第37話 夜は明ける

 悪霊と化したカタリーナによる混乱は、収束の時を迎えようとしていた。


 群がる冒険者を一瞬でなぎ倒す、暴風。

 手足の骨を砕かれた冒険者たちは這いまわることしかできない。


「──バケモンだ。あれが……白銀の闘鬼」

 白銀の闘鬼。上級冒険者。

 

その名は、アイリス。

「これで全部かしら」

 アイリスは冷たいまなざしのまま、周囲を見渡す。

「アイリス。まさかおぬしが来てくれるとはの」

「フレーシア様が私に依頼してきたのよ。それで仕方なく」

「フレーシアが……? そうか……あやつ。また恩ができてしまったの」

 それでもアイリスが来てくれたのは、自分たちを心配してくれてのことだとソフィは知っている。それがわかるくらいには、付き合いは長かった。


「あちらもそろそろカタがつきそうね」

 視線はそこに注がれる。


『いや……消えたくない……あなた……助けて』

 キースは視線をそらした。もう、見ていられない。はやく、終わりにしてくれ。キースは願った。

「しまった! ええと……キースさん。危ない!」

 ユーリが叫ぶ。


『こうなれば、アナタも……一緒に』

 すぐそこに、カタリーナが迫っていた。

 

 オレが一緒にいけば、もうカタリーナは苦しまずに済む。もう、誰も傷つかなくて済。それならば、受け入れよう。

 キースは手を広げた。


 じゃあな。みんな。短い間だったが、世話になっ──



「ニコル!?」

 あの時のように。ニコルがキースを守るように、カタリーナの前に立ちはだかった。


『ああ……! あたしの……あたしの……ぼうや』


 カタリーナが何を見たのか。キースには何となくわかった。

 この世に生を受けることのなかった、自分たちの子供。性別は、男の子だったらしい。

 もちろん、ニコルはその生まれ変わりなどではないだろう。しかし、カタリーナは……ニコルの中に光を見たのだった。



『……あなた……ごめんなさい。あたし、あたし……』

「……今まで、オレと一緒にいてくれて、ありがとう……カタリーナ。オレは、オマエと出会えて幸せだった。この想いは、忘れない」


 死神の姿は消え、かわりに淡い光に包まれた、美しい女性の姿があった。カタリーナは涙を流しながらほほ笑むと、すっと指輪の中へと消えていった。


「キースさん。この指輪を……砕きます。それで、おしまいです。よろしいですね?」

 キースは頷いた。

「お別れは、済んだ。頼む」

 ユーリは力を放つ。指輪は砕け、光となって……消えていった。

 

「……ニコル、大丈夫か」

 ニコルは光を見送り、泣いていた。

「キースさんこそ……大丈夫ですか?」

 キースはニコルの頭を撫でて笑う。

「オマエが無事で、よかった」


 さようなら、カタリーナ。

 オレがそっちへ行くまで、見守っていてくれ。



 夜が明ける。


 温かい朝の光が、中央都市を照らし始めていた。

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