第73話 暴 雷

 なんてひどい面してやがる。セブンは心の内でつぶやいた。

 とても同じ人物であるとは思えない。


 目の前で雷が弾けたと思ったら、それはアレンだった。あの穏やかな表情はどこにもない。

「いきなりおれのところに来てくれるなんてな。そんなにおれが恋しかったのか?」

 雷の短剣が光る。不可避の雷が放たれる。

「あいかわらず痺れるねー。肩凝りにゃちょうどいいぜ。なあ、アレン、エクレール」

 返事はない。

「そう怖い顔すんなって。あ、おれの方が怖い顔だわな。ほれ、帰るぞ。みんなが心配している」

 セブンがアレンたちに近づこうとする。

 衝撃。

 セブンは地面に転がった。音が後から響き渡る。

「おまえよー。おれじゃなきゃ今ので死んでるぜー」

 立て続けに、衝撃。雷が奔って行く。


 ──どうしたもんかね、これは。


 雷をくらい続けることで、アレンが消耗してくれればいいのだが。それを期待をするセブンだったが、今、彼にはほぼ無限にマナが供給されているようだ。

 自然から、人々から、そしてモンスターから。至るところからマナが集まってきている。許容量を超えれば、爆発しかねない。はやく止めなければ。


 アレンの動きが、止まった。

「セブンさん。だいじょ……うぶそうですね、あなたは」

 アレンに重力魔法をかけたのはユーリだった。

「いや、あれをくらい続けたらやべーことになってた。助かったぜ。しかしこれ、どうすりゃいいんだ」

「動きを完全に止められれば、アレンさんの中の邪悪なマナを消滅させることはできるのですが……」

 アレンはぎりぎりと動き出す。腕や足から血が噴き出す。

「……く」

 ユーリは重力魔法を弱めた。瞬間、アレンたちは魔法を打ち破って跳んでいってしまった。


「ああして肉体の限界を超えてまで動こうとするのです。マナが供給されているので傷はすぐに治るようですが、血を失い続ければ……」

「ありゃ、四肢を切断したところで、死ぬまで動き回るだろうな」

「フィーナさんがあの状態を鎮静化させる薬を持っているようです。それが届くまで、被害を最小限に食い止めるしかありません」

「しかしあの速さ。捉えきれないぞ」

 そして『外』に感じる巨大な気配。巨大なケモノが、中央都市に迫っているのを二人は感じていた。

「アレンさんを止めたいのは私たちだけではありません。皆さんの力を信じましょう」

 ふいに。

 アレンのマナの動きが、止まった。

 二人はそこへと急いだ。



 アオイが、雷を斬った。

 雷の速度を見切る武人は、中央都市でも彼女くらいなものだろう。

「浅かったでござるか。しかし、次は」

「アオイ! あたしのパパを斬らないで!」

「リィンさん。だからアレンさんは……」

 ルーシーはため息をついた。


 アレンの傷が一瞬で消えた。

 しかし失った血までは戻っていない。アオイは顔色の悪いアレンを見てそれを感じ取った。

(だが……あれは、出血多量の状態でも止まらないでござろうな)

 生かさず、殺さず、か。剣の道を磨くにはよい試練だ。アオイは刀を構えた。


「後ろががら空きだぜ」

 アレンの右肩を、ジャンの槍が貫いた。

「ジャン! てめぇ、あたしのパパを、よくも!」

「おめぇのパパはこうでもしないと止まらねぇよ」

「ジャン、離れるでござる」

「──しまっ」

 槍が抜けない。そこから伝わる電撃に、ジャンは全身を焦がした。

「く……ったく、この甘ちゃんがよ。殺そうと思えば、今のでやれただろうが」

 ジャンが地面に落ちた。

「パパをいじめるからよ。生きてる?」

「あいつ、無意識に手加減してやがるな。まだちっとは意識が残ってるのかもな」

 ならばまだ引き戻せる可能性がある。しかし……そう時間はかけていられない。


「いたぞ、あいつだ!」

「あいつがモンスターを操っている張本人か……やっちまえ!」

 魔法が飛んでくる。

 アレンは雷の速度で回避する。その先を予測したかのように、矢が降り注ぐ。アレンはそれを回避するも、次の魔法に撃たれていた。

 上級冒険者たちが集まってきている。ここに特級も加われば、いくらあの状態のアレンでも逃げ道はない。ここは中央都市。冒険者たちの町。ドラゴンさえも倒す者たちが集まる場所なのだ。

 そう思った矢先。


「アオイ殿!」

 アオイと同じ、サムライの冒険者が遠くからその名を呼んだ。

「南に巨獣出現! 都市にいる特級クラスの冒険者はそちらの対処に当たれとのことです!」

「なんと……このような時に」

 天が味方するとはこのことか。ジャンは苦笑する。どいつもこいつも、よほどあいつを死なせたくないらしい。

 ジャンは吸血鬼化の粉を吸い込み、超常の力を得てアレンのもとへ跳ぶ。


「よぉアレン。なんだそのザマは。見て見ろよ……おめぇが分かり合えるといってたモンスターどもがあっちこっちで暴れてるぞ。このままだとみーんな殺されちまうぞ」

「ア……ア……」

 ジャンはアレンの胸倉を掴んで引き寄せる。感電し、肉を焦がしながらも、その手を離さない。


「見せて見ろよ、オレに! 救ってみせろよ……みんなを!」

 ジャンはアレンを殴る。

 アレンは泣き出しそうな顔を見せて、そして跳んでいった。


 ジャンはその場に倒れる。

「吸血鬼化していてもこのダメージかよ……くそが。オレはもう知らん。あとは任せるぜ」


 その声は、カミラに……届いた。

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