第123話 無限悪夢
「はぁ……いつから、どこからどこまでが夢の中だったのか……わかりゃしねぇな」
セブンは再び走る。気がつくと、また同じ場所にいた。どこまで歩いてみても、ずっと同じ光景が続いている。
くすくすという笑い声の方向に、セブンは目を向けた。
「──ベルベット。おまえだったのか」
セブンの右腕の数字の部分がチリついた。
「また名前を呼んでいただけるなんて……嬉しいわ、王サマ。できれば耳元で甘い愛の言葉をささやいてもらいたいのだけれど」
地面からズズズ……と彼女は現れた。
「おれをばらばらにしたヤツの一人が何言ってんだ。しかも【悪魔】と契約したのか……。そっちから来てくれるとは、手間が省けたぜ」
セブンが魔剣の先を夢魔ベルベットに向けた。彼女は身を震わせ、恍惚の表情となる。
「ああ、ああ。素敵……。やっぱり我慢できない。王サマ、あたしはアナタのすべてが、欲しい。あいつらなんかにくれてやるもんですか。全部、ぜーんぶアタシのものよ」
「相変わらず欲張りなヤツだな。またバラバラにされるのはごめんだぜ」
セブンはベルベットを斬りつけた。手ごたえはない。
「くすくすくす。つれない方。せっかくだから一緒に楽しみましょうね。さぁ、
戦場。
屍の、山。
血の池の中に、セブンは立っている。
皆、知っている顔だった。
屍たちがゆっくりと立ち上がる。
「あんたのせいだ」
「信じていたのに」
「どうして俺たちを見捨てたんだ」
三文芝居もいいところだ。これは、夢。セブンはそれを認識できていた。
屍たちが群がり、噛みついてくる。その身に痛みはない。
ただただ、自分に向けられる呪詛を身に受ける。
場面は変わる。自分の魂を、血肉をバラバラにして喰らい笑う、あいつらの姿があった。
場面は変わる。何度目の死の時だったろうか。串刺しにされて、火あぶりにされた。自分を信仰していたものたちもすべて、殺された。
場面は変わる。どこまでも続くガイコツの野を歩いている。かしゃかしゃと骨が砕ける音の中を、ただ歩いている。これはかつて、自分が屠った敵のなれ果て。
延々と、死が続いていく。生きる限り、ずっと、同じような光景は続いていく。
それでもおれは、生きるのか。多くのものを犠牲にして、生きながらえるのか。
「そうとも。おれは死と共に歩むもの。死を受け入れ、進むものだ」
「ええ、王サマ。偉大なる我が主」
「こんなものを見せても無駄だ」
「くすくす。焦らないで。
10年。
100年。
1000年。
死が繰り返され、死が積み上げられていく。
1万年。10万年。それはセブンがこの精神世界で体感している時間。しかし、現実世界では数分も経過していない。常人ならばとっくに発狂しているだろう。彼は死の中をずっと歩き続けている。
夢と認識しているものの、すべてまやかしと知っているものの、延々と続くこの悪夢は、少しずつ、少しずつ、セブンの心を蝕んでいった。
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