第38話 また会おう!
今日。
キースとニコルは中央都市を出る。
「おれたちの仲間ってんなら、ドワーフの里も歓迎してくれるだろ。じゃ、ちょいと案内してくるわ」
セブンが言った。
『それ』は彼の発案だった。これで当面、生活には困ることはないだろう。
「すまんの……わしの力ぶそくじゃああぁ」
ソフィが号泣する。
「ソフィ様。アナタはオレたちのために尽くしてくれました。これからも力になります。何かあれば飛んできます」
キースがソフィに頭を下げる。
ソフィに対して尊敬の念を示すキースを、みんなびっくりして見ていた。
ニコルも自分のために尽力してくれたソフィのことを、心より尊敬し、彼女の力になりたいと強く思っていた。
──中央都市からの追放。
キースに科された処分が、それだった。
”呪いのアイテム”を中央都市に持ち込み、多大なる混乱を招いた者として重い処罰が下されるところを救ったのは……またまたこの人だった。
南の大ギルドマスター、フレーシア。
彼女は中央議会に対し、そもそも質の悪い冒険者を北東の一部に追いやり、スラムと化している状態を放置し続けてきたという問題を指摘した。そして被害を最小限に食い止めるためにソフィが尽力していたことを告げた。それはギルドマスターとしてふさわしい、模倣となる行動と姿勢であり、尊敬に値するとして擁護したのだった。
フレーシアは”当事者”のみを処罰することを提案した。追放処分が妥当という彼女の主張は認められた。それは”最悪”を回避するための策であった。
フレーシアが行動を起こさなければ、キースは死罪、さらに北の大ギルドの冒険者であるアレン達全員が何かしらの処罰を受けていたかもしれない。ソフィもギルドマスターを解任されることになっていただろう。
ソフィはあやつにはもう一生頭があがらぬと言うものの、とてもうれしそうに笑っていた。
「しかし本当にいいのか、ニコル。オレについてくるなんて……ここにいた方が、冒険者としての生活を楽しめるんじゃないのか」
キースが言うと、しつこいといった感じでニコルは頬を膨らませた。
「ボクは、キースさんと一緒がいいんです! 何度も言わせないでください!」
「しかしなあ……」
キースが何を言っても、何度言っても、ニコルの答えは変わらない。
せっかく中央都市の冒険者になったのにもったいない。キースはニコルにここで過ごして成長してほしいと願っていたのだが……。
「キースよ。ニコルはおぬしにとっての幸運の女神的存在じゃ。その絆、大切にした方がよい」
そう言って、ソフィは笑う。それでようやく、キースは決心した。
「……そうか……そうだな。改めて、よろしく頼むな、ニコル」
そう言うと、ニコルはやっと満面の笑みを浮かべた。
「ま。一件落着ってやつかしらね」
アイリスはアレンの隣で小さく言った。
「アイリスさん、色々とありがとうございました」
「……なんのこと?」
アレンは知っていた。彼女がフレーシアに行動を起こしてもらうために、一役買ってくれていたことを。なんだかんだで、ソフィのことを気にしてくれている。それがよくわかった。
「それにしてもその獣人の子、なんなの?」
アイリスはアレンに肩車されて、エクレールとじゃれているレオンをじろじろと見た。
「あ、あはは……なんでしょうね」
あれ以来、すっかりレオンになつかれてしまったアレンなのであった。
レオンは『おいしいごはん』の存在を知り、それが人間よりもおいしいことを知ると、狂暴性を消していった。
「あ! ほね! ほねかじる!」
「やめろー! くるなー!」
レオンはぴょんぴょんとセブンを追い回していった。
「……アレン。少し顔つきが変わったわね。その調子で頑張りなさい」
「……はい。ありがとうございます。そういえば、あの、『光の力』を使う冒険者さんは見つかったんですか?」
「ええ。ようやく会えたんだけど……うーん。なんか違うのよね」
アイリスが眉をひそめる。
「え?」
「全身金色で趣味悪いのよ。顔はいいんだけど、性格が残念ね。あとひとり……光の力を使う冒険者がいるみたいなんだけど……」
全身金色。それはなんだかすごい。
ふと、アイリスがまじまじとアレンの顔を眺める。
「あ、あの?」
「……うーん。何故か、あなたの顔を見てると何かを思い出しそうな気がするのよね。何かしら」
「さ、さあ……」
思い出しそう、といえばアレンも何かを思い出しかけていた。
そういえば昔、何か大きなショックを受けて、一時期の記憶が欠落していた出来事があったと両親が言っていたことをアレンは思い出す。それに何か関係しているのだろうか。
「……気のせいね。でも、あなた……本当にうちの執事に似てるわ」
「あ、あはは」
そんなに似ているのであれば、一度見てみたいな。アレンは苦笑いした。
そして。
キースとニコルは旅立っていった。
アレンにとっても、新たな冒険の時が……すぐそこまで迫ってきているのであった。
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