第47話 友
目が覚めると、隣に……あ、よかった。いない。
頭がぐるぐるして気持ち悪い。
ここは、どこだろう。あれ。僕は、誰だっけ。
「アレンぢゃああぁぁああああん! うええええん! すぐに見つけてあげられなくてごべんねぇぇぇ!」
涙でぐしゃぐしゃのエクレールが僕の顔に飛び込んでくる。べちゃべちゃだ。
ん? エクレール。そう、この子はエクレール。
アレン?
そうだ。僕の名前。
「アレン……ちゃん? どうしたの?」
「……あ、う、ん。ちょっと、記憶が……ぼんやりとしてる、みたい」
「あ、アタシのこと、覚えてるよね!? ねぇ、アレンちゃん! アタシのことわすれないでぇぇぇ!」
「エクレール、泣かないで。大丈夫。大丈夫だから」
「よかっだよぉぉぉぉおおお」
大泣きしているエクレールを見ていたら、だんだんと頭がはっきりとしてきた。
そうだ。レッドドラゴンの討伐を手伝いに行くんだっけ。違う。えっと、レッドドラゴンにやられた……あのエルフの女性、そうだ。セレナさんを追いかけて……。
「そうだ! セレナさんは!? 大丈夫なの!?」
「あんな女のことはどうでもいいのよ! ぷんぷん!」
「この通り、無事だ」
ガチャリ、とドアを開けて部屋に入ってきたのは、そのセレナさんだった。
「よかった……。無事だったんですね」
「ああ。あの後、ドラゴンバスターズの皆が来てくれた。エクレールが先導してくれたらしい」
「うん……ずっと、アレンちゃんのマナとは繋がっているのに全然たどり着けなくて。でも、急に見つけられたんだ」
「あのアルラウネ……魔石が消滅したからだろう」
「魔石が、消滅? あ、そうか。セレナさんが倒してくれたんですね、黒いアルラウネ」
「いや。倒したのはアレン。あなただ」
「──僕が?」
雷の魔法で? アイテムクリエイションの力……は違うか。調合できるアイテムもなかったし。
「記憶障害……あれだけ強大な力を使った代償か。しかし、症状は軽いようだな。直にすべてを思い出すだろう」
「強大な、力……。うーん……駄目だ、全然思い出せない。でも、セレナさんが無事でよかった」
僕がそう言うと、セレナさんは突然、その場で跪いた。
「アレン。これまでの非礼、この通り詫びる。すまない」
「え!? ちょ、やめてくださいセレナさん。僕は別になんとも」
「あなたのその姿勢、尊敬に値する。わたしは……こんなにも弱く、脆い自分を情けなく思う。愚かなわたしを許してくれるか」
「許すもなにも……はい、許します、許しますからどうか顔を上げてください」
僕は困ってしまう。
「……あなたは心の広い人だ。ありがとう」
まるで、別人のようだ。一体何があって、どうしたというのだろう。エクレールもきょとんとしている。
「可能であれば……あなたを、友、と呼んでよいだろうか」
「あ、え? 僕なんかがセレナさんの友達でいいんですか?」
「もちろんだ」
「そ、そうですか。それでは……ぜひ」
セレナさんが笑った。まばゆい。
「アレン。今日からあなたはわたしの友だ。これからも至らぬわたしを導いてくれ」
僕はセレナさんが差し出してきた手を、おそるおそる握った。あ、やわらかい。なんてやさしい、ぬくもり。
「はい! おーしーまーい! アレンちゃんが友達っていうなら、アタシも友達だからね! いい!?」
エクレールが絡む。そんなエクレールを見て、セレナさんがまた笑う。優しい表情だ。
「もちろんだ。よろしくな、エクレール」
「……むぅ。ま、いっか! よろしくね、セレナちゃん!」
「セレナちゃん……か。なんだか新鮮だな。ふふっ」
そこに割って入ってくる人がいた。
「アレンさーん!!! よかったー! わーん! あばばばb」
飛び込んできたシータさんに向かって、エクレールの電撃がとんだ。
「あいたた……もう! 本当に危なかったのよ! あと1分でも解毒魔法が遅れていたら、死んじゃっ……死……うええええぇえええん」
「さわがしい。アレンはまだ病み上がりだ。休ませてやるんだ。いくぞ」
「あ、そんな……アレンさん! アレンさーーーーん」
シータさんは セレナさんにずるずると引きずられていった。正直助かる。
僕は再び、ベッドに横たわる。
「アレンちゃん、ゆっくり休んでてね。アタシ、何か食べ物お願いしてくるから」
僕は目を閉じる。
もう少し。もう少し休んだけだら、帰ろう。僕の居場所へ。そして、みんなと冒険しよう。今度はどんな冒険が待っているだろうか。
僕は生きている喜びを噛みしめ、また眠りに落ちていくのであった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
暗い森。
黒いマナが集まり、形を成す。
『……危ない危ない。もう少しで完全に消滅するところだった。あのニンゲン……ますます欲しくなっちまったねえ。おや』
アルラウネは、気配を見上げる。
──ズン。
真紅の山が、落ちてくる。
『は。は……なんだって……ここに、アンタが』
レッドドラゴン【ルビー】の紅い瞳が燃えている。
ドラゴンは口を大きく開けた。そして、炎が──。
その日。
ある森が地図上からその名を、消した。
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