月下の出会い

 月夜。


 ユーリは異変を察知し、その場所へと【転移】した。

 屋根の上。少し赤みがかった月を見つめる、白銀の髪の男性がいた。

 ──人間では、ない。静かなマナの中に、マグマのような熱さがある。怒りや憎しみの中に、深い悲しみが浮かんでいる。


「美しい夜だな。そうは思わないか、なぁ護りびと」

「……あなた、吸血鬼ですね。それも真祖」

「真祖……ああ。ニンゲンはわたしのことをそう呼ぶな。わたしはヴラド。この世界を夜に包み込む者だ」

「ヴラド──吸血鬼の王。カミラさんと並ぶ、最強格の吸血鬼」

「……カミラはもう、ここにはいないようだな。まぁ、いい。わたしが成すべきことは変わらない」


 ユーリは極大魔法を複数展開した。

 ヴラドの表情は変わらず、静かなままだった。造作もなく、ユーリの極大魔法を打ち消していく。

「素晴らしい。魔法の力だけ取れば、わたしを凌駕しているだろうな。お前ならば、以前のわたしを倒すことができたかもしれないな」

 ふわりとヴラドが浮いた。


「この地に根付いた【クリフォト】がわたしに力を与えた。これより、永遠の夜が始まる。この世界は二度と光を見ることはないだろう。止められるものなら、止めてみせよ……護りびと」

 ヴラドは少しだけ笑うと、すっ、と姿を消した。

 

 ──再び中央都市に、いや、世界に危機が迫ろうとしている。

 しかも、魔王級の災厄が。


 今、この中央都市には巨大な災厄を止められる者たちがいない。

 【特級冒険者】といった超人的な能力を持つ者たちがいても、災厄の前には無力だ。

 ……あの方に知恵を借りてみるか。今の自分になら、接続アクセスが可能かもしれない。


 ユーリはある場所へと向かうことにした。“彼”を連れて。

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