第74話 くちびる

 カミラは跳ぶ。そして、彼を見つける。


「アレンさま!」「アレン!」

「「ん?」」

 カミラとセレナ。二人は顔を見合わせた。

「あんた……あの時のエルフ?」

「……吸血鬼か」

「そういえばあんた。アレンさまとはどのような関係なの?」

「アレンは……わたしの、友だ」

「さすがアレンさま。気高きエルフも友人にしてしまうなんて」

「そう、わが友はすごいのだ。そういう貴様はアレンの何なのだ」

「アレンさまは……あたしの家族よ」

「家族……」

 友と、家族。なんだか負けた気がする。セレナは悔しい気分になる。

 いや、彼女がそう言っているだけであって、アレンはそう思っていないかもしれない。大体、彼女はまだここにやってきたばかりではないか。


 冷静になれ、セレナ。セレナは気持ちを落ち着かせる。

 そもそも。でぇとをした自分の方が立場は上なのではないだろうか。そうだ。そうに違いない。

 アレンの身辺調査はしてある。アレンがよく行く店、誰とどこで行動したか、何が好きで何が嫌いか。知る限り、彼が他にでぇとをした相手はいない。過去にもいないらしい。すると自分が、アレンの初でぇとの相手。


「……あんた、なに笑ってるの?」

「こほん。なんでもない。貴様のことはよくわからないが、アレンを止めたい想いは同じようだ。協力し合おう」

「なんかちょっとムカッとしたけど、力を貸してくれるのなら喜んで」


 アレンが雷を放つ。しかしそれは、二人から離れたところへと落ちていく。

「アレンさまの中で白と黒のマナがせめぎ合っている……」

「アレン。邪悪なマナに負けるな! あなたなら、乗り超えられる!」


 血の結界。

 アレンは動きを封じられる。


 新緑の香花。

 穏やかなかおりがアレンの心を穏やかにしようとする。


 それをアレンは無理やり破った。

 雷の短剣が光る。雷が建物を破壊しようとしたのを、カミラがその身体をもって止めた。

「ぐぅ……こ、の力は……。でも、よかった……アレンさまが他の人を傷つけなくて」

 カミラが地面に落ちた。

 吸血鬼を一撃で……。あれは、ただの雷ではない。

「これは……そうか。光の魔法か」

 だとすれば。このまま力を使い続ければ、元に戻れても廃人のような状態になってしまう。

「アレン、すまない。あとで必ず詫びる」

 四の五の言っている場合ではない。セレナは持てるスキル、魔法を駆使してアレンを止めようと試みる。それでも──届かない。

 スキルも魔法も、光の魔法により無効化されてしまったからだ。

 体技では今のアレンの速さにくらいつけない。

 これ以上、力を使わせたくない。であるならば、自分にできることはあと一つだけ。


 セレナは雷で焼けるのも構わず、アレンを抱きしめた。そして、口づけをする。口の中にを流し込んだ。


「グ……ウ、ウ!?」

「うあああああぁぁぁっ! なにしてんのセレナちゃんこのばかー!」

 一瞬だけ正気に戻ったエクレールが、セレナに極大の雷を放つ。魔法防御を打ち砕く一撃が、セレナを地面にたたきつけた。


 しかし。これで、次につながった。

 セレナはアレンの唇の感触を頭の中で反芻しながら、やがて、笑顔のまま意識を失った。




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