VS ヘルハウンド

 ヘルハウンドにまた遭遇することを想定し、僕は対策をしてきた。一度あることは二度ある。まさかこんなに早く、再び遭遇することになるなんて思わなかったけれど。

 ヘルハウンドに匹敵するモンスターが複数出てきた場合も想定はしていた。想定はしていたものの、僕にはそれを切り抜ける手段が想像できなかった。手持ちのアイテムをすべて使ったとしても確実にやられてしまうだろう。実力が足りなすぎる。


 ──つまりは。

 【上級冒険者】であるアイリスさん頼みということだ。僕は最大限にサポートに回る。それが唯一の手段であり、生き残れる可能性だ。


「エクレールっ!」

 急にアイリスさんが大きな声をあげた。

 アイリスさんの持っていたランタンから、光の玉が飛び出してくる。その光は小さな人の姿を象る。

「はぁいアイリス。久々のピンチね~」

「のんきに言ってないで、その人を守って! こいつら相手にアレンさんを守り切れる自信がない!」

「ふぅん。あら、けっこうイイ男ね~」

 妖精?

 まばゆい光をばちばちと散らしながら、僕の周りを飛び回る。


「アレンちゃんっていうのね。はじめまして、アタシ、エクレール! 雷の精霊よ!」

「え、あ、はい。はじめまして……よろしくお願いします」

「あらぁ、礼儀正しくて素敵ね! あ。アイリスの家の執事さんに似てる! 道理でかっこいい!」

「エクレールっ!! ちゃんと働きなさいこの枯れ専!」

「はいはーい」


 音を置き去りにして閃光が奔る。それは雷そのものだった。

 雷はヘルハウンドを焼いていく。光が弾ける。

 精霊……初めて見た。なんてすごい力なんだろう。


「く~っ! このイヌの毛皮、雷に耐性あるじゃん! これ無理! むりむりむ~り~!」

 雷の精霊エクレールはあっさりとあきらめてしまった。

 

 ふと、硫黄の臭いが漂ってきた。

 

 ……これは。

 ヘルハウンド。それは地獄の番犬と呼ばれるモンスター。硫黄のような臭いの高熱の炎を吐き、見た者や触れた者を死に至らしめる。

 つまり、この後ヘルハウンドは僕たちを焼き殺す炎を噴き出すということだ。

 ヘルハウンドは大きな口を開けた。


 その瞬間を待っていた。本当にヘルハウンドが炎を吐くかどうかはわからなかったけれど、あの硫黄の臭いで確信できた。だから、身体は動いた。

 これが、唯一の勝機。僕はその口めがけて、あるアイテムを投げ込んだ。ヘルハウンドはそれを飲み込むと、苦しそうに炎を吐き散らし、そして『凍った』。


「ちゃ~んす! 砕け散れオラァっ!」

 エクレールが怒声と共に雷を放つ。凍りついたヘルハンドは砕け、その欠片は黒く霧散していった。


 一瞬の静寂。

 ……まさかこんなに上手くいくなんて。


「アレンちゃん、すっご~い! 勇気あるね!」

「いや……エクレールのおかげだよ」

「えへへ。それほどでもあるけど!」

 実際、僕が調合したあのアイテムでヘルハウンドを凍らせられる時間はせいぜい数秒程度だっただろう。エクレールが倒してくれていなければ、僕は数秒後に焼き尽くされていたはずだった。


「それにすごいアイテムだね~。中央都市か何かで仕入れたモノ?」

「いや、これは僕が……」


 ガンッ! という凄まじい音に僕たちは振り返った。


「あ、アイリスさんっ!」


 僕はアイリスさんの姿を見て、唖然とするのであった。

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