白銀の闘鬼

 どこからともなく出した巨大なハンマーを軽々と振り回し、モンスターを叩き潰す。返り血に染まったアイリスさんの姿を見て、僕は硬直してしまっていた。

 身の丈以上ある白銀のハンマーも、モンスターの血を受けて鈍く、ぬらりと光っている。アイリスさんは高く跳びあがると、次のモンスターを弾き飛ばした。モンスターは変な形になって、ぐしゃりと音を立てて地面に落ちると、黒く霧散していった。


「あはは~! アレンちゃん、ひいてるひいてる~! びっくりするよね、アイリスの闘う姿! 二つ名【白銀の闘鬼】っていうんだよ。うけるねー!」

 エクレールがけたけたと笑う。

 闘う姿はまさに鬼神の如き。しかし、鬼というにはあまりにも──美しい。どうしてだろう。とても恐ろしくおぞましい光景なのに惹かれてしまうのは。

 アイリスさんは表情一つ変えることなく、次々と敵を屠る。


「アレンちゃん、ぼーっとしてないで! 他のモンスターが来る!」

「あ、はい!」

「ってヤバ! サイクロプスじゃん! なんでこんなところに!」


 ずん。


 重い一歩を踏み出し、単眼の巨人が咆哮した。

 サイクロプス。もちろんお目にかかるのは初めてのことだ。

 青い岩のような肌。僕の五倍はある体躯。丸太のような腕をぐるんぐるんと振り回し、一歩ずつ僕たちに迫ってくる。

 ふと、なぜかゴッツさんの姿を僕は思い浮かべていた。あの人に鍛えてもらった時のことを思い出したからだ。

「ちょっとだけ本気だす」といって僕をぼこぼこにした時の圧力は、このサイクロプス以上だった。だから僕は、このモンスターを前に委縮することはない。もちろん、勝ち目があるかどうかはまた別の話だ。


 しかし、こいつの弱点はわかりやすい。

「エクレール、ちょっといい」

「なぁに、アレンちゃん。あぁん」

 僕は小さなエクレールに耳打ちをすると、彼女は変な声を漏らした。彼女……と表現したけれど、見た目からそう言っただけで、基本的に精霊に性別はなかったと思う。


「目のつけどころがいいね、アレンちゃん! それじゃ、いっくよ~!」

 エクレールはまばゆく輝くと、一瞬でサイクロプスの目の前まで移動した。

「ぴっか~!」

 エクレールの輝きが一段と強くなる。

「グアァァァッ!!」

 サイクロプスが重低音の声で絶叫する。

 サイクロプスは手で大きな単眼を覆い、膝をついた。視界を奪われたサイクロプスはしばらく行動できないだろう。というかあれだけの光を受けたら失明していてもおかしくはない。


「アレンちゃん、とどめささなくていいの? あいつ黒焦げにしてやれるけど、たぶん」

「……まだ、力は温存しておいて。その力だって、無限じゃない。そうだろ?」

 エクレールは目を丸くしてしぱしぱと瞬いた。そしてにっこりと笑う。

「そう。ワタシの魔力は契約者であるアイリスに依存してるわ。使いすぎるとアイリスの負担になるし、敵はまだまだいる。いい判断よ、アレンちゃん」

 何より、エクレールの力がなければ僕はモンスターをやっつけることができない。

 温存しつつ、最大限の効率を。


 ギリギリの状況は、続く。

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