冒険の予感
僕の予想に反し、ギルドにアイリスさんの姿はなかった。おかしいな……ここに来ると思っていたのに。
「アレンさんいらっしゃ……ってその血! どうしたんですか!?」
ギルドマスターの娘、マルグリットさんが僕の腕を見て驚いた。
「ちょっとモンスターにやられてしまって。でも、もう怪我は治っているから大丈夫」
「ん!? お前さんが行ったのは、ほとんどモンスターもいない初級ダンジョンだろ? あのあたりに狂暴なモンスターもいないはずだが……」
奥にいたギルドマスターのゴッツさんが、マルグリットさんの驚いた声を受けて、しかめっ面で僕の方にやってきた。しかめっ面なのは不機嫌なのではなく、もともとこういった顔なのだった。しかも筋肉隆々でごつい。初めて会う人はみんな尻込みしてしまうであろう、そんな迫力がある。
「それが……」
と、僕はダンジョンで起こった出来事をゴッツさんたちに話した。
ゴッツさんはやはりしかめっ面で、つるつるの頭を撫でまわして唸る。
「うーむ。あのダンジョンに隠し部屋があっただと? 危険がないように調べつくしたはずなんだがなあ」
「お父さん、もしかしたら女神様がダンジョンを【拡張】したんじゃないかしら」
「ありえん話ではないが、事前にこちらに“通達”がきていてもおかしくないんだがなあ。初心者用の超がつくくらいの初級ダンジョンだぞ」
ゴッツさんは腕を組んで目を閉じる。
「調査が必要だな。しかし、みんな出払っちまってる。しかたねえ、ここはオレが行くか」
「ダメよお父さん。すぐそうやってお仕事さぼろうとして」
「バレたか」
ゴッツさんはがっはっはと笑う。
ゴッツさんは元冒険者。何か問題が生じたとき、自ら進んで問題を解決しに行こうとするのは昔の血が騒ぐからだろうか。
「あれ? どうしてアレンさんがここに……。あっ、そっか。冒険者……」
振り返るとそこにはアイリスさんがいた。やっぱりギルドに用件があったんだ。
「おう、アイリス。やっと来たか。久しぶりだな。しかし、なんかあったのか? 予定では三日前にこっちについているはずじゃ……あ! お前さん、また道に迷ったな! その致命的な方向音痴、どうにかしねぇとやべぇぞ」
「う……わかってるわよ!」
方向音痴。
僕より先にギルドに到着していてもおかしくなかったのに、僕の後から来たのはそういうことか。
「大体お前さん、この町に何度も来たことあったろうに。命の恩人を探すとか何かで」
「う、うるさいわね」
アイリスさんは口をとがらせる。
「で、頼まれていたものだが……すまん。あと一週間くらいかかりそうだ」
「はあっ? あと一週間も!? 貴方ほどの人がそれだけ時間がかかるなんてどういうこと?」
「お前さんな、あの代物がどんなものか知ってるだろ。それにあれを鍛えなおすにゃ道具が足りんのだ。特殊な鉱石も必要だしな」
アイリスさんは見るからにがっくりとした様子でため息をついた。
「他の鍛冶屋がお手上げなレベルだし、仕方ないわね。けどあと一週間か……どうしよ、その間」
ゴッツさんはそんなアイリスさんに、ニカッと笑顔を向けた。なんとも悪い顔だ。
「そんな、暇を持て余すであろうお前さんにうってつけのクエストがある!」
「はい?」
ゴッツさんは僕とアイリスさんを交互に見て、そしてまたへたくそな笑顔を向けるのであった。
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