第20章 ナイトメア
第121話 またこの二人。そしてもう一人。
「で。なんでまたてめーと組まなきゃいけねぇんだよおれは」
【黒死の魔女】の一件が終わってまだそう経っていないというのに。セブンはげんなりした。
「【黒死】が発現したのにも関わらず、被害を『最小限』で食い止めた功績を買ってのことだとよ。オレとおめぇ、名指しでご指名だ」
ジャンもウンザリしながら言う。
そう。これはまた闇ギルドからの依頼だった。
「あれを最小限……ねぇ」
確かに、【黒死の魔女】自体による被害はほぼなかったと言えるだろう。しかしあのネルガルのせいで、雪の王国はかなりの被害を受けてしまっていた。
「まー、報酬はたんまりもらったけどもよー。けどおれ、金もらっても使うことねぇんだよな、あんまり」
「派手に使えばいいだろ。オレだって、これからもてめぇガイコツと組まされるんじゃないかと思うとうんざりいているんだぜー」
「ふむふむなになに……かわいい女の子がよかったか。ドロップに言うぞ」
「やめてくれ」
「あら? かわいい女の子ってあたしのことかしら。呼んだ?」
二人は同時に振り向いた。
「誰だ?」
「さぁ」
赤い長髪の女性が、ジャンを蹴飛ばした。
「あんたは知ってるでしょーが、あたしのこと!」
「あっ……カミュじゃねーか。久しぶりだな。ちっ」
「舌打ちしたなこの」
カミュと呼ばれた女性は、ジャンをげしげしと蹴りまくった。
「仲がいいみてーだな。それじゃおれはこれで失礼するんだぜ!」
「いやまてまてまて。オレをこの怪力狂暴女とふたりきりにするな」
「そのかっこいい鎧の人、ジャンくんの新しい【パートナー】さん?」
「かっこいいか、アレ? ってこんなやつ【パートナー】じゃねー! 今は基本的には冒険者一本でやってんだオレは」
「じゃあなんでまた闇ギルドの依頼なんか……ま、いっか。あたし、カミュ。闇ギルドに所属する可憐な女戦士よ! 普段は中央都市にはいないんだけどね。よろしくね、鎧の人!」
「お、おお。おれはセブンだぜ! ちなみにこういったもんです」
セブンは兜の面をパカッと開けた。直後にカミュの拳が飛ぶ。そしてセブンのガイコツの頭も兜ごと飛ぶ。
「あ! びっくりして、つい!」
「いやいや、いい反射神経してるんだぜ! これはもう、おれの力は必要ないみたいだから帰るんだぜ!」
セブンは頭を拾い、そそくさとその場から退散しようとした。それをジャンが阻む。
「オーケー、ジャン。その槍をおろすんだ。刺さってもおれ、たぶん死なないけど、死ぬほど痛いとおもう」
「……わかったら一緒に来い。この女とふたりきりなんて不安しかねえ」
「元彼女にずいぶんな言い草ねー」
「元彼女! オマエ、彼女いたことあんだな! これはドロップに報告だな」
「やめろって……ってかなんだそれ。メモ帳か?」
「おう! ドロップが帰ってきた時に見せようと思ってな。このおまえに関するメモを」
「だからおめぇ、やめろよなそういうの。まだショックから立ち直れてねぇんだぞオレは」
「ドロップって誰? 誰なの、ねぇ。おねえさん気になるな♪」
「おねえさんって年じゃねぇだろもう……うげっ」
ジャンの腹部にカミュの拳がめり込んだ。魔力で防御していなかったら肋骨が砕けていただろう、間違いなく。
「いってー! 相変わらずの暴力女だな。しかしなんでおまえもここに来たんだ。闇ギルドの連中からオレたちの監視でも命じられたか?」
「んーん。久しぶりにジャンくんに会いたくなって、きちゃった♪」
「きちゃった♪ じゃねぇよ、うぜー。そんなこと思ってもいねぇくせに」
「会いたかったよ、ずっと」
「え」
やっぱ帰りてーなー。セブンはどうにかして帰れないか、隙を伺うのであった。
ちなみに。
カミュはジャンの”恩人”であり、吸血鬼ハンターの師でもあった。
行き場を失いボロボロになって死にかけていたジャンを助け、中央都市に連れていき、彼を冒険者として、またハンターとして鍛え上げた。闇ギルドに属すれば、吸血鬼の情報も入ってきやすいと勧めたのもまた彼女である。
「で、なんやかんやあって恋仲になったんだな、ふーん」
セブンがかったるそうに言った。
「すげー興味なさそう……」
「そうそう。つい、手をだしちゃった♪ 今はこんなんだけど、昔はかわいかったんだよ、ジャンくん」
「へー。想像もできねえ。で、なんで別れたんだ」
「オレが捨てられたんだよ。『他に好きな人ができちゃった、てへ☆』ってな」
「まあ……いいところを探すのが難しそうな男だからな、おまえ」
「いちいちうるせぇんだよ……」
そんな二人を見て、カミュがくすくすと笑う。
「仲がいいんだね」
「仲がいいかどうかは知れんけども、キャラが被って困ってはいる」
「被ってねぇよ。少なくともおめぇは人の皮も被ってねぇし。そういや新しく付き合ったなんとかってやつとはうまくやってんのかよ」
「別れたよ」
「はあ? なんか運命の人見つけちゃったーとか喜んでたのにか」
「なんで別れたか聞きたい? 聞きたい?」
「興味ねーからいーよもう。それよかそろそろつくぞ」
目的地が見えてきた。
「あれが、悪夢に浸食されたっていう町か」
数週間前。
この町の住人たち全員が【悪夢】を見始めたのだという。毎夜訪れる悪夢は、住人たちの神経を衰弱させていった。
【夢魔】の仕業ではないかというのが闇ギルドの見解である。しかし、それにしては規模が大きい。新たな【災厄】の可能性もあるため、ジャンとセブンに調査依頼が舞い込んだのであった。
「フツーの夢魔なら、オレの破魔の槍で簡単にやっつけられるんだけどな」
「そうだよ。おれ必要ねーじゃん。よし、帰るか」
「なんでそんなに帰りたがるんだよおめぇはよ」
「宿屋の部屋とれたよ。みんな同室だけど、よかったよね?」
「おれは遠慮するんだぜ!」
「おま。こいつとふたりにするんじゃねー。気まずいだろうが」
「気まずいんだ」
わちゃわちゃしながら、三人は宿屋の部屋へと向かった。
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