第5章 集結!

第5話 事件です!

 アイリスが人をはねた。それも、黒い鎧の騎士を。これはまずいのではないだろうか。

 当のアイリスは気づかずに、ものすごい勢いで走っていく。どこに向かっているんだろう。

「ワタシとアイリスの魔力がつながってる限りは居場所わかるから大丈夫」

 とエクレールが言った後、ガシャンと音を立てて黒い鎧の騎士が地面に落ちた。

「わ。あの人、首取れた」

「ええっ!?」

 土煙でよく見えない。


「あー、びっくりした。なんだ今の」

 黒い騎士は何事もなかったかのように起き上がる。あの衝撃で何ともないなんて、やはり中央都市の冒険者?は伊達じゃない。


「ねー、アナタ今、首取れなかった?」

 エクレールがぴょいんと飛んでいく。

「ん? 妖精……いや、精霊か。あー、見られちまったか。実はおれはこういうもので」

 黒い鎧の騎士は、兜の面の部分をぱかっと開けて見せた。

「ぎゃー! おばけー!」

「あばばばばばばb」

 エクレールが電撃を放ち、黒い鎧の騎士をしびれさせた。


「……すまねぇ、びっくりさせちまったな。おれはセブン。仮称だが。見ての通り、ガイコツのモンスターだ」

 セブンさんはかくかくしかじかと事情を説明した。モンスターの居住区、か。さすが中央都市の人々は考えることが違うなぁ。

「やっぱ、この鎧着ておいて正解だったわ。そのおちびさんみたいにみんなを怖がらせちまうところだった」

「おちびさんじゃない! ワタシはエクレール!」

「へいへい。それはそうと、さっきのはおまえらのツレか? あの調子だとやべーぞ。おれだったからよかったものの、普通の人間なら死んでたぜ」

 それは間違いない。けれど、もう走れない。ここに来るまでずっと走りっぱなしだった。中央都市が近づくにつれ、気分が高揚したと思われるアイリスはさらに加速していた。


 僕に合わせて「ゆっくり」走っていてくれたんだな。逸る気持ちを抑えて……なんだか申し訳ない。


「ま、ダイジョーブっしょ! 治癒が得意な魔法使いもいっぱいいるし、ここ」

 そういう問題じゃないと思うよ、エクレール……。

「さすがに、ここでは迷わないよね……アイリス」

「え? 迷うよ、フツーに。あの子」

 僕は肩を落とした。方向音痴は筋金入りか。

「アレンちゃん、心配性だねー。ここにはアイリスの仲間たちもいるから平気だって! なんかあればアイリスを縛ってでも連れて行ってくれるから!」

「それならいいんだけど……」

「たぶん、北の大ギルド【ルミナス】に向かってるつもりだと思うよ。そこがアイリスの【ホーム】ギルドだから」

「え……あっち、西……」


 北の大ギルド【ルミナス】。南の大ギルド【ルクス】。西の大ギルド【ラズリア】。東の大ギルド【リロイ】。その下に、いくつかのギルドが存在する。大ギルドに所属できるのはほんの一握りの冒険者だけだと言う。アイリスはその一員なのか。すごいな、やっぱり。


「なんかよくわかんねーけど、そこのおちびさんは色々と詳しそうだな。よし、せっかくだからちょいとご一緒させてもらうぜ」

「えー。せっかくアレンちゃんと2人きりになれたのにぃぃ」

「すげー嫌そうな顔するな、おまえ。悪いな、実を言うとさっきの衝撃で道を忘れちまったんだよ。なんたって初めてのトコだからな、方向感覚が」

 セブンさんが申し訳なさそうに言う。


「仕方ないなー。じゃあ、とりあえず北の大ギルドに向かおっか。そこで待ってればアイリスも来るでしょ。なんかまた変な方向行ってるけど、今」

 エクレールがやれやれとため息をついた。

 

 『事件』はその時おきた。


「た、大変だ! 北の大ギルドが!」


 冒険者と思われる男性が、広場で大声で叫んだ。次に続く言葉は僕たちを驚愕させるのであった。



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