新しい日々へ

アレンを救え

 冒険者たちはドワーフの里へと戻ってきていた。


 あれからずっと、アレンは眠り続けている。

 傷は回復しているのに、衰弱していくばかりであった。

 ユーリは魔法でアレンの内なるマナへの接続を試みる。しかし。


「……心が、バラバラになってしまっています。このままではアレンさんの意識は消滅してしまいます」

「……アレンさん……」

 強大な力を放った代償だった。本来あの力は、人間が扱えるようなものではない。なぜ光の力がアレンに宿ったのか、それは誰にもわからないことだった。

 とにかく。砕けた心をつなぎ合わせる方法を探らなければならなかった。


「──セブン。きみの力ならアレンの夢……意識の扉を開けるんじゃないかな」

 反射的に、セブンが魔剣の切っ先を向けた。

「フィーナ! てめー、まだ生き……て? いや、ブルー? いや、フィーナ? なんだおまえ」

 フィーナブルーは、ブルーフィーナは、少しだけ笑う。


「どちらでもあって、どちらでもないとも言えるかな、この状態は。安心して。ぼくはもう、きみたちをどうにかする気はないから。信じられないかもしれないけどね」

 ブルーは死にゆくフィーナを取り込んだ。身体は、意識はまじりあい、一つになった。このことをフィーナは何となく予測していた。自分が自分ではなくなる。それでも、生きたいと願ったのだ。新たな、この世界で。


「こうなると、もはやわけがわかんねーな。どうなってんだおまえは」

「それはぼくのセリフでもある。きみの存在は理解を超えている」

「確かにな」

 セブンは自分でも理解できなかった。生物という概念を超越した何か。そんなものが存在していいのだろうか。しかし【裁定者】たるドラゴンが干渉してこないところを見ると、危険視されていないようだ。

「考えるのは後だ後。しかしそうか。そういやベルベットから取り戻した夢の力があったな。これが使えるか」

 その力でアレンの意識の中へと入り込み、心をつなぎ合わせる。それは簡単なことではない。


「これからおれの力で、アレンの夢……【意識の扉】をこじ開ける。おそらく、そこを通るのはひとりが限界だ。他者の意識の中で自分の意識を保つのは大変だ。記憶の渦に飲み込まれ、二度と帰ってこれない可能性は高い。できればアレンとつながりのある家族が望ましいんだけどな……」

 他者の意識の世界の中。その意識に飲まれずに自我を保つには、強い精神力とマナが必要だ。

 セレナが最も適任ではあるものの、彼女もまた意識を取り戻せていない。となればユーリか。


「……わたしが行く。わたしに行かせて。お願い」

 アイリスが決意のまなざしをセブンに向けた。

「まぁ、言うと思ったけどよ。おまえと契約している白雪だっけか? そいつの……精霊の導きがあれば、自分を見失わずに済むかもしれねーが……それでも確実ではないぞ」

 それでも彼女は行くだろう。

 彼女がアレンを想っていることは、セブンも知っている。その想いの強さに懸けるしかない。


「ソフィ様よ。アレンと関わったことのあるやつをここに集めてくれ。皆の”想いの力”が頼りだ」

「うむ! わかった!」



 ソフィの呼びかけで、アレンとの関わりのあるものたちが集められた。

 彼らはアレンに呼びかけ、そしてその帰りを願った。



「アイリス。これからおまえを、アレンの意識の中へ送り込む。目を閉じ、意識を集中させろ」

 セブンの言葉に頷き、アイリスは目を閉じた。そして、アレンのことを強く想った。



 ふわりと身体が浮くような感覚。そして一気に、急降下した。


 ──。

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