僕が40歳で冒険者になったワケ
40歳のおじさんが冒険者をやっている。それは別におかしな話ではない。50代以上のベテラン冒険者たちだってダンジョンで大活躍している。冒険者に年齢制限はない。しかし、40歳から冒険者を始めた……という話は滅多に聞かない。
若い時より冒険者として経験を積む方が【スキル】の発現率は高く、能力値の上昇度も高い。だから、若い年代の冒険者たちが多いのだ。何かを始めるのに年齢は関係ないとは言うけれど、冒険者においては若い時から始めた方が有利と言えるだろう。
僕が40歳から冒険者になったと言うとみんなびっくりする。他の冒険者から馬鹿にされたり、蔑まれたりすることもある。
僕は冒険者に憧れていた。冒険者になって世界中を駆け巡るのが、僕の昔からの夢だった。かの『冒険王』の冒険譚を何度読んだかわからない。
僕がすぐに冒険者の道を選べなかったのにはわけがあった。
僕はもともと、町の道具屋のせがれだ。父のあとをついで、道具屋になる定めだった。
魔王が倒された後、冒険者たちが利用しなくなった……利用する必要のなくなった道具屋の経営状況は悲惨なものだった。父は道具屋を廃業し、新たな商売を始めようとしたが、僕はそれを止めた。いつかまた、きっと冒険者の時代が来る。根拠はないのに、僕はそう信じていた。父はしぶしぶ、道具屋を続けてくれることにしてくれた。
結果、僕たちの家はその選択に救われることになる。
細々と道具屋を営む傍ら、僕たち家族は他の仕事をして食いつないだ。耐えに耐える生活。そして突如として再び訪れた冒険時代。町は、道具屋は再び活気に溢れた。他の道具屋が廃業していた中、様々なアイテムを絶やさずに取り揃えていた僕たち家族の店には冒険者たちが殺到した。
一番大きなダンジョンがある中央都市からは少し離れているものの、そこにはないアイテムを買い求めに来る冒険者、他の町で道具屋を始めようと商品を大量に仕入れに来る商品など、毎日その対応に追われた。
僕たちは以前道具屋を営んでいた人たちに協力を求め、お店を大きくした。そうした成果もあり、女神様はこの近くにいくつかの『ダンジョン』を転移させてくれた。そのおかげで町は大きく発展し、僕たちは何不自由なく生活できるようになった。
そんなこんなで色々と落ち着いた頃には僕は35歳。僕はようやく、冒険者になりたいという話を父に切り出したのだった。
家族みんな渋い顔をしたものの、これまでの僕の功績を認めてくれていて、好きにさせてくれることになった。
そこから僕は冒険者になるために勉強したり、身体を鍛えた。
別に冒険者になるために資格はいらないけれど、『正式な手順』を踏んでギルドから冒険者として認められれば、色々な支援を受けられるようになる。
僕は5年かけて、ギルドの【試験】をどうにかこうにか突破することができた。これだけ時間がかかった冒険者は初めてだと、ギルドマスターは笑っていたっけ。
とにかく僕は晴れて、念願であった冒険者になれたわけだ。
40歳、初級冒険者。
そんな肩書の僕とは誰もパーティを組んでくれず。仕方なく僕は薬草採取などの簡単なクエストで冒険の経験を積み、地道に冒険者としてのレベルを上げることを試みているのであった。
危険のない初級冒険者用のダンジョンで、危険のないクエスト。そのはずだったのに。僕は痛む右腕をさすった。
「まだ痛む?」
「あ、はい。少しだけ」
「強い薬だから、じきに痛みも消してくれると思うわ」
「僕のために高価なアイテムを……ありがとうございました」
毒にも傷にも効くあの万能薬は、ウチの店でもなかなか入荷できないほどの人気のある代物だった。それなりの値段がするはず。
「気にしないで。それで誰かの命が救われるなら安いものよ」
「すみません。あ、そうだ……さっき手に入れたあの薬草があれば調合してお返しできるかも……」
「薬の調合ができるの!? 貴方、錬金術師?」
「いや、そんな……大したことはできません。もともと僕は道具屋だったので、アイテムの取り扱いに少しだけ長けているだけです」
「いや、十分に大したものだと思うけれど」
アイリスさんは大きな目をさらに大きく、丸くしていた。そして僕をじっと見つめる。その瞳に吸い込まれてしまいそうだった。
「あ、あの……?」
「どこかで会ったことがあると思ったら貴方、わたしの家の執事さんに似ているのね。道理で初めて会った気がしないのよね」
「は、はぁ」
家に執事。立派な家の出なんだな、きっと。
そんなことを話しているうちに、僕たちは町についた。
「ありがとう、アレンさん。ここまで来れば大丈夫。それではこれで」
と、アイリスさんはささっと行ってしまった。まだちゃんとお礼もできていないのに……。
それに、たぶん行く先は同じはず。
僕はギルドに今回のクエストの報告をしに向かうのだった。
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