第122話 夢魔

 特に異変は感じられない。ただただ、町を行き交う人々は皆、目の下にクマをつくっていて、その表情は暗かった。


「夜なんだぜ。おれは夜の町で何か起きてないか見てくる。あとは若いおふたりさんでごゆっくりー」

「お、おい。オレも行く」

「おめぇらは寝てろ寝てろ。おれはすげー頑張れば眠れるけど、基本的にゃ眠れねぇんだ。だから、悪夢の方は任せるぜ」

「ちっ。仕方ねーな。そのまま帰るんじゃねーぞ」

「へいへい」

 セブンはそそくさと部屋を後にした。


 ──沈黙。

 やっぱり気まずい。

 何を話していいものかわからなかった。


「ねぇ、ジャンくん」

「んだよ。オレはもう寝る」

「そう言わないでさ。ねぇ、ジャンくん。あたしたち、やり直さない?」

「はあ? ふざけてんのかてめえ」

 カミュが、ジャンの寝ているベッドにきしっと腰をかける。


「あたしにちゃんと寄り添ってくれたのは、ジャンくんだけだったんだ。あれから誰と付き合っても、ジャンくんみたいに優しくしてくれなかった」

「あ? オレ、おめぇに優しくしたことあったかよ。ただの幼稚なガキだったろ。なんもしてやらなかったしな」

「あたし、ジャンくんの優しさに気づかなかったんだ。今になって、あの時の時間がとても幸せだったことを知ったんだ。だから……ね」


 カミュが服を脱ぐ。

 そして、その顔が迫る。

「ジャンくん。抱いて。おねがい」

「……ああ。いいぜ」

「うれし──ぐ……う?」



 ジャンの槍が、カミュの胸を貫いた。



「下手な芝居打つんじゃねーよ。誰だてめぇは。どこから入れ替わってた……いや違うな。。そうだな」

「……あーあ。せっかくおいしくおやつを頂こうと思ったのに」

 カミュがその姿を変える。悪魔の角、蝙蝠のような翼を生やし、正体を現した。

「【夢魔】だな。この槍で貫いても平気なとこみると、実体は別にあるな」

「くすくすくす。そうよ」

「おめぇの目的はなんだ」

「目的はア・ナ・タ……じゃないの。残念ね」

「セブンか」

「そう。あの方はあたしの愛する王。愛しすぎて愛しすぎて、バラバラにしちゃったくらい。その王が帰ってきたっていうじゃない。また会いたくて、この町をエサにおびき寄せたのよ」

「あいつが王? 骨の王か? しかしあいつもいろんな知り合いがいるんだな」

「正直アナタのことはどうでもいいのだけれど、その槍……すっごく危険なのよね。あたしでは持てないし、使い手は始末するしかないかしらね」

「あ? やんのかこら」

「くすくす。その怖い槍に正面からかかっていくわけないじゃない。せいぜい楽しい楽しい悪夢ゆめを楽しんで頂戴」

 夢魔の姿が、消えた。



 そしてジャンは……『あの場所』に立っていた。



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