーと言えば神経衰弱だぜ。」
「それは記憶力が無い丹野にとってはですよね。」
「そもそもトランプを使ったゲームで運ゲーなんてねぇんじゃねぇかなぁ。」
伊江に諦めろと雑に言われるが、断固とした意志で拒絶する。
丹野はナイスなアイデアを提示したと思ったが、竹塚と親方に否定される。
え?あれって運ゲーじゃないのか?
そうだ!神経衰弱で一番手になって連続してペアを引き当て続ければ運ゲーで大勝利すれば皆からも認められる!
「神経衰弱で証明してやろうじゃないか。」
「安達の記憶力の無さを?」
「違う!一番手で連続してペアを引き続ければ私の幸運を証明しつつ勝利できるだろうって話だよ!」
何が悲しくて自分の記憶力の無さを証明しなくてはいけないんだ。
それにこの場には丹野もいる。
つまりは私が最下位にはならないから記憶力の無さの証明にもならないと言う事だ。
「神経衰弱でノーミスでクリアできる確率は限りなく0に近いと言うデータがあります。僕の計算では安達はノーミスでクリアは出来ないでしょう。」
「竹塚が漫画とかに登場するデータキャラみたいな事言い出したぞ。」
「でもなんか似合うな。」
「例え分の悪い賭けであったとしても、私は勝負が始まる前から諦めたりはしない!」
「こっちはなんか主人公っぽい事言い出したぜ。」
「往生際が悪い事を良い感じに言ってるだけだろぉ。」
竹塚は確率が云々言い出したが、私は折れる事無く、ついでにカッコいいセリフを言って勝負に挑む。
親方が何やら言っているが、物は言いようだから。
「ドロー!」
まず一枚目!ハートの3!
「ほう、ハートの3、ですか。」
「おいおいたかがハートの3を引いたくらいで勝負は決まらないぜ。」
「なんか漫画とかのモブっぽい事言ってるけど、一枚目は特にコメントする場面でもないからな。」
そして二枚目!スペードの3!ワンペアだ!
「おぉ、一手目からペアが出来たぞ。」
「これは素直にすげぇって思うなぁ。」
「中々やるようですね。」
賞賛の声が気持ちいい。この調子で行くぞ!
次は連続で引いていく。
スペードの8とクラブの8!ツーペア!
「あれ?案外、星座占いって信憑性高いのか?」
「ここでミスると思ったんだけどなぁ。」
「ですがまだ先は長いです。果たしてノーミスでクリアできるのか、それはこの後明らかになるでしょう。」
ざわ………ざわ………
と言う効果音が聞こえてきそうなほど、ギャラリーも盛り上がっている。
続けて三手目!ダイヤの4とクラブの4!
あれ?これマジでノーミスクリア有り得るのでは?
「おいおいおいおい、これはもしかすると!」
「マジで流れが来てるんじゃねぇか!?」
「待て、まだ慌てる時間じゃない。ここからが大事だからな。」
「安達。もし成功したら神として崇めて宗教を立ち上げてあげますよ。」
私、神になるのか!?
よし、この調子で四手目!
スペードの10!そして!
「…………スペードの2。」
「そんな事だろうと思ったぜ。」
「まぁ、頑張った方だな。」
「それでも三連続引き当てたのは事実だしよぉ、十分すげぇと思うぞぉ。」
快進撃は終わってしまった。
丹野、お前には出来ないだろうから伊江や親方みたいに私の健闘を称えるべきだ。
そして竹塚は優しい笑みを浮かべて口を開く。
「やはり僕の分析は正しかったようですね。」
「そのキャラ付け気に入ったのか?」
データキャラ的なセリフを言ってきた。
さっきまで神とか宗教とか言ってたくせに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます